入学式後
「これで今日は終わりだ!明日からは礼拝が始まるからちゃんと作法は覚えてくるように!そうだなぁ、君!あいさつを頼む!」
言い指名されたのは飯塚だ。
ただ単純に名簿が最初のほうで、席が前の方だったというだけの理由だろう。
「わかりました。起立、気をつけ、礼。」
「さようなら。」
「おう!みんな気をつけて帰るんだぞ!」
その熱血っぷりに思わず春樹はため息をついた。
この熱血が三年間も続くのか。
「おっと、忘れてた。そこの君。」
「俺ですか?」
熱血教師に呼ばれたのは春樹だ。
春樹担任が差し出す大きな封筒を受け取る。
「これなんすか?」
「それはな今日休んだやつの紙などを詰めたやつだ。それがなければ困るからな。ちゃんと渡すように。」
春樹の前の席名前は...なんだったかは忘れたがその前の席のやつが今日は欠席のためその連絡袋的なものを渡された感じだ。
そして、ここであることに気がつく。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。」
「なんだ?不満か?」
「いや、ちょっとはありますけど、俺こいつの家知りませんよ?」
「ああ、そうだったな!地図を書くからちょっと待ってくれ。」
「了解です。」
家の場所が分からなければ届けようにも届けることは不可能だ。
だが、なぜ春樹を指名したのかそれは謎である。
その近くには飯塚や他の女子がいるのにも関わらず。
「これが地図だ!」
言い渡されたのは見た事のある地形。
「ってこれって俺ん家の近くじゃん!」
「ああ、だから君にお願いしたんだ!」
「なるほど...。」
でも、前から近くなら知り合いのはず。
春樹の家の周辺ならば小学校も一緒で知っていないはずがない。
「先生ちょっとこいつについて教えてくれませんか?」
「それは会ってからのお楽しみだ!」
「なんだよそれ...。」
その理不尽さにもはや呆れる。
地図にもう一度目をおとしてみると、さっきでは気づかなかったことが目に見えてきた。
「なあ、飯塚。」
「ん?なんだ?」
「ここってさ、前まで空き地だったよな?それでさみんなここで遊んでることがよくあってさ俺はあんまり詳しくないけど、家が建つって事で封鎖されてブーブー言ってなかったっけ?」
「あー、そんなこともあったな。多分そこで間違いないよ。」
「だよな。俺ん家から徒歩三十秒くらいの近さだからみんなの楽しそうな声が聞こえてきて病みそうになったのを覚えているよ...。」
「おいおい、今まさに病みそうになってるぞ。過去のことは忘れた方がいい。」
「ん、わかった。」
徒歩三十秒の近さ。
それは春樹の家の斜め前の場所だ。
ただ春樹自身そこに新築が建ったのはもちろん知っていたが、そこからここの中学校を選んだ意味がよく理解できない。
春樹は事情があるためこの遠さを理由にここに通うようにしたのだが。
「まあ帰り道だし寄っていくか。」
「そうだな。」
そして場所は電車の中に移動する。
「飯塚。」
「なんだ?」
「朝の混みが嘘のように空いてるな。」
「まあそらなあ。仕事に行く人達とかがいなくなったのと学校によって入学式の時間とかが違うしまあラッキーだったんじゃないか?」
「そうだな。今度は酔わずに済みそうだよ。」
電車の中はがら空き。
毎朝の通学がこんな感じで空いてたらもっといいのに。
「なあ飯塚、先生はさ礼拝の予習をしとけって言ってたけどさ、もしかして聖書とかって必要なの?」
「お前話聞いてなかったの?今日配られたものの中にさ聖書の購入の案内が入っていたぞ。持っているやつは買わなくていいって言ってたな。あれだろ、あの中学校はキリスト教で元々家がキリスト教を信教していて持っているやつは少なからずいるからだと思うよ。」
「なるほどな。俺は全く今まで縁がなかったから買わなくちゃいけないのか。」
「そうだな。でもあれは結構安く買えるらしいぞ。」
「おお、それはいいな。」
「あと、仏教みたいに数珠とかを用意する必要はないぞ。俺もあんまり詳しくないけど飯食べる前に十字をきってアーメン?みたいなことをいうらしいぞ。」
「なんか映画で見たことあるやつだな。そんなに手間じゃないな。全然いい学校じゃん。」
まだ入学式があっただけだか、私立神天中学校の良さがわかった。
ただ、まだ何をどのようにするかは春樹は理解していないが。
「次は終点京都〜京都です。お忘れ物のないようにご注意ください。」
アナウンスが流れ時間を忘れて喋っていた春樹達は立ち上がった。
「んじゃこいつを届けにクラスメイトのところに行くか。」
「そうだな。」
春樹は手に持った大きな封筒を見てそう言う。
飯塚は気づいていたが春樹は気づいていない。
今日入学式を休んだクラスメイトがどのような人物かを。
「んじゃ俺こっちだから。春樹しっかりそれを届けろよ。」
「おう、じゃあな飯塚。」
「じゃなあ。何にもなければいいけどな...。」
「ん?なんか言ったか?」
「いや、何にも言ってない。じゃあな。」
「そうかじゃあまた明日。」
言い飯塚とわかれ自分の家に向かう前に新しい建った家へと向かう。
「すみませーん。」
チャイムをなんども鳴らし家主を読んでいるはずなのに中からは誰も出てこない。
「おかしいな?留守かな?最後にもう一回だけよんどくか。」
チャイムを鳴らしすいませんと言いかけたその時家のドアが勢いよく開いた。
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