7話 肥料集め
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「肥料の三大要素は、カリウム、窒素、リン酸」
「それは呪文でしょうか? お嬢様」
「根や茎を育てるカリウム、葉や茎を育てる窒素、花や実を育てるリン酸──確かに呪文のようね」
私は笑みがこぼれた。
(前世で培った家庭菜園の知識が活きるわ!)
ルーシーに案内されたのは、屋敷の庭と雑木林──林も公爵家の土地だ──の間にある木造の小屋の前だった。小屋は、庭師が仕事で使う園芸用品を仕舞っている倉庫で、いざというときに道具を借りることができそうだ。
周囲は土が剥き出しになっていて、小屋の横には無造作に土の塊が積まれていた。この土は自由に使ってもいいらしい。
さっそく土いじりをしたいところだが、その前にやるべきことがある。それが先ほど言った肥料だ。
まずは材料を集める必要がある。
ひとくちに、カリウム、窒素、リン酸と言ってもいくつもの種類がある。けれど、土魔法で集めるなら鉱物原料の物に絞られるだろう。
「カリウムはカリ鉱石……リン酸はリン鉱石……いや骨のほうが簡単に集まるかな……窒素は……」
前世で触った肥料の感触を思い出そうとするも、土魔法で引き寄せられるほどのイメージが湧かない。ついでにリン酸の“酸”は化学知識が必要になりそうだけど、ただの家庭菜園づくりの一般人には厳しい。
(やっぱり鉱石集めは諦めて、骨と枯れ草集めかな)
公爵家の林は広いから、小動物の骨くらい転がってるか地中に埋まっているだろう。
その骨を粉にして微生物に分解してもらって、カリウムとリン酸を作れないかな。
確か、落ち葉や枯れ草にはカリウムがたくさん含まれてるはず。これも微生物に分解してもらって堆肥にしたり、灰にしてまくことでカリウムの補給ができたはず。
(全部、この世界にも微生物がいると言うのが前提だけど、大丈夫かな?)
有機肥料よりも効果の高い無機肥料を土魔法で作れたら、と思っていたのだけど、中学レベルの科学知識しかない私には無理な話で、原始的な有機肥料で挑戦するしかないようだ。
『文明が滅びた世界で一から科学文明を復活させていく、このD*.S*O*Eってアニメ、すっごくわくわくして面白いの!』
ふと、前世の友人、友美の言葉が甦った。
同じように化学物質を一から作っていくお話があったはずだけど、タイトルも内容も思い出せない。
(漫画のようには行かないよね)
「枯れ草はいつでも取れるだろうから、骨集めから行きましょう!」
「骨集め!?」
傍らで見守ってくれていたルーシーが、ひょうきんな声を上げた。
こんなもので驚くなら、窒素肥料の原料集めで卒倒してしまうかもしれないな、と心苦しく思う──やめないけど。
地表や地中に紛れた小さな骨の欠片を手探りで探すのは、だいぶ辛い。
(土魔法で骨を集められないかしら?)
授業で教師は「土魔法で地中の物質を取り出せる」と言っていた。「地中の鉱物を取り出せる」とは言っていない。
なら、地中にある骨も取り出せるのではないだろうか?
倉庫から適当な鉢を引っ張り出し、目の前に置く。その鉢の上で手のひらを下に向け、両手を突き出すと、自身の指先の骨へと魔力を纏わせた。その状態を維持しながら、林に向けて魔力を伸ばしていく。
授業では、私の足を中心に円状に魔力を伸ばしたが、今回集めるのは骨なので、そんなに深さは必要ないだろうと判断し、深さ1メートル、縦横30メートル四方に魔力を伸ばした。
授業の時より広範囲に魔力を使うので、魔力残量が心配だったけれど、使った魔力は十分の一にも達していなかった。
林の地中にそれなりの数の小さな骨の欠片を感じた。自分の指骨と地中の骨片が魔力で結びいたのを確認し、要請する。
「我が骨と同じ物質、骨よ! 骨片よ! 骨粉よ! この手に集まれ!」
魔力の流れに従い、骨片と骨粉が地中から飛び出してきた。しかし、砂鉄の時とは違い、魔力を散らす前にすぐに地面へと落ちて行った。
真下に置いてあった鉢の中にカランと落ちる。
(さすがに土属性では無いものは地中から出たら、操作できないってことかしら)
「次は窒素の原料──尿素とアンモニアね!」
「尿……? まさか、まさか、お小水のことではないですよね!? お嬢様っ」
気絶することはなかったが、ルーシーの目玉が飛び出そうになっていた。
「そう、お小水のことよ」
「そんな不浄なものをどうするのですか!?」
「材料に必要なのよ。不浄と言っても、手についたくらいなら洗えばすぐに除れるわ」
「そういうことではございませんっ。土いじりですら、ご令嬢の品位に関わりますのに骨集めに……ご不浄なんて……!」
ルーシーがいつになく、険しい顔になった。
「お嬢様、これは本当に土いじりなのですか?」
「土いじりはこの後よ。これは植物の栄養を作るためのものなの」
私は一旦そこで区切って改めて強く言った。
「これは私にとっては大事で、必要なものよ」
「……」
いわゆる、押し切りである。
(自然界の尿素やアンモニアって粉末と液体が混合してそうね)
入れ物がないと大惨事になりそうなので、ルーシーに用意して貰おう。
「ルーシー。使わない水差しがあれば、持ってきてちょうだい」
「ルーシー?」
返事がない。
「お小水を……お嬢様がお小水集め……」
ルーシーは明後日の方向を見つめ、固まっていて動かない。
「ルーシー!」
強めに名前を呼ぶと、ふらふらと館に戻って行った。
ふらつきながらも美しい立ち振る舞いを崩さないルーシーの後ろ姿を見て思う。
「どちらが令嬢か分からないわね」
最初の宣言通り、1~7話を毎日投稿できてよかったです。(投稿してからも修正しまくってますが)
久しぶりに小説を書くと新鮮で楽しく、この数日間は他のことそっちのけで書いてしまいした。
ですが、そろそろ他のこともしなければならず、この一週間のような毎日投稿ができなくなります。
8話以降はゆったり投稿することになると思いますが、よければお付き合いしていただけたら嬉しいです。なるべく早く投稿できるよう頑張ります。
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