後編「そして今」
こうして、ついに『ブロック機能』を使い始めた俺。
一人の読者を遠ざけただけだが、随分とスッキリした。
なんとも不思議な気分だ。まさか『ブロック機能』が、こんなにも爽快感を与えてくれるものだとは思わなかった。
その数日後。
たまたま他の利用者の作品を読んでいたら、びっくりするようなものに出くわした。
総合評価1,080pt、俺の作品――中でも最高ポイントのもの――の30倍だ。さぞや凄い作品かと思って、勉強させてもらおうという魂胆でクリックしてみたら……。
「なんだよ、これ」
数行に一回、てにをはの間違いがある!
何故これが評価されてるの?
感想欄を見ても……。
『面白いよー』
『わー! 凄い!』
『たーのーシーイー』
……これが作品に対する感想か?
いや、これらは、まだ日本語だ。他にも絵文字? 顔文字? 俺には意味不明なコメントもあったし、どうやって入力したのか知らないが、カラフルなハートマークや星や月で埋め尽くされたものもあった。特に後者、もう文じゃなくて絵じゃん、それ!
「……これ、俺が関わっちゃいけない人種だ」
二度とこうした作品を目にすることがないよう、俺は、この作者をブロックした。感想欄に「日本語とは思えない」コメントを書いていた者たちも含めて。
こうして、この日。
俺の『ブロック機能』は加速し始めた。
初めて使った時の『爽快感』、あれが、俺の心の中で膨れ上がる……。
そして、半年が経過した。
いつしか俺は、些細な理由で『ブロック機能』をクリックするようになっていた。
その結果。
俺は誰の小説も読めず、誰も俺の小説を読みに来てくれない。
そんな状況に陥っていた。
作品告知のために個人的なイベントに参加したくても、企画主をブロックしているから参加できない。
ならば、こちらから新規ユーザーのところに出向いて、交流を……。そう思ったのに、新規ユーザーのコメ欄にすら書き込めない! 『新規』だから当然、俺はブロックしていないのに!
「つまり……。何もしていないのに、新規ユーザーの方から、俺をブロックしているのか……?」
どうやら、俺がブロックしまくったせいで、この『オリジナル・ノベラーズ』内で、俺の悪評が流布しているらしい。初めたばかりの新規ユーザーの耳にも届くほどに。
「これが『ブロック機能』を使いまくった者の末路か……」
ふと、かつて漫画で読んだエピソードを思い出した。
独裁者が気に入らない者を排除する、それと同じことを誰でも簡単に出来るスイッチ。「あんなやつ消えちゃえスイッチ」というタイトルだった気がする。
気に入らない者たちを次々と消していって、一人になってしまった主人公。ここで激しく後悔するのだが、最後に「あれは独裁者を懲らしめるためのスイッチだった」という種明かしと共に、消えた全員が戻ってくる……。
「でも、現実は違うんだよな」
今頃になって、最初の運営からのメッセージにあった言葉が、重く響いてくる。
『なお、一旦ブロックしてしまったユーザーは解除できません。慎重に判断した上で、ブロックしてください』
まるで、昔々の不人気な個人サイト――誰も見に来ないようなホームページ――のように。
俺と関わる者など、誰もいなくなった『オリジナル・ノベラーズ』で。
俺は今でも、一人で黙々と小説を書いている。
(『ブロック機能 ――ある素人作家の恐怖体験――』完)