第12話 期末テスト
第12話
期末テスト
期末テスト前夜、未明。
永本悠太の夢。
いつもより少し緊張感のある教室。1時間目。試験科目:数学Ⅰ、時間:50分。
数学の西山先生が飄々とした物腰で教室に入ってきた。教卓の上に、これから生徒たちをたっぷり苦しませるテスト問題を置くと、人差し指を舐めてから列ごとの枚数分を分け始める。しかし、テスト用紙には1学期「中間」考査、と書かれていることに気づいていない。
テストが全員に配られ、やや静まり返った間があってから、「始め!」と声がかかる。一斉にペンが取られる音がした。
・・・以上おしまい。明日は完璧なはず。目覚まし(3個)が鳴るまでもう一眠りしよう。夢うつつの中でそう考える。
〜〜〜
有瀬莉帆の夢。
さてと、中間テストも見直したし、寝ようか。もう12時前だ。スマホのアラームをセットしてベッドに・・・。
なんで!?なんで悠太が私のベッドにいるの!?ちょっと、どういうこと?私、寝間着なんだけど。
「なんで私のベッドにいるのよ!」
「だって、さっき『いっしょに寝よう』って言ったじゃん」
「えっ?それは・・・」確かに言ったのは事実だけど。そ、そういうつもりでは・・・。
「莉帆も早く入っておいでよ。電気は暗めがいい?それとも明るめ・・・?」
「えっと・・・。暗めでお願いします・・・」声がか細くなる。ていうか、何で私OKしてるの?どきどきして心臓が張り裂けそう。ど、どうしたらいいの?私、こんなの初めて。
でも、心配することはなかった。悠太が上手いことリードしてくれる。両手が引っ張られ、何にもしてないのに、自然と寝間着がはがされて行く・・・。
だめー、それ以上は!声にならない声。
「あ、もう準備よさそう。でも初めてだからゆっくりにしよっか。莉帆はどこからがいい?」耳元で優しく囁かれる。いけない。声だけで昇天しそう・・・。
あーっ、だめだめー。見ないといけない夢があるのに!明日のテストが。
そっちじゃないよー!!
〜〜〜
朝、3つ目の目覚ましで、いつも通りの時間に起きて、急いで朝ごはんを食べ、駅まで走って発車間際の電車に飛び乗る。毎日反復練習してるから慣れたものだ。
莉帆のほうはちゃんと「夢の力」使ってくれただろうか。上手くいけば、今日の数学のテストは無双だ。他のみんなは中間テストになってることを知らないのだから。
既にテスト返却の時間が目に浮かぶ。僕と莉帆だけ満点。クラスのみんながびっくりしている。
「有瀬は当然としてもお前まで100点なんてすごいな。突然数学に覚醒したのか?」
「いやー、一応中間テストの復習はしておいたから」
「よく覚えてるよなー。俺なんか今回の範囲だけで必死だったけど」
ぐはは、これは楽しいテストになるぞ。
〜〜〜
「ノート、教科書を机にしまえー。始めるぞー」
西山先生が教室に入ってきた。
中間テストは答えに至るまで完全に暗記したし、テストが配られるのが待ちきれない。みんなあたふたと片付け、中には最後にひと記憶でもしようと、片付けながらノートの端っこをこっそり見ているものもいる。
みんな緊張してるなー。周りを眺めながら余裕すら出てくる。
配られたテスト用紙。雰囲気に影響されてか少しだけ緊張してきた。上手く「夢の力」が効いているかということに関してだが。
「よーい、始め!」
ひっくり返す。ページの一番上には・・・「1学期中間考査」。来た!夢の通りだ。凄まじいパワーだな。
ややあって、ざわついた空気を感じる。ちらちらと横目で見あっている生徒もいる。先生もそれに気づいたようだ。
「どうした?きょろきょろするな!試験中だぞ」
「先生!」村上くんが手を挙げる。
「・・・このテスト、前回の中間考査です」クラスを代表して言います、と枕詞でもつけたそうなきっぱりとした口調。まったく、村上くんはこういうところで目立とうとするから嫌なんだ。
「なんだと?」西山先生が一番前の机に行ってテストを確認する。
「諸君、印刷を間違ったみたいだ。すまないが、刷りなおしてくるからしばらく待っとれ。いや、試験時間は延長するから心配無用だ。それと・・・村上、今の試験を回収しておいてくれ。問題用紙だけでいい」西山先生が眼鏡を押し上げて汗を拭う。
「分かりました!問題用紙を回収します!」村上くんが威勢よく答える。普通に「はい」と言えばいいのに・・・。
途端にクラスが騒がしくなり、緊張が解き放たれて伸びをするもの、不意に手に入った時間を有効に使おうとテスト勉強を再開するもの、隣の席の生徒と話し出すものなどが現れた。僕は振り返った莉帆にちょっと目配せした。莉帆が、「大丈夫!」というようにうなづく。うん、これなら上手くいきそう。
もう今学期の数学のテストは中止かな。仮に問題を作り直すにしても西山先生のパソコン技なら2、3日はかかるだろう。もっとかかるかも。それだけあったら少なくともひどい点数にならないくらいには勉強できそう。
先生がなかなか帰ってこない。莉帆の夢が上手く機能している証拠だ。今頃職員室で慌てふためいているだろう。「わしのデイタが消えちまった!!」とか叫んでいるかもしれない。
15分以上もして、西山先生が帰ってきた。表情に変化はない。空気が吸い取られたかのようにクラスが静まった。
「諸君、ちょっとした問題が発生した。残念ながら試験問題は印刷できない」わあーっとクラスで歓声が上がる。感動で放心状態だったり、ハイタッチをしている生徒までいる。
それを見て先生は怒りの表情に変わった。
「こら!静まらんか!これだから年々平均点が下がってきておるのだ。昔の生徒はもっと真面目だったぞ。いいか、わしを甘くみるな。これから試験を始める!」
へ?試験??何をおっしゃっておられるのでしょうか?目が点になる。
「わしは教員になって以来一度も問題を変えておらん!一言一句覚えておるからこれから黒板に書き出す。今から50分間。よーい、始め!!」は、始め??そんな・・・。長老を甘く見ていた。みるみるうちに黒板が問題で埋められていく。頭が真っ白になる。
回答用紙も真っ白で終わりそうだ。




