飛鳥組道場内の出来事 2
竜は無言で置かれたお握りを手に取り、一口頬張ると、正面に座る流にチラリと視線を流す。
その表情は、少し疲れているように見受けられる。
仕方がないと言えば、仕方がないのだろうが、彼女がこれ程憔悴しているのは初めて見るから、なんと言えばいいのか分らない。
二つ目のお握りに手を付けながら、竜は頭を捻っていた。
すると、正面から小さな笑い声。
笑いを噛み殺しているのか、流の肩が小刻みに震えている。
「そ、そんなに、気にしなくて、いいよっ。」
顔を赤くして、右手で口元を押さえ、左手で気にするなと手を振る。
どうやら思考がバレていたようである。
何とも恥ずかしい事だ。
流は、一頻り笑って落ち着いたのか、一息つくと話し始めた。
「あたしも、昴も、諦めてる。コレが運命だと。」
その"運命"と言う単語が、物悲しく胸に響いた。
不意に湧き上がる感情に、竜は思った。
―――嗚呼、昔の自分も"運命"と諦めて、あいつと向かい合ったんだ…。
だけど、と思う。
全てをその言葉で片付けるのは簡単だ。
だが、片付けてはならないと思い直す。
今までは、それで良かったのかもしれない。
しかし、自分達はそうしてはいけないのだ。
何故なら、自分達の代が、全ての明暗を分ける世代だからだ。
「あのさ、流。」
「ん、何?」
竜の顔付きは、真剣そのもの。
あまりの剣幕に、流が少し動揺する。
「あいつ等とは、殺し合う事は必要なのかな。」
「え…?」
「これ…。」
胸に手を当て、何かを引っ張り出すような仕草をし、握り込んだ手を開けば、光の球体が浮かんでいた。
「姫さんから預かったんだ…。兄貴を…カノープスを救えって…。」
「姫…ポラリス様から?そんな…あのお方は初代の時から、姫様は宮殿で深い眠りについてる筈…。」
「俺、思ったんだよね。確かに、あいつ等とは敵同士なのかもしれない。でもさ、元はそうじゃなくて、一緒に時間を過ごしてた仲間なんだよ。……殺し合うなんて、悲しすぎる。」
球体を握り込めば、それは光のチリとなって大気に消えた。
流自体も、それは考えた。
が、それは所詮絵空事。
「何度も転生をしてきた。」
不意に、竜を包み込む空気が、不安定なものから凛と澄んだものへと変化した。
流の腰のマークが鈍く痛みを訴えた。
胸が高鳴る。
「終結は、誰かの血で齎すものじゃない。皆の手で掴み取るものなんだよ。」
「王…。」
強い光を宿すその目は、まさに“獅子の王”を彷彿させた。
「決めた!」
叫び、勢い良く立ち上がる。
その勢いに驚き、流の肩が少し跳ねた。
「と、竜?」
「俺は千鶴と戦わない!打倒カノープスだぁ!!!!」
拳を振り上げて大宣言。
先程の“獅子の王”の空気は何処へやら。
あまりの変わりように、流は付いていけない状態。
その時。
「それは困る。」
聞いた事のない男の声が、道場内に響いた。