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第4話 成人の儀



成人の儀の会場である教会はローゼンハイツ領の領都であるローゼンシュタットの中央にある大広場に面した一等地にある。そこでは、辺境伯家の庇護下にある下級貴族で成人を迎える者がいる一族以外にも祝いに来ている貴族が多くかなりの人で賑わっている。



そして、儀式が始まる前に合流しようと急いで礼拝堂に入ると祭壇に最も近い席に

おられることがわかり、近づくとお嬢様にユアさんが控えているのを見て、

ジェスタ様のお傍に控える。


「ジェスタ様、無事馬車を預けてまいりました。」

「ご苦労様、しばらく待機でいいよ。来年は君の番だからよく見ておくといい。」

「はい。ありがとうございます。」




スキルはそれまでに積み重ねてきたことや生まれなどが関係しており、

貴族などの環境に恵まれた者は、その立場に見合ったスキルが必要になるということや、

今スキルがなくとも自らの努力次第では、増えたり大きく変化することがあることなどが司祭様のお話からわかった。


ふと、前に座られているお嬢様を視界に入れると、その普段とは全く異なるちいさな背中に、自信を取り戻してもらおうとお嬢様の耳元で「ルー姉ぽっくないですよ、そのような自信のない態度は」とささやく。


それにビクッと反応されたお嬢様が振り返る前に、「お嬢様の番が来ましたよ。」と言って、うやむやにする。


「言われなくてもわかるわよ」とお嬢様は少し嬉しそうな表情を浮かべると祭壇の

前まで進んで、水晶玉に手を添えた。


するとお嬢様は無事スキルを授かることができたようで、安堵のため息を吐かれた。


その後は、お屋敷で記念パーティーが開かれ、旦那様がいつも通りお嬢様にデレデレ

されておられる。

旦那様の口癖は「娘の結婚相手はパパに決まっている!」です。






記念パーティーが終わり、お屋敷の中の明かりが消され、警備担当の者以外が

寝静まった時間帯。

その闇にちいさな人影がその暗闇に舞うのは、赤い髪。

そして、そのちいさな人影が、ある部屋の扉の前で、立ち止まる。



一度息を整えると目の前の扉をノックしようとする。

その細い指が何重にも塗り重ねられたことで頑強な塗装となった固い木製の扉に

触れる直前、その部屋の主であろう人の声が聞こえてくる。



「ルース、そのまま入ってきなさい。」といつもの優しく陽気な雰囲気ではなく、

辺境伯家の当主としての経験から生み出されただろう重い雰囲気の言葉がルースの耳に響く。

その言葉に従いノックしようとした手をそのまま、ドアノブに手をかけることにして、

外開きの扉を開き中に入る。



声の主である父が執務机に向かって座り、何かの資料を見ているのが翡翠色の瞳に映る。

そしてその背後に、サエルが控えているのを見てサエルも知っている側なのねと理解する。

「今朝のお約束の通りきました。これで、お話していただけるのですね?」

真剣なまなざしを父へ向ける。


「ああ、もちろんするとも。だが、その前にそこの子猫を部屋に入れてあげないとね。」

すると、さっき開いた扉が開き、ユアが姿を現す。

「盗み聞きはよくないからね。まあ、元々ルースを呼べばついてくると思っていたから

不問にするよ。」


呆れ顔の父を見ながら、ユアの気配に気づかなかったことに内心悔しく思う。


反省などしていない普段と変わらぬ無表情でユアが気だるげに言う。

「わかっているならいい…はやく話を始めて。」

その態度に誰も反応せず、父が続ける。



「仰せの通りに話を始めようか。なぜ私がいつもアルを同じ食卓に誘うのか、

それは、今から話すが、誰にも言ってはいけないよ。このことだけは絶対に守ってもらう。」

父が私とユアの二人を順番に目で追い、了承を求める。

「ええ、父上がそこまで言うことですもの、誰にも明かさないことを約束致しますわ。」



ユアは当然と言いたげな表情で、「私は口が固いから問題ない…」


父はその返答に頷きで返し、再開する。


「単刀直入に言おう。アルには、我々ローゼンハイツ家の血が流れているのだ。

私には妹がいたことは知っているだろう?」と問いかけてくる。


「裏山にある、花々で常に彩られたお墓の方ですよね?」

「ああ、そうだ。妹のサレスティアは、すでにこの世にいない。

ティアが嫁いだ家は、モンスターの大規模な群れにその領ごと侵略され、

あとかたもなく消滅したことまでは、昔教えたが、その時の出来事にひとつ

教えていなかったことがある。ティアが唯一設けた子供。

そのこどもこそがアルであった。

もちろん古参の家臣には、知っているものがいるがその者らにも秘密に

してもらうことを了承してもらっている。だから、ほとんどの者の認識が

アルの親はここにいるサエルとその妻になっている。」



アルに私と同じ血が流れていることに驚き、言葉がでない。

その横でユアは冷静に問う。

「アルの出自にそこまで厳重な隠蔽をする理由は何?」



その質問に頷き、当時を振りかえるようなそぶりで語る。

「あの当時、更地と化した領土に隣り合う家々が、その土地を手に入れる口実として、

当主に連なる家系の生き残りを躍起になって捜索していた。

そのような者たちにまだ生後一か月のアルを渡したらどのような扱いを受けるか

わからなかったのだ。だから、アルをサエルの子として扱うことで安全な暮らしを

確保できると信じ、今までそうしてきた。これからもアルは、サエルの子であることは

変わらぬ。」と言い切ると立ち上がり私の肩にそっと手を置いてくる。

「これからもアルにたくさんわがままを言いなさい。アルは喜んでこなしてくれるさ」


それに対して、自身満々に胸を張り、

「当然よ!アルは私の執事なのだから」という言葉を最後にその集まりは解散となった。





ルースが退出した後の部屋でサエルが意見を述べる。

「本当のことは言わなくてよろしかったのですか?

来年の成人の儀でどうせわかってしまうことでしょうに」

ジェスタは難しい顔で答える。

「あと一年、この平和な生活をさせてやりたいという私のわがままだ……」

「そう…ルースに教えるっていうからてっきり本当のことを言うと思ったのに…」

「ふふ、ユアにはまだまだルースとアルのことを守ってくれると信じているよ。」

「当然のこと…。でも私の正体がばれないようにそっちも配慮して…」

「もちろんとも、サエルも頼んだぞ。」




成人の儀の夜にしては重い空気が一部の者に流れた。

そんなことを知らない当の本人であるアルは一日の終わりにする日課の筋トレを終えて就寝していた。




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