プロローグ
他サイトで連載中の『全て信心の賜物です ~貧乏宗教の使徒として召喚されてしまった!~』のリダイン版です。内容はほぼ同一で細かい修正がちょこちょこ入っている程度です。
他サイトでの公開日時にあわせ、途中までは章単位で掲載します。他サイトでの公開に追いついた後は1日1話更新、128話+プロローグ+エピローグで完結予定です。
あなたは神を信じますか。
少なくとも前世の俺は断固として『いいえ』と答えるだろう。
ただ今の俺は違う。
俺は実体験した事は信じる主義。
そして無神論者だった俺としては大変不本意な事なのだが、神という存在の一柱に出会ってしまったのだ。
事は前世に遡る。
当時の俺は社畜・メンヘラ経由泥沼行き特急の乗客だった。
ぶっちゃけて言うと社畜やり過ぎてうつ病とパニック障害を併発。
休職期間を得ても回復できず自主退職という名目で職場を去り、妻にも逃げられた訳だ。
子供はいない。
両親ともに他界していて兄弟姉妹のいない一人っ子だ。
なのでそのままアパートで動けずに食事をする元気もなく、そのままチーンとなってしまった。
どうせあの状態から復活することは不可能に近い。
だからまあ、仕方ない結末だったなあと思うしかない。
だがそこからがちょっと違ったのだ。
俺が目覚めたのはやけに明るい場所だった。
眩しすぎて周りが良く見えない位だ。
『意識が戻りましたでしょうか』
そんな意味の何かが聞こえた。
声とは違う。
そういう意味そのものが感じられたという感じだ。
視線をやろうとするが、聞こえた方向は眩しくて見る事が出来ない。
ふと気づく。
よく見えない訳ではなく、何もないのだ。
そもそも俺の身体が無い。
両手両足も感覚はあるのだが見えない。
というか俺の姿そのものが無い。
何だこれは。
しかもこの空間、見えるものは光以外何もない。
何が何でどうしてどうなった!
『まず経緯を説明させていただきましょう』
そんな台詞? とともに意味の羅列としか言いようのないモノが俺の意識を襲う。
一瞬後、俺は全てを理解していた。
俺は死んだ。
死んで意識が消え去る処をより高次の存在に拾われた。
そうして今、その存在の前にいる。
大体においてそんな感じだ。
『何故貴方は私をここに連れて来たんだ?』
再び意味の羅列が俺に経緯を説明する。
目の前のこれは別世界で神と呼ばれるような存在の一柱らしい。
向こうの人間には生命の神として認識されているようだ。
しかし最近、他の神におされて信者の数が減っている。
それで俺に神の使徒となって信者数を増やして欲しいとの事らしい。
厳密には信者数を増やすだけでなく、信者の生活を豊かにしてほしいとか色々な概念も含まれているのだけれども。
『何故貴方の信徒を使徒としないで俺を使徒にしようと思ったんだ?』
これも意味の塊が送られてきて理解した。
自分には信者が考えたり欲したりしている事が意味として伝わりにくい。
存在次元が違うからその辺の意思疎通が出来ないそうだ。
故に信徒の意見を吸い上げ神の力を行使する為、使徒を人間世界へと送り込む。
しかし何度か信徒を使徒としたがあまり効果が見られなかったそうだ。
故に別の知識や発想を持っている、信者と同レベルだが違う世界の存在である俺を使徒としようと判断したらしい。
それだけなら何なんだと思うだけだ。
だが俺にはこの存在に何となく好意を抱いた。
神だし高次の存在なのだけれども。
信仰というよりあくまで好意だ。
何というか俺に求めた信徒や人間へ求めるものに好意を抱いたのだ。
例えるなら不器用だけれど優しいペットの飼い主。
ペットに対してどう接すればいいのかよくわかっていないが愛情だけはたっぷりという感じの。
そんな雰囲気が目の前の存在とのやり取りで感じられたのだ。
『お願いしていいでしょうか』
そんな意志が伝わってくる。
死ぬ前の俺だったら何もしたくないと答えただろう。
何せうつ病で飯を食う気力すらなかった位だ。
でも今の俺は頭の回転が以前に戻っていた。
うつ病になる前の割と好奇心旺盛で色々やりたがりだった頃に。
思考速度も完全に一番調子がいい時に戻っているようだ。
これも目の前の存在の仕業らしい。
いいだろう。
俺も目の前の存在が気に入った。
生命の神という次元の違う存在だけれども。
この気に入ったというのも神による操作かもしれない。
それでもいい。
俺はやる気になっていた。