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訪問

□    □    □





「失礼するわ。」


飛鳥組道場内に現れた蓮華。

突然の来訪者に、組む手を止めて唖然と入り口を見る竜と洸。

気にするでもなく茶を啜る流と雅。

蓮華に「よう。」と挨拶をしたのは仁科。

挨拶もそこそこに、全員が円になって道場の畳の間へと腰を下ろした。


「お久し振りです、仁科さん。」


蓮華が微笑み、仁科に言えば、仁科は溜息を付いた。


「あたしに会いに来た…って事は、連歌はあっちに行ったんだね…。」

「いえ、千鶴と言う方が迎えに来たので、あたしが送り出しました。」


突如出て来た名に、竜がピクリと反応を示した。


「彼等は?」

「ああ、あたし等の仲間だ。」


仁科は、蓮華に順番に紹介して行く。


「“水瓶座騎士(アックワーリオ・エクウィティ)”の宇崎雅。」

「っす。」

「“蟹座騎士(カンクロ・エクウィティ)”の保塚洸。」

「宜しゅう。」

「“天秤座騎士(ビランチャ・エクウィティ)”の飛鳥流。」

「宜しく。」

「そして…我ら光の騎士の頂点、“獅子座騎士(レオーネ・エクウィティ)”の鹿森竜。」

「こ、こんにちは。」


竜を紹介された途端、微笑んで対応していた蓮華の表情が、驚愕に様変わり。

竜の肩がビックゥ!と跳ねた。


「貴方が、“獅子の王”…。」

「あ、貴女が会った千鶴は…“獅子座騎士(レオーネ・オルディネ)”。俺の…片割れ。」


小さくなっていく声。


「大丈夫?」


そっと頭に手が触れた。

ふわりとほのかに香る甘い匂い。

視線を上げれば、蓮華が微笑んでいた。


「貴方は、あたし達の王だけど…あたし達以上に心が傷付きやすくて、脆いのね。優しい王だわ。」


優しい声音だ。

「でも…。」と言葉を続ける。


「その優しさが、命取りになる。その甘さ故に、大切なものをなくす。」


纏う空気、視線、声音。

全てが真剣なものへと変化する。

その真剣さに、竜の喉がゴクリと鳴る。


「ま、全ての元凶は、“獅子の王”でも“獅子の君”でもない。南極星の帝王…カノープスよ

。」


ふぅ、と息を吐き出し、元の位置へと戻る。


「これで、6人…。武彦と芽依の方もこちらに向かってるから、計8人の“エクウィティ”が目覚めている。」

(みなみ)ちゃん。」


仁科の言葉に付け足すように、雅が小さく呟いた。


「みなみ?」


竜が問い掛ければ、にこ、と微笑んだ。


「俺の幼馴染。池田陽(いけだ みなみ)。俺以上に天然さん。」


雅以上に天然…彼がかなりの天然故、彼以上を想像する事が難しい。

唸る竜と花を飛ばす雅に、周りは微笑ましく思う。

その時、全員の第六感が何かを捉えた。

全員の顔から笑みが消え去り、一斉に外へと飛び出す。


「こーんにーちは。」

「お〜、だいぶ揃ってるね〜。」


愉しそうな声が、上空から聞こえた。

竜が、流が聞き慣れた二つの声。


「千鶴…。」

「兄さん…!」


「ハロー。」と手を振るのは、千鶴と庵。

竜たちを見下ろすのは、“オルディネ”の面々。

千鶴、庵、そして保塚旭、山王日和、井端瀬蓮。


「こっちは、二人くらい来たくないって拒否っちゃってさ。」


千鶴が申し訳なさそうに言う。

居ないのは、朝比奈昴と菊池連歌だ。


「…何しに来た。」


自然と竜の声が低くなる。

それに答えたのは千鶴だ。


「宣戦布告?互いの騎士が12人揃ったとき、最後の闘いが始まるんだもん。」


同時に発せられる殺気。

竜たちの身へと襲い来る。

先頭に立っている竜の右側に流が、左側に雅が飛び出し、気合と共に上空に手を翳す。

見えない壁が重苦しい殺気を防ぐ。


「へー、いい反応。ねぇ、竜ちゃん。」


上空で胡坐を掻いて寛ぐ千鶴が、笑いを含んだ声で竜に話しかけた。

笑う表情は、狂気。


「“星座の騎士”全員が揃ったとき、世界の終末が始まる。」


冷たい声。

竜が今まで聞いた事のないその冷酷な声は、今までのどの代の千鶴も発した事が無い。



―――戻れないのか…?



不覚にも、涙が込み上げて来る。


「皆警戒してるみたいだけど…安心してよ。今日は挨拶に来ただけだから。」


よいしょ、と立ち上がり、“オルディネ”の面々に撤収するよう命じる。


「はぁ!?ざっけんな。俺は遊びてーんだけど!」


声を上げたのは山王日和。

その苛立ちの目は、同じ蟹座の洸へと注がれる。

洸もニィ…と口角を上げ、その身を僅かに屈める。

蟹座騎士(カンクロ・ナイト)”の好戦態勢に、千鶴は小さく息を吐き出した。


「駄目だってば。」


鋭い眼光が、日和を射抜く。

今にも飛び出しそうだった日和の体が、ピタッと静止した。

日和の背中を走った悪寒。

本能が「敵わない」と判断した。

舌打ちをし、「わぁったよ…。」と身を引くと、千鶴はにっこりと無邪気に笑う。


「ありがと、ヒヨリン。」

「ヒよ!?…っち。」


日和は一度だけ洸を見、ベッと舌を出すとその場から消え去った。

洸は、カチンと来たが、敢えて深追いはしなかった。

“オルディネ”が消え、千鶴だけが残る。


「じゃ…またね…。」


少しだけ切なそうな表情をし、手を振れば、その場から消えた。






堪え切れなかった涙が、竜の頬を流れて行った。

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