公園での会話。
□ □ □
竜、仁科は公園のベンチに腰掛け、雅と洸はジュースを買いに仁科にパシられていた。
「相当懐かれたね。」
笑いを噛み殺しながら言う仁科。
雅の事だと直ぐに解る。
彼は、竜の高校でも有名人だった。
何をするにも感情を伴わない『悪魔』として有名な不良。
竜は仁科の言葉に苦笑を漏らす。
「仕方ないっしょ、アレがあの子の本質だし。」
「ま、そうだけどね。」
まったりと日光浴をしていると、公園の入り口から二人の不良が四本の缶を持って現れた。
すると、柄の悪いお兄さん方が五名、二人に絡んで来た。
が、一蹴。
「つよ…。」
「そりゃそうだよ、あたしの舎弟だもの。」
「あー…じゃ、仕方ないですね。」
仁科の舎弟とあらば、喧嘩っ早くて強いのも頷ける。
雅の手にはブラックコーヒーと炭酸ジュース。
洸の手には微糖コーヒーとオレンジジュース。
「はい、あねさん。」
洸は微糖コーヒーを仁科に手渡した。
「王、どっちいく?」
「じゃ、コーヒーを…。」
雅がハイ、と差し出す。
無いはずの犬の尾が見えるのは、気のせいではないだろう。
雅と洸は少し離れたベンチに腰掛け、ジュースを飲みながらじゃんけんを始めた。
「なぁ、シナ嬢。さっきまで、瓦礫の山だったよな。」
「ああ。コレが、結界の役割なのさ。」
「結界…?」
「“エクウィティ”若しくは、“オルディネ”が指定した範囲に張り巡らされる見えない壁。部外者を寄せ付けない壁の内側は、異空間になってると言っても等しいか。結界内の人たちは、普通に生活してるのとなんら変わりはないが、実際はあたし達のせいで破壊されている。結界を解けば、何事も無かったように世界は時間を取り戻す。」
仁科は、カン…とプルタブを弾く。
竜としては、難しい内容の話である。
「基本的に、結界はあたし等“エクウィティ”が張る事が多い。“オルディネ”も張る事はあるが、そうないかな…。」
「なんで…?」
仁科は立ち上がり、入り口付近のゴミ箱に放り投げた。
結構な距離をものともせず、見事な弧を描き、ゴミ箱へと吸い込まれて行った。
「奴等は、この地球の崩壊を望んでる。結界を張るのは……ま、簡単に言えば、気まぐれ?」
―――崩壊を望んでる…。
仁科が告げた言葉が胸に響く。
「あいつも…千鶴も…望んでるのかな…。」
竜の言葉に、仁科は何も言えない。
それを見ていた雅が立ち上がり、声を上げた。
「望んでない、誰も。」
ぐしゃ、と缶を握りつぶした。
細い体のどこにその力があるのか、とツッコミを入れたくなるほど、缶を丸めた。
丸めた缶を思い切りゴミ箱に投げ、見事イン。
「望んでないって、どういう事だい?」
「言葉の通り。“オルディネ”の意思じゃない。北の姫様が嘆いてる。南の帝王が、闇の騎士の魂に呪いを掛けた。俺たちとは別の呪い。“オルディネ”、根性悪いけど、ホントは半身である“エクウィティ”と戦いたくない。でも、戦わなくちゃいけない。…きっと、俺たちよりも哀しい運命。」
ゴミ箱の方を見たまま、淡々と紡ぐ言葉。
どれもコレも初耳だった。
しかし、どれもコレも信じ難い。
何故なら、“オルディネ”は破壊を愉しんでいるように見える。
それを指摘すれば、雅が不機嫌そうな目で仁科を見つめた。
「だから、“根性悪い”。」
「ああ…なるへそ。」
竜も仁科も、なんとなく納得してしまった。