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第50話 親バカ達の暴走

「参考までに以前もスコラダ大司教がらみで何かあったのですか」

 つい好奇心で俺はそんな事を聞いてみる。

 ソーフィア大司教は深い深いため息をひとつついた。


「大爆発したのは3度目で、私まで火の粉が飛んできたのは他に1回ですね。

 生命の神(セドナ)教団も十年くらい前はあまりいい組織では無かったのですよ。収入が少ないなりに私腹を肥やしたりする者もいて。それをまだ司教補だったスコラダが下級専従員や信徒を団結させて追い払ったんです。

 そうしたら事務部門、特に会計部門を総括する本部担当が根こそぎいなくなって、困ったスコラダが当時国王庁の地方税事務所にいた私を無理矢理引っ張ったんです。『頼む、他に出来そうな人を私は知らない。やり甲斐がある仕事であることは保証する』って。

 確かにやり甲斐はある仕事でしたけれどね」


 今までの話からして気になることがある。

「大司教はかなり以前からスコラダ大司教とお知り合いだったんですか」

 ソーフィア大司教は頷く。

「高等学校時代の『法の真偽員』受験サークルであの人の2年後輩でした」

 つまりソーフィア大司教も関係者ほぼ全員と顔見知りという事か。

 では次の質問だ。


「参考までに大爆発したあと1回とは?」

「15年位前の司法制度改革ですね。あれも火種はスコラダです」

 確かその改革で司法権は行政から完全に独立したんだよな。

 全ての審判を法の真偽員がやるようになって、貴族等の世襲高級官僚が審判実務一切から追い出されたんだった。

 つまりはまあ、改革というか革命というかそういうものの大ベテランという訳か。

 そしてソーフィア大司教を含めて昔からの知り合いで関係者全員同窓生と。

 考えてみると確かにこの国の場合はそういった事は起こりうる。

 何せ高等教育機関が数えるほどしか無い。

 しかも国政や官僚関係だと事実上学閥は王立アネイア高等学校くらい。

 それにしても何だかなあという感じだ。


「それでスコラダ大司教本人はどうしていらっしゃいますか」

 それくらいイザベルを心配しているなら帰った時に出迎えにでも来そうなものだ。

 でも実際に出迎えたのはスコラダ大司教を除く大司教3名以下の皆さんだった。

 ソーフィア大司教、またしてもため息をついてから説明してくれる。

スコラダ(あの人)は面倒な性格でして。全てが終わって怒りのエネルギーが切れると途端に自分がやらかした事が恥ずかしくて耐えられなくなるのです。おそらくあと3日は自室から出てこないと思います。体調不良という事にして一応食事は運ばせています」

 確かに面倒くさい性格だなそれは。

 それはそれで状況は理解した。


「わかったのです。それでは明日の午後にでもスコラダ大司教の自室に押しかけてみるのです」

「そうですね。それがいいでしょう」

 ソーフィア大司教はイザベルに頷いた。

「ああ見えてもイザベルの事を本気で心配していたのは確かです。あと国王陛下もですよ。色々あってあまり貴方に直接関われない事を嘆いていたそうですから。イザベル(あなた)が王家を出て教団に入った時は、『私はイザベルに捨てられた!』と本気で落ち込んだそうですし。今回の騒動の性急さと規模の大きさはアンベールとスコラダ、2人の怒りそのものだと思っていいと思います」


 親バカと親バカもどきによって大改革が始まってしまった訳か。

 イザベルはどう思っているだろう。

『家からは完全に縁を切られた』とか『逃げて逃げまくった』と言っていたから。

 今のイザベルの表情を見たいと思った。

 ただ現状認識は視覚そのものではない。

 だから表情が物語るものまでは感じられない。

 無論現状認識をもっと使えばイザベルの表層思考くらいは読めるだろう。

 でもそこまでする気は無い。

 それはプライベートな領域だから。


 いずれにせよ状況は大体わかった。

 想像以上に何だかなあという状況だけれども。

「どうもありがとうございました」

 イザベルとソーフィア大司教の私室を辞す。


「何か色々恥ずいのですよ」

 イザベルが歩きながらぽつりとそうつぶやいた。

「大丈夫だ。どこぞの大司教は恥ずかしさのあまり部屋に籠もっていらっしゃる」

「私もちょっと引きこもりたいのです」

「引きこもると顔を出すタイミングを失うぞ」

「うう、残念ながらその通りなのです」

 そんな事を話しながら歩き、私室の前でイザベルと別れる。


 その夜、夕食の後。

 俺の私室の扉がノックされた。

「はい」

「済まないが少しいいだろうか」

 スコラダ大司教の声だった。

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