第13話 次はファミレスだ!
ドリンクスタンド計画の件は報告書を書いて大司教方に提出した。
勿論報告書を書いたのはイザベルである。
こいつが書くと事実と事実の間に教団の教えとかをさりげなく混ぜてくれるのだ。
結果として教学的に正しく説得力ある報告書が出来上がる。
そういう意味でも得難い存在だ。
こいつを補佐につけてくれたソーフィア大司教にはもう感謝しかない。
感謝ついでにドリンクスタンド事業とその後の展開はソーフィア大司教に丸投げさせてもらった。
「あの大司教は能面面ですが処理能力は高いので問題ないのです」
そんな恩知らずの我が補佐役の意見に従ってである。
さて、身軽になった処で次の改革を考えよう。
実はこれにも既に私案は考えてある。
「イザベル司教補。俺が使徒として生まれ変わる前の世界にオーベルジュという施設があったんだが、どんなものだと思う」
「そんなのわかる訳がないのですよ」
彼女の意見はいつも大体正しい。
「まあ端折って言うとお泊りが出来るレストランというか、料理を食べる事が主目的の小規模だが洒落たホテルといった感じかな」
「それって単にそれだけじゃないのですよね、きっと」
補佐殿は相変わらず鋭い。
「ああ。将来的にはゆっくり病気を治しながら自然や料理を楽しめる療養型病院施設に発展させる事も考えている」
イザベルには隠し事をするより正直に話した方がいい。
そうすればこいつなりに色々考えてより良く計画を修正してくれるからだ。
「結局生命の神教団の一番の持ち駒は病気治療だと思うんだ。ただいきなり高級病院を作るとなると教団内の反対も多いだろうし、金持ちの客もすぐ来てくれるとは思えない。何せ貧乏教団で通っているからな、うちの教団は」
「そこでまず美味しい食事を出すという評判を作って、それから高級療養施設に持ち込む予定なのですね。方法論としては全くもって正しいと思うのです。いずれは大金持ちをターゲットにしないと本格的な収益改善にはならないのです」
うんうん、イザベルはほぼ説明なしで全部理解してくれる。
「でもいきなり高級料理はなかなか大変だと思うのです。まずは一般に教団直営店が美味しいという評判を広めてからの方がいいと思うのです」
なるほど、それもそうだ。
「まずはそこそこレベルの教団直営店を作って、教団の作る料理は美味しいという評判を広げるのです。それが出来てから高級路線を展開した方が色々安全なのです」
うんうん、確かに。
そうすると狙うべきは広まり始めた頃のファミレスと思えばいいのかな。
そこそこ本格っぽい料理を手の届く値段でという感じに。
そうなるとだ。
「ならこんな感じでいいのか。店はそこそこ高級っぽいけれど入りやすそうな感じで。何ならメニューと代金を書いたものを外に設置してもいい。中は一般人の感じるちょっと上級な感じという事で。席数は100席程度。6人席中心で2人席も作って1人から6人様まで使えるようにする。メニューは教団産食材を中心にメインとパン類とサラダ、デザートという感じでコースよりは簡略だけれどちょいリッチな感じ。単価は1人だいたい小銀貨2枚程度までって感じでさ」
「なかなかいい線だと思うのですよ」
イザベルは頷く。
「でも客単価はもう少し低めの方がいいのです。6人家族で正銀貨1枚を超えるとなかなか来てくれないと思うのです。それより安ければたまの贅沢にはいいか位に思ってくれると思うのです。あと昼は単価低めの単品メニューを出した方がいいと思うのです」
なるほど、ここの方が家族の平均人数が多いからその分安めにすると。
そしてランチタイムメニューも作るべきだと。
了解だ。
「それにしても何処からそんな案を、それも金額だの席数だのまで考えて出してくるのかが謎なのです。ひょっとして生命の神の使徒のふりをした商売の神の使徒ではないかと思ってしまうのです」
なぬっ。
確かに最近は営利活動を重視しているけれどさ。
「一応これでも召喚されて最初の方は畑の殺虫消毒等、それらしい仕事も色々やったんだけれどな」
補佐殿はにやりと笑う。
「私としては使徒様がどんな神の使徒でもかまわないのです。結果としてこの生命の神教団がより良くなってくれれば、商売の神の使徒であろうとも闇の神の使徒であろうとも全くもって問題ないのです」
おい、それでいいのか。
お前これでも生命の神教団の高級神官である司教補様だろ。
まあいかにもイザベルらしい意見だなとは思うけれど。
そんな感じで次の計画がスタートする。




