中編「しのびよる恐怖」
「……あの頃利用していた投稿サイトに、もしもブロック機能があったら。俺は今頃、まだ二次創作を続けていたかもしれないな」
失われた遠い日を想いながら、苦笑する俺。
さらば二次創作の日々よ、もう戻れない、帰れない……。というほど感傷的な気持ちはない。
今はオリジナル小説を書くことが楽しいのだ。
「まっ、ここじゃ熱心なファンもいないから……。俺には『ブロック機能』は無関係だな」
そう思って、俺は自分の創作活動に戻った。
運営からのメッセージには『なお、一旦ブロックしてしまったユーザーは解除できません。慎重に判断した上で、ブロックしてください』と書かれていたが、無関係な俺は、特に気にしていなかった。
ただ何となく、
「安易に『ブロック機能』を使わせないための抑止力としては、当然の措置だろう」
と考えただけだった。
それから一ヶ月。
俺とは無縁のはずだった『ブロック機能』が、そうも言ってられなくなった。
数少ない読者の一人が、豹変したのだ。
『毎回毎回、楽しみにこの作品を追ってきました。タイトルが「サラダだけは勘弁な! アタシをサラダにするのは不吉だぜ!」なので、いつ主人公が悲惨な目にあうのか……。それだけが楽しみだったのです」
「なんだ、こいつ? 『主人公が悲惨な目にあう』って、そんなのが読みたい特殊性癖か?」
最初は、俺も軽く考えていた。
そもそも、感想が終始過去形なのは「今までは楽しみにしていたが、もう読むのはやめる」というニュアンスかと思って、読者が減るのを残念に感じたくらいだ。
ところが。
あれは、撤退宣言ではなかった。
『今回、料理の場面で終わりましたね! いよいよ次回、主人公のパインちゃんがサラダにされるのかと思うと、もう今からワクワクします!』
『あれれ? 作者さんは、前回のラストを忘れてしまったのでしょうか? なぜパインちゃんは、サラダにならなかったのでしょう?』
『パインちゃんが食堂の女給になった! 今度こそサラダですね!』
『おかしいですね。サラダちゃん、まだパインにならない……』
『タイトル詐欺です! 作者さんは、自分がつけたタイトルを、もう一度よく見直すべきです! この作品は「サラダだけは勘弁な! アタシをサラダにするのは不吉だぜ!」ですよ!」
うるせー!
感想コメ書くなら間違えるな! 『サラダちゃん』じゃなくて『パインちゃん』だろ!
あと、タイトルはパロディなんだよ!
パインサラダも「飛行機だけは勘弁な!」も知らない若造は黙ってろ!
第一章のラスボスが『ゴリラ飛行機』ってキャラだったろ!
そいつがステーキ食べかけで戦いに赴いて、パインちゃんに返り討ちされただろ! パインサラダ的な死亡フラグは、そこで消化済み!
タイトルの伏線は、きれいに第一章で回収されたんだよ!
……と返信したかったが。
それでは大人げないので。
俺は、黙って『ブロック機能』をクリックした。