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さそり座の双子騎士

□    □    □




美しい顔がフラッシュにて真白に照らされる。

スタジオ内に流れるポップな曲は、美女の好きなアーティストの曲。

そして、彼女の双子の弟の歌声。

曲に合わせて踊る美しい黒髪。

桜色の唇が映える白い肌。

幼さ残る口元に浮かぶのは妖艶な笑み。


「はい、終わり。蓮華ちゃん、今日も良かったよ。」


カメラから顔を上げたのは、業界で一番の人気を誇る年配カメラマンだ。

年の割りに、心は若い。

今でも最前線でシャッターを切っている。


「今日もアリガト、謙さん。」


美女は、カメラ前の妖艶な笑顔と打って変わり、無邪気な笑みでカメラマン、野嶋謙(のじま けん)に今日の仕事の礼を述べた。

彼女の名は、菊池蓮華(きくち れんげ)

年は19。

ファッションモデルからショーモデルまで何でもこなす、幅広い年齢層に人気の在る女性だ。


「レンちゃん…今日も遅いかな…。」


携帯を見、着信及びメールがないのを確認し、落胆の息を吐き出した。

マネージャーの入江ユキが、蓮華のスケジュール手帳を捲りながら、小さく苦笑を漏らした。


「蓮華、そんなに心配しなくても大丈夫よ。」

「でも、レンちゃんからメール来てない…。」


パチパチと携帯を開いたり閉じたり。

スタイリストに髪を梳かれながら、小さく息を吐き出した。

野嶋のアシスタントと、入江が軽い打ち合わせを始めたが、それを気にする様子すらない。

アシスタントは入江に小さく耳打ちをした。


「あの、レンちゃんって?」

「ああ、君、まだ入って間もないのか。今掛かってる曲、あるでしょ?」

「あ、はい。今人気のバンド“lotus(ロータス)”ですよね。」

「ボーカル、彼女の弟なのよ。」


僅かな間をおいて、アシスタントが驚愕の声を上げた。


「ボーカル、REN。本名、菊池連歌(きくち れんが)。」


その時、蓮華の携帯に着信が入った。

メールのようだ。

沈んでいた蓮華の表情が、瞬く間に微笑みを見せた。


「噂をすれば、彼からの連絡のようね。」

「入江さん、レンちゃん今終わったって!」


子供のようなテンションの上がりように、周りもつられて笑みを浮かべる。

その時。


「ちわ。」


掛かっている曲と同じ声がスタジオ内に響く。

全てを魅了する美しい声。

顔を覗かせたのは、中性的な顔立ちをした、蓮華に似た青年。


「レンちゃん!?え、今終わったばっかじゃないの!?」


パタパタと駆け寄り、自分と同じ身長の弟を抱き締めた。

175cmの美しい姉弟に、皆、感嘆の眼差しを向ける。


「ココのスタジオだったから。」

「そうだったんだぁ…入江さん、帰って大丈夫?」

「ええ。連歌くん、7時に此処入りね。」


入江の言葉に、了解と手を上げると、姉弟はスタジオを後にした。


「姉弟って言うより………。」

「恋人同士ね。さて、明日も早いわ。お先でーす。」


入江は、アシスタントの後をサラリと言い流すと、スタジオから立ち去った。

同時にスタジオ内の片付けが始まった。





□    □    □





二人は、地下駐車場に置いてあるバイクへと歩いていた。


「こんにちは。」


連歌のバイクに腰を預けている男。

二人の歩みがピタリと止まる。


「誰…アンタ…。」


穏かだった連歌の表情が、一気に険しくなり、蓮華を背中に庇う。


「俺は、千鶴。その後ろの姉さんに用はない。用があるのはアンタだよ、菊池連歌さん。」


ふふ、と口角が持ち上がり、バイクから腰を上げた。

瞬きの間に、男…千鶴の顔が、真正面にあった。

千鶴の左手が、臍の下…下腹部を服越しに触れた。

驚き身を引こうとしたが、連歌の体は身動きが出来なかった。


「ちょっと、変態。人の弟に何するのよ。」


蓮華が、容赦なく千鶴の手を叩き落した。

千鶴の笑みが深まる。


「白々しいよ、“蠍座騎士(スコルピオーネ・エクウィティ)”の菊池蓮華さん。」


蓮華の目が、驚愕に見開かれたのは一瞬。

刹那の間に、妖艶な笑みを浮かべた。


「裏切り者に名を呼ばれる覚えなどないわ。」


姉の極端な変わりように、連歌は驚きの視線を向ける。


「アンタ、案外役者だね。弟くんビックリしてるよ?」

「別に役者な訳じゃないわ。二面性があるだけよ。」

「ふーん…弟くんの身に何かない限り、変わる事はないんだ。」


千鶴の愉しそうな声に、蓮華も笑った。

連歌は、そんな二人に異常さを感じる。


「ね、姉さん?」

「可愛いあたしのたった一人の肉親。」


蓮華と連歌の両親は、幼い頃、災害で他界した。

それからと言うものの、二人は親戚から援助を受けながら育った。


「貴方の目覚めは望んでいない…。だけど…目覚める事が貴方の…私たち“星座騎士(カンステレイション・ナイト)”の運命(さだめ)。」


蓮華は、そっと弟の体を抱き締めた。


「今も昔も…私の半身…“蠍座騎士(スコルピオーネ・オルディネ)”。」


耳元で蓮華の声が響いた瞬間、連歌の体内が強く脈打った。


「…良かったの?お姉さん。」

「良いも悪いも、いずれはこうなる運命だもの。覚悟する時間が少しでも長い方が良いわ…。」


そっと身を離し、連歌の背中をトンと押した。

連歌の体は力が抜け、簡単に体が傾ぐ。

千鶴はそっと連歌の体を抱き止めた。


「その子が狂う事は許さないわ。」

「…最初見たときは、お姉さんの方が発狂するかと思ったけど…。」

「女をなめない事ね。」


そう言いながらも、蓮華のその青い目は哀しみに揺れていた。

千鶴と連歌の姿が、蜃気楼のように揺らめき、その場から消えた。












「さよなら…愛しい連歌…シャウラ………。」










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