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10話 家族愛

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励みになります。゜+.(*´∀`*)゜+.゜


今回は少し短めです。



「一度でいいから、こんな素敵なドレスを着て素敵なパーティにお呼ばれしたいわ~! ねぇ、■■もそう思わない?」

 乙女ゲームのワンシーン──華やかなドレスで着飾った少女が軍服のような素敵な礼服を着こなした美しい少年に右手を取られ、煌びやかな会場をエスコートしている(スチル)──を私に見せながら、友人がそう言った。


 私はなんて返したっけ──


 ぼんやりと目を開けたティエラの目に、ベッド脇でティエラを心配気に見つめるルーシーが入った。

「お嬢様……ご気分はいかがですか?」

「……私、倒れたのね」

「はい。祝賀パーティは中座いたしました。ここは王都にある公爵家の屋敷にございます」

「そう……心配を掛けたわね。王家の方々の前で倒れるなど……私、失礼をしたことになるわね」

「それはご心配には及びません。陛下ならびに妃殿下、王太子殿下もお嬢様を気に掛けていただいたと聞いています。その証拠に妃殿下から(たまわ)り物がございます」

「賜り物?」

「はい。あとで旦那様から直接お嬢様にお渡しになるそうです。旦那様がこちらに来てくださいますから、お嬢様はこのままお休みになっていてください」

「そう。分かったわ」


(……お父様)

 祝賀パーティでティエアラの髪とリボンを称えてくれた父の笑顔と言葉を思い出す。

 あれが父の本心だと……信じきれない自分がいた。貴族の立場から周囲を牽制(けんせい)するための建前だったのではないか、と。


 前世の母と父はどうだっただろう?

 子供の前でも建前を使う人だっただろうか──よく思い出せない。


 ぼんやりとした存在の前世の母と父──

 尊敬する今世の父──


 前世の両親に今世の父のような家族としての愛情を抱けないことにティエラは気づく。

(おぼろ)げな記憶は夢や幻と変わらないわね)

 さっき見た夢も前世の記憶なのか、それとも勝手に作り出したものなのか判断がつかない。


 友美(ゆみ)と名付けた、ぼんやりとした顔の友人。

 その笑顔がなぜか王妃の笑顔と重なった。

「植物を愛でるのが趣味」とティエラが答えたときの王妃の顔が──上品な微笑みとは無縁のはずの友人と重なる──不思議ね、とティエラはくすりと笑った。


 王妃から賜り物をいただいたということは、嫌われていないのだと思う。

 土魔法の披露でダイヤモンドを出されたときは、嫌がらせかと思ったが──


(私って悪い方に考えすぎなのかもしれない)


 よく考えれば、父がティエラを間引くとはあまり考えにくい。

 アーグワ公爵家は次子を生むことがなく公爵夫人が亡くなったことで、ティエラの夫になる者が公爵家を継ぐのだと思っていたが、貴族から疎まれる土属性ではそれもなくなり、親族から跡継ぎを決めることになるだう。

 他家に嫁ぐこともなくなり、血を繋ぐ意味もなくなったティエラは、例え父が再婚して新たに子を設けたとしても継承争いの火種にはならないだろう。

 公爵家の財政が圧迫している訳でもない現状で積極的にティエラを間引くことはないのではないだろうか──間引くなら属性が判明した《判定の儀》からこの一ヵ月半の間にそうしていたはずだ。


 こんな簡単なことも分からず、動揺して倒れるなんて──

 思考は、前世である大人な自分が前面に出ていると思っていたが、今世の6歳の精神も持ち合わせているからか、意外に心は幼いのかもしれない。


* * *


 一時間ほど経ち、部屋に訪れた父をティエラはベッドの上から応対した。

「ティエラよ、調子はどうだ?」

「はい、もうなんともありませんわ」

「そうか。ルーシーから聞いているだろうが、王妃より賜った物がある」

 父の後ろから家令が、シルクの布で支え持ったフロッキング調の上品な箱をティエラに差し出し、ぱかりと(ふた)を開けた。

「悪意から精神を守るお守り(タリスマン)だ」

「タリスマン……」

 それは、中央に水晶が埋め込まれた白金で出来た板状の丸いペンダントで、水晶の周りには不思議な文様が描かれていた。

 着けてやろう、と父がベッド端に腰掛け、首の後ろで留めるとティエラの小さな胸の上で6歳児には大きすぎるペンダントトップ──タリスマンが揺れた。

「……お前を守ってやれず、すまない」

「そんな……私が勝手に傷ついて無様に倒れてしまっただけです。それに、お父様は中傷から私を守ってくださいましたわ」

「私が守り切れない悪意からこのタリスマンが守ってくれるといいのだが……ティエラ」

 父に抱きしめられ、腕から背中から頬から優しい温もりに包まれる。

「お前とお前の母を愛している」

「お、とう、さま」

 じわりと涙が(あふ)れた。

 全身で感じる父の温もりにティエラの心が満たされていく。

「お前を手放す気はない。家督は私の弟に任せる。お前は気にするな」

「はい」

 しんみりとした空気を壊すかのように(おど)けた声で父が言う。

「まぁ、お前の性根が腐ったらどうなるか分からんがな」

 そして、また真面目な顔──しかし暖かい目で、

「だが、お前は頑張っている。農業を学んで──いや、()()をしているのだろう?」

「お父様、ご存じでしたの」

「はっはっは、これでもこの家の(あるじ)だからな。屋敷のことをちゃぁんと把握しなければ失格だろう?」

「そう、ですわよね。お父様に隠せると思ったことが恥ずかしいですわ。でも、実験はまだまだ時間が掛かりそうです。お父様にはしっかりとした結果をご報告したいので、私からはまだご報告できませんの。もう少しお待ちください」

「じゃがいもか。収穫に4、5ヵ月掛かるのだったか」

「はい。肥料は土魔法で時間を早めて作ることができましたが、作物の成長までは操れそうにありません。栄養を与えすぎると成長しすぎて弱ってしまうようです。そうなれば、病や害虫に侵されやすくなるようですから、じっくり育てていきたいと思っています」

「ほう、肥料を()()──か。これまでは、畑にただ家畜の糞尿を()いていただけだったが……どのように変わるか楽しみだ。じっくり頑張るといい」

 父は荘園を持っている。結果がよければ、きっと荘園でも導入してくれるだろう。


「お前には、そうやって自由に生きて欲しいが……お前にも貴族の義務である魔物討伐が課せられるだろう」

「魔物、討伐」

「15になれば、貴族学校で本格的な戦闘訓練が始まる。しかし、土魔法は不遇扱いでまともに訓練してくれるか分からん。攻撃魔法も同じように模索してみてはどうだ」

「そう、ですわね。このままでは魔物討伐での生存が心配です」

「お前には最高の家庭教師をつけた。土魔法のことはよく分かっておらんが、あの教師ならば何かしらの手助けとなろう」

(あの教師──残念だという顔を隠しきれていない、あの家庭教師……か)

「……はい」

 胸に一抹の不安を覚えながらティエラは、そう答えた


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