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第14話 開発の苦労

 俺は開発という名の教団改革ばかりしている訳ではない。

 これでも一応生命の神(セドナ)教団のトップである使徒なのだ。

 決裁や承認事務は大司教の皆さんにお任せするにしても、使徒らしい事はしなければならない。


 例えば毎週5の曜日、朝に行われる説法である。

 ここで20分程ありがたいお話をしなければならないのだ。

 幸い俺には優秀な補佐がついている。

 でも紙を読み上げるだけでは有難くないので、前日までにはイメトレをしながら文面を覚える必要があるのだ。


 あとは同じく5の曜日の午後、教団本部の施療院巡回。

 ここ本部の施療院は特に治療が難しい患者が送られてくる。

 それを使徒の施術で治療して回る訳だ。


 更に他部門からの相談等もある。

 基本的には文書で受けて文書で回答するのだが、中には直接俺が出向くべき事案もある訳だ。

 例えば作物に不明な病気が流行りつつあるとか。


 ただそんな感じでも開発業務はすすめなければならない。

 しかも今回のファミレス計画は決めなければならない事項がかなり多いのだ。

 ドリンクバーの時は容器と最小限のメニュー、店の場所を決めれば済んだ。

 でもファミレスを営業させるためにはより多くの事を考えなければならない。

 勿論現代日本のようにメニューを多種類作るつもりはない。

 その時間帯で選べるのはせいぜい3~5種類程度で充分。

 それでも何もない処から色々開発するのは結構大変だ。


 そんな訳で俺の補佐をあと2人出してもらった。

 まずは店舗の外観・内装含めたデザインと建築計画関係。

 事業部統括のスコラダ大司教に、『高級そうな建物や建具、家具等をデザインできそうな若い優秀なのを寄越してくれ』と頼んだ。

 結果やってきたのは教団建築事業部のグロリア司祭長。

 髪の長い御嬢様的雰囲気の22歳女性である。

 彼女が最初にこの部屋に来た時の反応が少し変だった。

 正確にはイザベルを見た瞬間の反応が変だったのである。


「な、何故イザベル様がこちらにいらっしゃるのでしょうか」

 使徒である俺よりイザベルの存在に慄いているというか何というか。

「世の中には色々あるのですよ。それにここはなかなか楽しい場所なのです」

 イザベルはイザベルでそんな感じ。

 ただ実力は確からしい。

「グロリア司祭長なら問題ないと思うのですよ。偽物ではなく本物の高級というものをよく知っている人なのです」

 イザベルがそう断言するなら大丈夫だろう。

 そんな訳で店の外見やら内部、テーブル等のデザインまで彼女に任せている。

 無論俺達も確認はするけれど。


 そしてメニュー開発担当の補佐も推薦してもらった。

 ロレッタ司祭長、20歳の女性で貴族出身である。

 そんな訳で俺以外キレイどころが何か集まってしまった。

 まあ1人はちびっ子だけれどな。


 何故若い女性、それも貴族出身がここのチームに集まってしまったのか。

 理由は簡単である。

 貴族の子女なんてのは滅多な処には嫁にやれない。

 お家の都合とか跡取り問題とか色々出てくるからである。

 男ならまだ軍あたりで一花咲かせるなんて事もあるが女だとそうもいかない。

 しかも貴族だとお家の事情とか権力抗争とか色々あったりもする。

 そんな様々な事情で色々行き場がなくなった場合の最終処分場が様々な教団という訳だ。


 そんな貴族出身の専従者は往々にして優秀だ。

 小さい頃から色々教育を受けているから。

 しかも出身の貴族家があるのでおいそれと僻地とか貧民街担当とかに飛ばせない。

 自然本部とかに居つくわけである。

 でも元が貴族なので基本まわりから少し浮いている。

 そこへ高級っぽい事を知っている奴を寄越せなんて頼んだ訳だ。

 そんな訳で来るのが貴族出身女性ばかりというのはまあ、確率的に正しい結果。

 決して俺が選んだんじゃないぞ。


 メニュー開発があるので開発場所は以前麦芽糖や味噌を作った農場付近の小部屋が中心になる。

 そして始めるのが美食大会。

 店の場所を探したりデザインを考えたりする中、主に俺とロレッタでメニュー候補になる食事を作りまくる。


「本日の試食は鴨のメインディッシュです。

 その1は鴨肉照り焼き。その2はロースト風、ソースは2種類用意しましたので食べ比べて下さい。その3は鴨肉を揚げたものでソースこれもソースは2種類比べてもらって。最後は鴨肉冷製、これはソース3種類作ったのでよろしくお願いします。

 あと付け合わせも各種作りましたので、選んでいただけると幸いです」

 そんな感じで三食ともに教団の標準を通り越した料理が並ぶ。

 一緒に食べるパンすらも特製だ。

 更にドリンクやデザートまで開発している。


「凄く美味しいのですが、教団のいつもの食事に戻れるか不安なのですよ」

「イザベル様、それは言わない約束ですわ」

「冷静に評価をお願いいたします」

 ぶっちゃけどれも美味しい。

 こんなの出して採算とれるのかと疑いたくなる程だ。

 でも実際には原価率は3割程度でなんとかなる計算。

 教団が大規模農業生産者で材料費が安いのもあるけれど。

 実は今回、コスト関係はかなり綿密に計算している。

 それは俺が水面下である計画を立てているからだ。

 この辺はここのスタッフには勿論、大司教方にもきちんと了解を得ている。

 もちろん大司教方の説得にはイザベルのお世話になったけれど。

 この裏計画がうまくいくかも、今後の事業の成否に大いに関わっているのだ。


 勿論他の作業も色々進んでいる。

 レストランの場所は既に押さえた。

 教団本部からそう遠くない王都アネイア。

 商業街から少し離れた、そこそこの住宅街のやや外れに近い場所である。

 住宅街の外れと言っても住民層は悪くない。

 いわゆるアッパーミドル階級の皆さまが主に住んでいるような地域だ。

 昨日から工事も始まった。

 内装もテーブルや椅子の生産も始まっている。

 制服もお揃いのエプロンを被服部で制作してもらっている状況だ。


 あと1月もしないうちに開業の予定。

 今度は一見さんがそれほど来る場所ではないので宣伝のポスティングもする。

 開店当日はお試しとしてビーフシチューセットと油淋鴨セットをそれぞれ正銅貨5枚(500円)で提供予定。

 さてこの作戦は成功するか。

 そして試食にめげずに開店日まで俺達の体重は維持できるか。

 楽しみである。

 

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