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第11話 メッセージ

第11話


メッセージ


明日のテスト準備も完璧だし、少し早いけどベッドに入るか・・・。リビングで勉強していた寝間着姿の莉帆はそんなことを思いながら、立ち上がった。


莉帆の住んでる家は2階建てで、なかなか広かった。空間があるって素敵なこと、莉帆はそう思っていた。父さんと母さん、弟の拓海と私の4人でも狭いと感じたことはなかった。


「お姉ちゃん、数学教えてよ」2階に引き上げようとした時に、拓海に捕まってしまった。

「えー、今からー?明日から期末テストなんだけど」

「俺も明後日から期末テストなんだけど」拓海が不満そうに言う。

「それがどうかしたの?」

「お姉ちゃんが教えてくれないとやばいって」

「やばいのは自分が日頃勉強してないからでしょ!」少し強めに言う。中学から定期テストがあるっていうのに未だに小学生気分で遊んでばかりなんだから!


「莉帆、あんたテスト余裕でしょ。拓海の勉強見てやりなさい」和室でアイロンをかけている母さんの声が飛んできた。

「そうそう、見てやり。りっちゃんの勉強は父さんが見てあげるから」台所でチーズを切っている父さんが言った。

「ほらね、お姉ちゃん。見てあげなさい、だって」拓海が勝ち誇ったように言う。

「しょうがないねー。分かったけど一回で理解してよ。厳しくするから」怖い顔をしてみせる。もうっ、これからすることがあったのに。幼い弟をもつと大変だ。


〜〜〜


「ここはさっき求めたxを代入したらいいでしょ。そしたらyだけの式になるから・・・」

「ふむふむ、で、次は?」

「少しは自分で考えなさい。本番でできないわよ」

「この問題だけ。次からは自分でするから」

「はいはい」うん、この感じだと後30分くらいで終わりそうね。中1といえばそろそろ反抗期だろうけど、まだまだかわいいものだなぁ。どうせ学校では偉そうにしてるんだろうけど、家では甘えんぼ・・・。


「ねえ、お姉ちゃん?」

「最後まで終わった?」

「まだ途中なんだけど。さっきからどうしてスマホつけたり消したりしてるの?」

「別になんでも。よそ見しないでさっさと片付けなさい!」ほんとは悠太から連絡が来るのを待ってるんだけど・・・。用がなければやっぱり連絡して来ないかなー。数学の質問とかないのかな?拓海のと違って喜んで答えるけど。それか、「そろそろ寝るよー」とか、「明日のテストがんばろ!」とか何でもいいから。

もちろん、いきなり「好きだよ」とか、「今日もかわいかった♡」とかでもいいんだけど・・・。


「お姉ちゃん、なんでニヤついてるの?」

「ニヤついてないから!どこ見てるのよ」早く2階に引き上げたい!そして「明日のテストはばっちり?」とか連絡してみようか。


〜〜〜


「よし、できた!」と拓海。私はほっとする。

「よかった。じゃあ早めに寝なさい」

「あと英語もあるんだけど・・・」

「えーっ?まだあるの?」

「いいじゃない。そこで解説してくれてたら俺が代わりにスマホ番しとくから。彼氏からの連絡かなー」拓海がニヤニヤしながら言う。いつも思うがどうして拓海はこういうことにだけ鋭いんだろう。それとも私にそんな風に見えるだけの隙があるのだろうか。学校では緊張感があるからそんな素振りも見せたことないし、誰からも言われたことはないんだけど。家だとつい無防備になっているのだろうか。

「違うって!友達の連絡待ってるだけだから!」

「友達って男?」

「あんたには関係ないでしょ!」


〜〜〜


ふうっー、やっと解放された。

ベッドに寝そべって、再びLINEを確認する。あ、通知だ、と思ったらただの優香だったり、そんなことが3、4回あった。

悠太のプロフィール画像は・・・へえー、チェスの駒のアップ画像か。悠太らしいや。私のは去年家族で海に行った時の写真。海を背景に、波打ち際で遠くを見ている私の後ろ姿。海をメインに、私は小さく写って目立たないようにしている。


ああー、来ないなぁ。やっぱり私から連絡した方がいいかな。男子から連絡するのはためらわれるかもしれない。何か当たり障りのない連絡を・・・。

時計を見るとちょうど10時だった。まだ寝てはいないだろうな。あと5分待って来なかったら連絡してみよう。


・・・10時5分。音沙汰なし。メッセージ画面を開けて「テスト勉強おつかれ!・・・」と打ち始める。

いや、もう5分待ってみようか。やっぱり私から連絡するのもなんか恥ずかしい気がする。


10時10分。何もない。「テスト勉強おつかれ!明日はバッチリ?」送信ボタンに手を伸ばす。いや、どうかな。これでいいのかな。別に変じゃないよね。明日はテストなんだし。

なおも数分ためらってしまったが・・・よし、決心した。一文だけ送ってみよう!

ベッドに寝そべっているだけなのにいざ決意を固めると急にどきどきしてきた。学校なら普通にしゃべれるのに。LINEだとなぜだか初めて話した時のような緊張感。どうしてだろう。夜だから?確かにこんな時間に悠太とつながるのは初めてだ。


その時・・・。

「おつかれ。明日はお互いがんばろう!」

私じゃない。来た!

初めてのメッセージ。白紙だったメッセージ画面に記念すべき初めの1行が生まれる。

メッセージ送ろうとして画面開いてたから、これは悠太が送った瞬間に既読がついちゃったやつだ。私が悠太の連絡待ってたことがばれちゃう。

「うん!がんばろ。明日はバッチリ?」

急いで返信返信。すぐに既読がついて・・・。

「うーん、数学がやばいかも」隣でしゃべってるみたい。どきどきするなぁ。

「西山先生だからねー >_< 中間テストも難しかったよね(・・;)」

「今回も絶対難しいだろうな」・・・。悠太大変そう。といってももう前日の10時半だし、なす術がなさそう。悠太が徹夜で勉強でもしたら翌日きっと起きられないだろう。ちょっと返信に困る。

と、先に悠太からメッセージが来た。

・・・「あ、別に気にしなくていいよ。まあなんとかなるだろ」

そっかー、何とかしてあげたいけれど。


そうだ!いいこと思いついた。あれがあるじゃない!「夢の力」が。悠太を動かしていい点数が取れるようにするのは無理だけど、西山先生なら動かせる。

「あ、そうだ。夢の力を使ってみるのはどう?」

「どういうこと??」

「例えば西山先生が間違えて中間テストを刷って来てしまう。それだったら今から間に合うよ」我ながら面白い思いつきではないかな。西山先生は年が年なのでそれくらいの間違いは不自然でもなんでもないだろう。


「でも、きっとすぐに気がついて印刷しなおすよ」悠太からだ。確かにそれもそうね・・・。だったら・・・。

「じゃあ、印刷しなおそうとした時に、焦って期末テストのデータも消しちゃうとか?」西山先生はもう一時代も二時代も前の人なのでパソコンには疎くて、前の中間テストも表がずれてたり、インデントがばらばらだったり、全角と半角が混じっていたりしたくらいだから、実際にそれくらいのミスがあっても不思議ではない。

ちょっとやり過ぎかしら。早く返信しようと、思いつくままに送っちゃったけど。

ところが・・・。

「それ、面白そう!」よかったー。悠太にも受けるいたずらで。

「じゃ、悠太は西山先生が間違って印刷する夢見てね。私はデータ消しちゃう夢見るから」

「おけ。急いで中間テスト掘り返して暗記するよ。助かった。ありがとう」

「全然。チームプレーだねー」

「笑」

「じゃ、私も中間テスト見直さなくちゃ。さっさと片付けていっしょに寝よー」


しまった、また考えなしに送ってしまった。「いっしょに寝よー」とか、決してそういう意味ではないから!時間の話だから。悠太にふしだらな女と思われたらどうしよう。


「じゃあまた明日!」

あ、普通に返ってきた。さっきのメッセージ消したい!悠太が読み返したり、と思うと恥ずかしすぎてベッドの中で身が縮まる思いだった。

莉帆は大きな枕を抱きしめて、一人悶えていた。


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