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第61話 国南端の教会にて

 夏の巡行は少しだけ快適になった。

 馬車が軒並み新型になっていたおかげである。

 思った以上にあの新型馬車、好評らしい。

「一度これに変わったらもう前の馬車は乗りたくなくなりますからね」

とは途中の御者の弁である。

 確かに御者担当にとって乗り心地の違いはかなり重要だろう。

 何せ長距離便の御者担当はほぼ1日馬車に乗っているのだ。 

 実際客として乗っていてかなり違う。

 衝撃が直に来ないだけでももう天国と地獄くらいの差だ。


 ただ俺達が各所でこき使われる事には変わりない。

 ちなみに巡行は年2回で今回の夏は南部中心、次の冬は北部中心である。

 何だよ快適性を考えれば逆だろうと思うのだけれど、病害対策等を考えると悲しいかなこの方が効率的なのだ。

 今はネーブル、ナープラ、バルトロと半島の東側海岸沿いの街を巡ってカラバーラの街に向かっているところ。

 この辺はこの国がある半島の最南端に近い。


 そう言えばクロエちゃんの出身地はここから歩いて1日の処だったな。

 俺達は病人の手当てをしたり畑を見たりでここまで6日かかった。

 でもクロエちゃんは休みが始まってすぐ出て真っ直ぐここに向かった筈。

 今頃はとっくに実家についているだろう。

 1年以上ぶりだけれどうまくやっているかな。

 実家だから心配いらないよな。

 そんな事を思いながら馬車に揺られている。


 馬車は街に入った。

 この街は初めてだが明るくて綺麗な街だ。

 家々はそれぞれそう大きくはないけれど白い壁とオレンジの屋根瓦が明るい印象を受ける。

 馬車は快調に走って石造りのそこそこ古い建物の前に止まった。

 どうやらここが教会らしい。

 他の街の教会と違って古くてもボロではない。

 かなりしっかり掃除やメンテナンスをしているようだ。

「それじゃ馬車は農場に回しますから使徒様達はここで降りて下さい」

「どうもありがとうございました」

 馬車を降りて教会の建物の中へ。

 

 入ってすぐに俺は気づいた。

 俺の現状認識能力がある匂いを捉えている。

 この国でははじめての匂いだ。

「何なのですか、この匂いは」

 イザベルはこれが何の匂いかはわからない模様。

 でも俺はこの匂いを知っている。

 実際には嗅覚が使えないから情報として知覚しているだけなのだけれど。


「使徒様とイザベル司教補様、ようこそいらっしゃいました。私は教会長代理を務めておりますキアラ司祭長です。よろしくお願いいたします」

 入ってすぐの受付席にいた40代の女性がこちらへ頭を下げる。

「こちらこそお世話になります」

 一礼して、そして早速聞いてみる。

「ところでこの匂い、虫避けの匂いですか」

「ええ、ご存じでしたか。ここの領主であるスリワラ家が今夏から売り出した虫避け香です。これを炊いておくと蚊や蠅が近づかないので便利なのですよ。まだ生産数が少ないからこの地方しか出ていないそうですけれど。

 それでは本日の部屋にご案内しましょう。ずっと一日馬車でお疲れでしょうから。こちらになります」

 キアラ司祭長について歩きながら思う。

 やはりイザベル、領主と知り合いだったかと。

 蚊取り線香の方は上手くいっている模様だ。

 これなら来年にはもっと大々的に売り出せるだろう。

 

 ◇◇◇


 ここカラバーラの教会は全部の部門を含めても20人位しかいないそうだ。

 元々の人員配置の半数が孤児院と救護院で、残りのうち施療院が5名、教会が事務含めて3名、残りが農業と畜産業。

 そのうち孤児院と救護院が国の担当になったので一気に人員が減ったらしい。

 救護院院長が地区司教で孤児院院長が副地区長だったのだが彼女達も施設の移管に伴い身分が国扱いになった。

 故にキアラ司祭長が代理を務めている状態だそうだ。

 ただ規模が小さい分雰囲気がアットホームな雰囲気。

 食事中は静かにという慣習は最初の頃の改革で撤廃した。

 そのせいか食事中も会話が弾む。


「そう言えばこの前クロエが帰ってきたけれど学校ではどうですか」

「無茶苦茶楽しそうなのですよ。勉強はもうトップクラスですし作業も大変助かっているのです」

 イザベルの弟子というか子分化しているけれどな。

 まあどっちもそれで楽しそうだからいいのだけれど。

「あの子は学校に行きたがっていたからねえ」

「でもクロエの家はここから遠いですよね。どうやってクロエが学校に行きたがっている事を知ったんですか」

「あの辺には施療院が無いから週に1度巡回しているんです。その時によくお手伝いをしてくれたのがあの子でね。何でも好奇心旺盛で治療の施術だの道具だの何でも色々知りたがって」

 ん?


「巡回治療もしているんですか」

「ここは担当区域が広いけれど施療院や教会が少ないです。なので施療院のうち2人はこの辺一帯を巡回している形になります。今週も出ていますよ。1週かけて村を5つ回って帰ってくる形です」

「何か色々申し訳無いのです。失礼ですが運営費とかは大丈夫なのですか」

「ここは領主様も住民の皆さんも生命の神(セドナ)教団に好意的でね。結構援助もあるし割と何とかなっています」

「そう言えばこの教会もなかなか立派だし綺麗ですよね」

「住民の方が年に1回修復と大掃除をしてくれるんですよ」

 色々地域に根ざした感じでいい教会だなと思う。

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