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1話 判定の儀

※1話~7話までは毎日17時に1話投稿予定。8話以降もなるべく早めに投稿できたらと思っています※



「そんな! どうして先生がいなくなるの!」

 可愛らしい桃色のウェーブ掛かった髪を振り乱し、いつもは柔らかい桃色の瞳を鋭して

「あなたが何かしたの!」

 と、彼女は私を糾弾した。


「また公爵の権力を使ったのか」「クズめ」と周りも彼女に同調する。


 ──ああ、やはりこれは()()じゃない。


 今までも何度もあったこの一方的な糾弾。その場にいながらも私だけ別の空間にいるかのような錯覚を覚える。

 教室にいるすべての人間が私を敵視し、蔑視し、私の言葉は届かない。

 これまで以上の異様な空気だった。


 ただの異世界転生だと思っていたのだけど、これでは本当に悪役令嬢に転生したみたいではないか。

 これが乙女ゲームの強制力なら、私はこのまま断罪させられるのだろうか。


 ──知っていたら、領地改革などよりも断罪の対策を練っていたのに。


 日本人だった前世の記憶が甦った6歳の時からの自分の行動が頭の中を駆け巡った。


 ──いいえ、あれは無駄じゃなかった。

 自分と領地、そして報われない土魔法の使い手たちの糧となったはず。


  * * *


 王都より2つ東に位置するアーグワ領は、過去に王家から王族が降家したこともある、王族に次ぐ公爵家の領地である。

 ティエラ・アーグワ。

 今年6歳になるティエラは、そのアーグワ公爵家の長女だった。


 ティエラとその父イアインは、馬車に揺られて領都の大聖堂に向かっていた。

 青みの強いアッシュブロンドに青い瞳を持つよく似た親子は、和やかに会話を楽しんでいた。


「ティエラよ、お前の属性がもうじき判明するな。気分はどうだ?」

 イアインは、初めて馬車に乗った娘を気遣った。

「はい、酔うこともありませんでした。わたくしのためにゆっくり進めていただき、ありがとうございます。もしかしたら、司祭さまにおあいすることが楽しみで馬車酔いどころではないのかもしれません」


 少し舌っ足らずながらも公爵家の長女として厳しく躾られたティエラは、大人顔負けの礼儀と奥ゆかしさを見せたが、期待に満ちたその瞳は年相応にキラキラと輝いていた。


「聡いお前のことだ。魔法においても(しゅ)から素晴らしい素質を与えてくれるだろう」

「そうであれば、と思います」

 と、ティエラはにこやかに答えた。


「ようやく『早く魔法を使いたい』とせっつかれていたお前に解放されるな」

「まぁ、お父さま。《判定の儀》で属性がわかったから、すぐに魔法をつかってもかまいませんの?」

「いや、家庭教師に教わるまでお預けだ」

「もう、期待させることを言って……お父さまったら意地悪ですわ」

 まぁるいほっぺを膨らませるティエラに「そう、()ねるな。明日には魔法専門の家庭教師が来るのだ」と笑い、

「まぁ、当分基礎知識の応酬になるが」

 と、また大きく笑った。

「むぅ。やはり意地悪です」

 ティエラの頬はますます膨らんだ。


 そんな和やかな親子を乗せた馬車が、ゆっくりと大聖堂の敷地に入っていく。




 礼拝堂の奥には神像が祭られ、その手前にある神具を祭る聖卓には普段は置かれることのない、水晶玉が置かれていた。この日のためだけに用意された特別な神具だ。


 すでに礼拝堂の長椅子には多くの子供らが席についていた。今年6歳になる、領内の貴族子女たちだ。その(かたわ)らには子らの父と母が付き添っている。

 ティエラには、父イアインの付き添いだけで母はいない。

 そもそもティエラは、母の顔を見たこともなかった。なぜなら、ティエラの母は産後の肥立ちが悪く、ティエラを産んで一年後に亡くなっていたのだから。

 寂しさを(まぎ)らわすように父の手をぎゅっと握りしめたティエラは、司祭の言葉を待った。


「これより《判定の儀》を執り行う」

 ほどなく、聖卓の前に立った司祭が宣言した。

「迷える子羊たちよ、これまで6つの歳まで主に生かされたこと、そしてこれからは主からいただいた奇跡の力を使って生きることに感謝しましょう」

「イーシス」と胸の上で十字を切った司祭に習って、礼拝堂に集まった者たちも十字を切った。


「まずはアーグワ公爵家、ティエラ嬢から。水晶玉の前まで進みなさい」

 司祭に名前を呼ばれ、ドキンと心臓が跳ねる。待ちに待った瞬間。ティエラは、緊張の高まりからぎこちない足運びで水晶玉の前に進んだ。

 厳粛でありながら、煌びやかな装飾の置き台に載る、透明な丸い水晶玉。

(──これが属性判別の神具)

 ティエラは、ドキドキと胸を打ちながら期待に膨らむ。

「この水晶玉に手を置きなさい」

 司祭の言葉に従い手を置くと、ほどなく水晶玉に色が灯った。

(まぶしいっ)

 まばゆい光に目を焼かれ、とっさに目を瞑るティエラの耳が、近くで上がった大きな声を拾う。


「褐色だと!?」


 それは驚愕の感情が含まれた、父イアインの声だった。

(お父さま──?)

 光に少し慣れたティエラが目を開くと、透明だった水晶は、褐色にまばゆく光り輝いていた。

 その様子に周囲が(ざわ)めく。

「おお、なんと力強い光だ!」「だが、まさか褐色とは」「《無能》の土属性ではないか!」「公爵家は水の血筋ではなかったか?」「公爵に他のお子は?」「いなかったはずだ」「なんてことだ。公爵家はどうなるんだ」「公女が《無能》など我が領の恥ではないか」


 背後で(ささや)幾人(いくにん)もの声が、ティエラの耳をさざ波打った。



 名前を考えるのが一番苦しかったです。変な名前が多いですが、「異世界だからそんなものか~」と流していただけたらと思います。


 イーシスは、アーメンのようなものです。


* * *


 茶色を褐色に修正しました。(2020.1.11修正)

「茶色=ほうじ茶の茶が語源」と知り、世界観を考慮し、褐色に書き換えました。


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