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南極星の宮殿にて。

□    □    □




そこは星が数多煌く宮殿。

蓮の花が浮かぶ大きな池が見渡せる大広間。

テラスのサンデッキチェアに身を横たえ、瞼を閉じているのは千鶴だ。

一筋の涙が頬を伝い、ゆっくりと瞼が開かれる。

視界に入ったのは、地球で見るよりも遥かに巨大な月。

千鶴は、数回瞬きをすると、上半身を起こし、自分の体をきつく抱き締めた。


「竜…。」


腕に残る、思いの外細い体の感触と温もり。

貧弱なのではなく、無駄な筋肉を纏わぬ体。

そして、想像していたよりも高かった体温。

込み上げて来たのは、切ないまでの愛しさ。

憎しみで手に掛けた訳ではない。

思い出す度に発狂しそうな記憶が、千鶴を苛んで行く。


彼が、“魂の記憶”を思い出したのは一年前。

十六歳の時。

何が引き金になったのかは、全く思い出せない。

ただ、思い出した時、彼は病院のベッドの上で、沢山の機械に繋がれていた。

口元には酸素マスク。

腕には点滴。

その物々しさから、自分が瀕死だったと言う事は察しが付いた。

不意に視界に入って来た真紅の髪に、目を奪われた。

そこに居たのは幼馴染の竜。

遥か昔から愛し続ける魂。


―――殺し合うのが宿命の相手。


それからと言うもの、彼は、己の本当の想いを隠し、幼馴染として過ごして来た。

そして、竜の十七の誕生日。

彼の力が覚醒すると定められた日。

幼馴染、友人、親友、理解者という立場を全て捨てた。


「…竜…。」

「捨てて来た過去を懐かしんでるのか?」


大理石の床をゆったりと歩く音と共に、聞き慣れた声が響いた。

振り返れば、苦笑を漏らしている庵が、「よ。」と右手を上げていた。







無言の空間。

一つのサンデッキチェアに背中合わせで座る千鶴と庵。

庵が吐き出すタバコの煙が、空気中に消えて行く。


「お前は、さ…。」

「ん〜?」


千鶴が、呟くように問い掛ければ、煙で輪を作っていた庵はやる気なく答えた。


「お前は…妹と対して…辛くねーの?」

「…辛い、が、俺の場合は、星座が違う。あいつは水瓶、俺は双子座。それが唯一の救いさ。」

「そうか…じゃ、昴さんは辛いな…。」


千鶴の言葉に、庵は何も言わなかった。

否、言えなかった。

同情した所で、何も変わらない。

千鶴も昴も立場は同じ。

二人にしか共有出来ない辛苦(もの)に、庵は口を挟めなかった。






(コレが、宿命…神様も酷い事しやがる…。)






胸の奥が微かに痛んだ。



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