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飛鳥組道場内の出来事 1

□    □    □




飛鳥組内にある道場。


「さて、準備はいいかい?」


仁王立ちする女の楽しそうな声が響いた。

正面に座る竜は恐縮した様子で正座をしていた。


「ごめんね、仁科姉さん。」


流が女の隣で正座をして苦笑を漏らす。

女は、流を見て微笑んだ。


「気にする事はない。竜はシゴキ甲斐があるからね。」


彼女の名は、野々山仁科(ノノヤマ ニシナ)

二十五歳の株式会社の三代目女社長である。

そして、金牛宮の光の主、大地を属性とする牡牛座の光の騎士である。


「シナ嬢…お手柔らかにぃ…。」


竜が言えば、少しの間の後、仁科の口元がニヤリと持ち上がった。

竜を襲ったのは、何とも言えない恐怖である。


「まずは、お前の記憶を完全に呼び起こさなくちゃいけない。」

「記憶…。」

「全部だ。初代から、先代までの記憶全てだ。」


仁科の眼光が強く光り輝く。


「八代分の記憶は重い。特に、お前とチーが辿って来た道は、あたし達の比にならない程辛い。」


千鶴の名に、竜の胸が苦しくなる。

何故、こんなに苦しくなるのか分からない。

ただ、早く思い出さなければならないと気持ちが逸る。

それが表情に出ていたのか、仁科の表情が苦笑を漏らした。


「焦るんじゃないよ。少しずつで良いんだ。力を覚醒させていけば、記憶は蘇って来る。」


仁科が、竜の頭をぽんぽん、と優しく撫でる。

少し照れ臭くて、俯いて小さく頷けば、「可愛い!」と叫んだ仁科が抱き付き、竜の顔はEカップの胸に埋まった。

耳まで真っ赤である。

その様子に、仁科は更に萌えてしまったようで、竜の頭を撫で続けている。

見兼ねた流が止めに入って、漸く修行が開始されたのだった。





□    □    □





「じゃ、お疲れ。また二日後ね。」


何とも爽やかに飛鳥組を去って行った仁科。

にこやかに手を振る流。

打って変わってボロボロの竜は、床と仲良くなっている。

青痣や血の滲む擦り傷が痛々しい。


「大丈夫?」


言葉の割りに、笑いを含んだ流の声に、震えながら手を上げてどうにか答える。

仁科の強さは比にならず、喧嘩慣れしている竜が手も足も出ない状況だった。

大人と赤ん坊と言っても過言ではないくらい、力の差が歴然としていた。


「仁科姉さんは、あたしたちの記憶が蘇る前から、闇の騎士と度々手合わせしてるからね。力の使い方は、かなり上だよ。それに、空手の師範だから。」

「師範…忘れてたぜ…。」


ゴロンと仰向けになり、天井を見上げる。

流が近くに座り、何かを開ける動作をしたが、消毒液の臭いで救急箱だと分かる。

そっと液を吸い込んだコットンボールを口元の傷口に当てられ、薬が沁みる感覚に表情を歪めた。

彼女が、本気で構えてない事は、直ぐに分かった。

本気にさせようと躍起になって、逆に伸された。

悔しさより、自分の不甲斐無さが先立ち、泣きたい衝動に駆られる。


「竜、泣きたいなら泣きなよ…。きっと、これから先…そんな余裕なんて無くなるよ…。」


優しい声が、更に泣きたくさせる。

しかし、流の言う通りだとも思った。

瞼を閉じれば、涙が流れ落ちた。

見られたくないから、必死に右腕を上げて顔を隠したけれど。











泣きながら、竜は千鶴の事を思っていた。





□    □    □




月が空に昇りきった時間帯。

竜は、一人で道場内に居た。

色々考えた。



まずは、流の提案。

彼女曰く。


「…一人じゃ、まともに生活出来ないんだから、これから家に泊まればいいわ。え?いくら幼馴染でも、ですって?ふふ、竜は父さんに気に入られてるから大丈夫よ。」


一応、承諾を得られるか、組長である流の父親に話しをすれば、快諾してくれた。

何とも複雑な感じである。



次に、記憶。

自分が今思い出している事を整理してみる。


始めに、騎士は十二星座で、それぞれの星に宮殿を所有している事。

次に、光の騎士は"エクウィティ"、闇の騎士は"オルディネ"と呼び名が分かれている事。

自分は、北極星の姫【ポラリス】を守る光の騎士だと言う事。

“獅子の王”と呼ばれ、光の“獅子座騎士(レオーネ・エクウィティ)”で、光の騎士のトップだと言う事。

自分の半身とも言える、闇の騎士のトップで“獅子の君”と呼ばれる闇の“獅子座騎士(レオーネ・オルディネ)”と殺し合った事。


「あと…。」


と呟いてハッとする。


初代の“獅子座騎士(レオーネ・エクウィティ)”は、“獅子座騎士(レオーネ・オルディネ)”と恋人同士だったと言う事を思い出す。


つまり、過去の自分は、過去の千鶴と恋人だったと言う事。





―――アイシテルヨ、トオルチャン…





突如蘇った千鶴の声と言葉に、思考が停止する。

動悸が激しくなるのは、過去の自分の記憶だけなのか、それとも…―――。

思い至った事に、一人真っ赤に染まると、ゴロゴロと床を転げ回った。


「何してるの?」


呆れた流の声が響き、竜の動きがピタリと止まる。

もそもそと起き上がり、出入り口に目をやれば、お握りを乗せたお盆を持って立つ流が、こちらを見ていた。

気まずくて、「コンバンワ。」と言ってみるも、無言しか返って来ない。

流の冷たい視線が突き刺さる。


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