夢みたいな時間
小さな島なのになぜか作られたボロい水族館で、僕は美術部の宿題であるスケッチをした。彼女は流行の10年代ファッションで、赤のチェック柄のワンピースを着て麦わら帽子を被っていた気がする。緊張しすぎて記憶が薄れている。でも、そうだ。僕がスケッチからふと目を上げると彼女が僕の目を覗き込んでニコッて笑ったっけ。
「サーディンランか!ワタシの惑星でも微生物が渦を巻くよ。君の絵は的確だな」
「ワタシは好きだぞ、君の絵」
その言葉にポーっとしてしまったらイワシの群れの水槽の最前列を取られてしまった。地元なら空いてるからいつかワタシの地元でスケッチするといい、って彼女が囁いた。全ての瞬間が夢みたいだった。
隕石が衝突するってニュースはいつ流れたんだっけ。確か水族館に彼女と出かけた四日くらい後だった。ニュースの一週間後、僕達は火星に避難する事になった。こんな大事なら早く予報とか避難命令しろよとか思いながら、珍しく家族全員が揃って避難の準備をしていた記憶がある。
そんなこんなでロケット出発基地のある隣の島に行く日が近づいてきた。彼女からのテレビ電話があったのは基地に行く前の日だった。
「もしもし、木暮さんのお宅でしょうか」
木星語じゃないけど明らかに彼女だ。
「・・・香西さん?」
「ああ、なんだ本人か。今から水族館に来てくれ、できるだけ急ぐんだぞ。」
プツン。画面が切れる。彼女、どこから掛けて来たんだ?それよりいつ僕の家の番号教えたっけ?疑問苻をたくさん浮かべながら僕は自転車を走らせた。