2話 《無能》の土魔法
ブックマークありがとうございます!
何度も推敲しているのですが、誤字や変な文章、説明不足なところがあるかもしれません(汗)
そのような部分を見つけたら感想にて報告いただけたら大変嬉しく思います (_ _)ペコリ
《判定の儀》をしてからの記憶があまりなかった。
気づけば、わたくしはひとり自室にいた。
帰りの馬車の中で、お父さまがわたくしを気遣うように「土魔法は地味であまり活躍の場がないが、お前は魔力量に優れている。これは素晴らしいことだ」と言ったきり、わたくしもお父さまも言葉を発することなく──いつの間にか、ポツンと自室のソファに座っていた。
あれほど楽しみにしていたのに。
魔法は神から人へ与えられる奇跡の力。だけど、魔法を使えるのは人間だけでなく、一部の動物にも使えた。それを魔物と呼称するが、魔物も魔法の力を神から与えられたのだろうか?
いや、魔物は魔法を使って人や家畜を襲う。同じ神でも邪悪な神からの恩寵だろう──そう教えられた。
魔法に対抗できるのは魔法のみ。
高い魔力を持つ者の定めとして、貴族は魔物の脅威に立ち向かわなければいけないと法で取り決められている。それは、女男関係なくすべての貴族の義務だった。
公爵であるお父さまも、領軍を率いて魔物の討伐に出ることがあったけれど、幼いわたくしはお父さまの無事と活躍を祈って見送ることしかできなかったが、魔法を使えるようになれば、いつかお父さまの横で一緒に戦える──!
そう思って、わたくしは今日を楽しみにしていた。お父さまもわたくしと一緒に楽しみにしてくれていて──なのに──
「褐色だと!?」
《判定の儀》でのお父さまの叫ぶ声が甦った。
アーグワ家は水属性の血が濃く、お父さまも例に漏れず水魔法の使い手だった。
亡くなった母は風属性だったので、ティエラは父の水か、母の風を受け継ぐものだとばかり思っていた。
「《無能》の土魔法」
ポツリと言って、窓から庭を覗き見る。そこには、公爵家自慢の庭があった。
わたくしは、そもそも土を見たことがない。
公爵家の庭は丁寧に整えられており、緑と鮮やかな花の色にあふれ、土が顔を見せないようにデザインされていた。
幼い令嬢という立場から屋敷の外に出たのも《判定の儀》のために大聖堂に赴いた今朝が初めてで、その大聖堂も立派な石畳と庭園に囲まれていて。
屋敷と大聖堂への行き来も馬車に乗っていたため、道中の地面を見る機会もなかった。
土が褐色だとすら知らなかった。
ティエラは窓を開け、ふらりと庭に出た。
侍女たちは腫物を扱うように自分から離れていて、「はしたない」と叱る者はいない。
知っていることは、植物が生える地面が土という知識だけ。
ティエラは花に近づき、花を葉を、そっと手で除けてみた。
「これが土」
草花の隙間に水晶玉に灯った色と同じ色の地面を見つけた。それに触れてみる。
「やわらかい……これを……?」
お父さまや侍女から聞いた英雄の物語では、竜を模った火が敵を焼いただとか、光の槍が敵を貫いただとか、あるいは、水不足の領地に恵みの雨を降らしただとかと、偉大な魔法ばかりで、土魔法の物語は聞いたことがなかった。
「英雄たちは魔法で無から火を、水を生みだした……土を生みだす?」
小さな頭を精一杯働かせ、考えてみた。
けれど、土を生み出すことの意味が、その活用法が、ティエラには分からなかった。
《無能》と言う言葉が甦った。
地面に置いた両手に力が入る。
「いいえ、わたくしは認めない! なにかあるはず!」
(魔力を。魔力をながして……)
だが、まだ魔力操作を習っていないティエラは、自分の中の魔力の存在を感知できない。
(いま、魔力はながれてるのかしら──わからないわ)
明日の授業まで待つべき?
でも、もしかしたら、土属性だったことに呆れたお父さまが、魔法授業を取りやめてしまうかもしれない──ティエラは絶望感に襲われる。
(イヤ! このまま《無能》あつかいはイヤよ!)
「待って、待って……そうだわ。大聖堂で水晶玉に触れたとき、触れた場所が変なかんじがして……それから水晶が光った……!」
手から何かが抜けていくような。水晶玉に吸い取られるような。
「それが魔力?」
わたくしは、水晶玉に触れたときの違和感を思い出しながら、願望を声に込めた。
「わたくしのなかにある魔力よ……この手からでて……土になれ!!」
しかし、想いとは裏腹に何も起こらなかった。
何度も何度も繰り返し挑戦した。しかし、何も成せないまま、時間だけが過ぎていく。
疲れ果て、苛立ちが募ったティエラは、人目を忘れて叫んでしまった。
「でなさいよーっ!!!」
溜まった鬱憤を放出させるように叫ぶのに合わせて、地面がボコボコ鳴いた。
「できた!?」
一瞬喜ぶが、よく見ると土を生み出したと言うより、土がほんのり盛り上がったかのような有り様だった。
ティエラはハッとした。
「無から土を生みだすより、そこにある土をどうにかするほうが簡単ってことね!」
そこからは「うごけ! うごけ!」と念じ、さきほどの感覚を模倣した。すると──
ボコ。
ボコボコッ。
ボコボコボコッ。
と、土が連続的に盛り上がる。
「やったぁ! これって鍬いらずじゃない」
はたと、自分が発した言葉に振り返った。
(くわ?)
脳裏に鍬を持って畑を耕す人の姿が映った。
黒髪の黒目の平べったい顔をした女で、長袖のTシャツにジーンズ、園芸用のエプロンをつけていた。
この国の人種とは違う──そう、日本人だ。
女の手元が拡大され……いや、いつの間にか女の視点になって、アスパラガスとフルーツトマトの隣に種を植えていた──これは、ニンジンの種だったかな。
(ああ、そうか。これはわたくし。ティエラになる前の私だ)
自宅の庭に菜園を作るのが趣味で──
収穫した野菜で料理するのも楽しみで──