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第10話 俺、後悔するかもしれない

「ところでイザベル司教補、折り入って頼みがある」

 見かけちびっ子だけれどやはり女子に改まってお願いするのは緊張する。

 今まで業務上の事は気軽に言い合っていたのに。

「何なのでしょうか。簡潔に言って頂けるとありがたいのですよ」

 彼女はいつもの調子だ。

 俺は緊張しまくりだけれども。


「教本関係については今日で一段落だ。本当なら明日にはイザベル司教補をソーフィア大司教の下に返さなければならない」

「理屈上はそうですよね」

 イザベルは相変わらずだ。

 緊張している俺が馬鹿みたいだが、かといって気楽に出来る話でもない。

 少なくとも俺にとっては。


「だが俺の教団改革はまだまだ始まったばかりだ。やらなければならない事は山ほどある。でも正直俺一人ではどこまで出来るか自信は無い。力も能力も足りない」

 この辺は昨晩考えた台詞通りだ。


「必要な能力は教団幹部に対して改革内容を説得させられるだけの教学の知識。この国の事物に関する知識。それらを活用できる思考力だ。俺が今まで教団で接した中でこれらの能力を兼ね備えているのは今の処一人しかいない」

 半ばお世辞のように聞こえるかもしれないがこれは俺の実感だ。

 実際イザベルがいなければ教本や今日の説教はここまでうまく出来なかった。

「だから出来れば今後もイザベルの力を借りたい。勿論イザベルが嫌だと言うならば諦めるけれど。どうだろうか」


「いいのですよ。既にソーフィア大司教にもそれは頼まれているのです」

 思ったよりあっさりとそんな返事が返ってくる。

 えっ、いいの? 本当に?

 そう言いたくなる俺。

 イザベルはニヤリと笑う。


「正直な処今回の仕事はなかなか面白かったのです。それに知識を活用する面白さも味わわせてもらったのです。これを味わうとただ知識を集積・分類するだけの図書館業務に戻れなくなるのです」

 えっ、あれっ?


「それに組織を陰で操る事には少し憧れていたのです。黒幕とかフィクサーとかになる機会なんて滅多にないのです。これを逃す手はないのです」

 おいおい人選間違ったかな、俺。

 何かとんでもない悪役を生んでしまったかもしれないぞ。

 俺は今までの過程を振り返ってみようとする、が……


「そんな訳で決定なのです。以後も補佐役のイザベル司祭補をよろしくお願いするのです」

 ああ、決定されてしまった。

 後日これが最大の反省点とか致命傷とかにならなければいいのだけれども。


「さて、差し当たっては営利活動なのですか。あえて奉仕活動から始めるのですか」

 しかもこいつ、頭がいい。

 俺がやろうとしている事を既に先回りして察知してやがる。

 ええい仕方ない。

 サイは投げられ、ルビコン川も渡ってしまった。

 あとはブルータスお前もかと言うまで突っ走るだけだ。

 いやいや殺されてどうする俺。

 教団改革をして今度こそ生を全うするんだ。

 出来れば前世分まで幸せに。

 そんな訳で俺は補佐役のイザベルに新たな指示というか目標を与える。


「次に向かうのは営利活動だ。育てた作物をそのまま飢えた者に与えたら作物分しか救えない。しかし商売をすれば稼いだ分余分に救う事が出来る」

「おまけに美味しいものを売れば買った人々に生の喜びの一つを与えられるのですよ。これぞ生命の神(セドナ)の恵みなのです」

 ああ、こいつ、わかっている。

 俺がやろうとしている事を分かり過ぎる程わかっていらっしゃる。

 油断も隙も無いけれど味方としてなら非常に優秀で頼りになる存在だ。

 頼りになり過ぎて俺の方が傀儡化しないだろうか。

 そんな恐れもあるけれど。


「とりあえず最初は簡単な立ち売り売店程度の店でいい。それならあまり金もかからないからな。売るものもごく簡単でかつ他にないものにしよう。例えば夕食で出したあのプルンプルンの冷たいデザートとか、あの甘味料を使った冷たくて甘くて美味しい飲み物等だ。飲んだり食べたりした時に生命の神(セドナ)の恵みを感じて、教団への喜捨を喜んで払ってくれるようなそんなものの開発」

「喜捨と共に生命の神(セドナ)教団を身近に考えてもらえるようになれば一歩前進なのです。何なら教団のイメージがもっと明るく身近になるような作戦も考えるとより効果的だと思うのです。目指すは皆様の生命の神(セドナ)教団。レッツ、ゴーなのです」

 そうか、身近に感じられるようにするのも有効か。

 そんな感じで俺達の次のプロジェクトが始まろうとしていた。

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