水瓶座のナイト 1
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―――キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴り響く放課後の校庭。
「みーやびー!」
同級生の呼び掛けに、金髪の青年が堂々とタバコを咥えたまま振り返った。
アシメパーマの髪がフワフワと揺れている。
その目には、無関心な色しか浮かんでいない。
着崩された制服は、不良そのもの。
彼の名は、宇崎雅、十七歳。
「あに、ヒポポタマス。」
「ぅえ!おれ、カバ!?」
ヒポポタマスと呼ばれた彼は、保塚洸。
コレでも、雅の一つ上である。
茶色の短い髪をワックスでツンツンに立てている。
「で?何。」
「これ。」
差し出したのは、ポラロイドの一枚の写真。
映し出されているのは、長い真紅の髪を一つに纏め、Tシャツを脱ぐ男の背中。
「………盗撮変態ヒポポタマス。」
「…もうさ、何からツッコミ入れるべき?」
そんな話をしながら、二人は裏門の方へと歩いて行く。
雅が、何かに気が付く。
そっと空いた手で気付いた場所に、指で触れた。
「これ…。」
「そうそう、俺が言いたかったのはそれな訳!おれ様得意の"念写"で盗撮…じゃなくて、撮影で出た訳。」
無表情だった雅の頬が、ほのかに綻んだ。
雅が見た写真は、竜の背中。
指でなぞったのは、獅子座のマーク。
その時。
「みーちゃん、ぽやってんな〜。」
裏門近くのパーキング。
前を通っていると、聞き慣れた男の声。
振り向けば、黒のアウディの運転席から顔を出して、「よっ。」と手を上げる天然金髪碧眼の男。
「セイレーン…。」
「…相変わらずね、みーちゃん。俺、人魚でもないし、召喚獣でもないよ?」
「人魚違う。セイレーン、海の“怪物”。ん、ピッタリ。」
無表情だが、嬉しそうな雅である。
セイレーンと言われた男。
井端瀬蓮、二十二歳。
雅の恋人でもある。
「何、その写真、“獅子の王”なんだ。」
「ん。背中、素敵。」
ぽやん、と微笑む雅に萌キュンしながら、瀬蓮は車から居りて雅の手元を覗き込んだ。
「お前、“オルディネ”。俺達“エクウィティ”の王の事なんて、関係ないじゃん。」
「や、あるある。なんてったって、みーちゃんの王様だし、俺らの王様が倒すべき存在だもん。」
―――パン!
「ちっ…。」
腹黒い笑みで、瀬蓮が言った瞬間、雅の拳が炸裂した。
が、それは、瀬蓮の手により頬に当たる事はなかった。
「死ね。」
風が舞い上がり、雅の髪や制服を巻き上げる。
瀬蓮の笑みが、更に深くなった。
「お前さんに討たれるほど、俺はひ弱じゃねーぜ?」
瀬蓮の周りにも風が巻き起こる。
「“水瓶座騎士”の名に於いて、お前を潰す。」
雅の目に、狂気の色が濃く浮かび上がる。
「“水瓶座騎士”の名に於いて、迎え撃つ。」
瀬蓮の表情にも浮かび上がる狂気。
―――パンッ!
二人の拍手が、空気を震わせた。
見守っていた洸は、頭を抱え、盛大に溜息を吐き出した。
「まったく…馬鹿どもが…。」
洸の呟きなど何処吹く風。
雅と瀬蓮は、同時に高らかに叫んだ。
「「展開、宝瓶宮の扉!!」」