水瓶座のナイト 3
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「お前等は昔っからそうだ!意味も無く結界張り巡らして、関係の無い戦いをしやがる。ちったー成長を見せろ!」
水瓶座の騎士が地面に沈んだ後。
仁科は、鬼の形相で二人に正座するよう進言し、二人の正面に仁王立ちになり、その状態で20分近くの説教を続けている。
これは続く…と思いながら、ブロック塀に腰掛けた竜が周りを見渡せば、瓦礫の山。
死人が出てるのでは、と疑問を覚えるほどに悲惨な光景である。
その時、足元に誰かが膝を付いた。
茶色のツンツン頭の男。
その顔は、綺麗に整っている。
「初めまして。」
跪き、頭を下げる洸。
竜は驚愕の目を向けている。
対して、洸はなかなか顔を上げる事が出来ない。
目の前に居る青年が、自分達の王。
青年から溢れて来る力が、洸を圧倒して来る。
その美貌も直視する事が難しい。
美形は見慣れているつもりだったが、それの上を行く造形をしている。
「あー…と?ドチラさん?」
「“蟹座騎士”の保塚洸と言います。」
竜は少し考え、ああ、と声を上げた。
「蟹座の…アクベンスのか…。」
穏かな声で、初代の名を呼ばれハッと顔を上げれば、静かな微笑みに硬直してしまう。
それに気付いた仁科が、洸に歩み寄り、洸の頭を二度叩いた。
「戻って来い。竜、無駄にフェロモンを流してるんじゃない。」
「流したつもりは…。」
ない、と否定するが、仁科の後ろに居る青年が、子犬のように潤んだ目でこちらを見ている。
一瞬、竜の胸がキュンとなる。
「雅、もう良いからおいで。」
仁科が言えば、嬉しそうに破願して竜の足元に座り込んだ。
仁科と洸は呆れつつ、微笑んだ。
「竜、その子は“水瓶座騎士”の宇崎雅だ。」
「水瓶…サダルメリクか。」
ぽふ、と柔らかな髪の毛に右手を乗せれば、雅がはにかみ、竜の胸は更にキュン。
そういえば、と思い当たる。
水瓶座の“エクウィティ”は、“獅子の王”レグルスに対して正に犬のように従順だった。
そして、水瓶座の“オルディネ”は…。
(めっちゃ…睨んでますね。)
不穏な気配の先には、容赦なく竜を睨みつける男が一人。
正座をしている為、少し迫力に欠けるが…。
「アレは、“水瓶座騎士”の井端瀬蓮。周りからは、セイレーンと呼ばれてる。で、察しの通り、初代の時からお前を勝手に敵対視してやがる。」
面倒臭そうに説明をする仁科に対し、「やっぱり…。」とげんなりしてしまった竜。
王が大好きな“水瓶座騎士”、それが途轍もなく許せない“水瓶座騎士”、その理不尽な妬みに辟易する“獅子の王”。
昔からその構図に変わりは無いのが不思議な事である。
「ま、いいさ。雅!」
「あ?」
「近々、決着つけような…。」
寂しさの混じる瀬蓮の声。
小さな風と共に、その姿を消した。
振り向いていた雅の表情も、僅かに曇っている。
小さくパンと手を打つと、瞬時に瓦礫の山が元通り。
竜の目が点。
硬直である。
「結界消せば元通り。器物損害無い、人死なない。」
雅はいつもの無表情になると、竜の赤銅の目を見つめながら呟いた。
年下かと思いきや、雅の着ている制服の襟章から学年を読み取り、顔に出さないように驚いていた。
―――――同い年なんだ…。
と。