親バカによる娘のための決闘
「紹介します。こちらが私のお父様、真田 仲人です。」
「俺はゆりの同級生の渡辺 春樹です。」
「丁寧にありがとう...。君はゆりとはどこまで進んだのかな?」
「?」
目を潤ませながら春樹にそんなことを聞く。
ただ、春樹はそれがどういうことを意味しているのかがよく分かっていない。
ゆりとはただの友達。
それ以上でもそれ以下でもない。
そんな仲なのにそのような事を聞く理由が分からないのだ。
そして、ふとあることを思い出した。
ゆりが説明してくれたこと、リーシェさんの勘違いだ。
それによりゆりの父親の言葉の意味が一瞬にして分かった。
「なるほど。一つ訂正したいことがあります。」
「ほう、言ってみなさい。」
「俺とゆりは付き合っていませんよ。」
「は!なんと!」
「多分そちらにいらっしゃるリーシェさんが勘違いしたのかと。」
睨む。
当のリーシェは明後日の方向を見て知らんぷりだ。
「はぁぁ、良かった!なんだ勘違いだったのか!」
「いえ、お父様今はまだ付き合ってはいないと言うことです。将来的には...うふ。」
「ねえ、ゆり何を想像したのかな?」
「内緒ですわ。」
ゆりの言葉を聞きゆりの父親は表情が無くなった。
無理もない。
娘が男と付き合っていると聞いて涙をこらえて話をするほどだ。
そんな娘の親離れ、そして想いを寄せる相手が目の前にいるとなれば親バカである彼はショックを受けるであろう。
「ゆ、ゆりはまだ中学一年生だし...お父さんともうちょっと一緒にいてもいいと思うんだけど...。」
「お父様、私の事が好きなのは分かります。ですが、その気持ちと同じように私も春樹君の事が好きです。わかって頂けますか?」
「...嘘だぁ!...春樹と言ったな。」
「はい。俺の名前は春樹ですが。」
「決闘だ!俺を倒せない奴に娘はやらん!」
「いや、めっちゃベタな事言ってるし...。しかも誰もゆりの事を貰うとか言ってないのに。」
助けを求めようとゆりの表情を伺う。
少し青ざめなような表情だ。
それはリーシェもおなじである。
「ん?どうしたの二人とも?」
「いえ、お父様が決闘と言いますと...。」
「刃が付いた本物の刀で勝負をするのです...。」
「え?そんなの聞いてないよ!」
ふっふっふと娘を守ろうと必死になったあまり不敵な笑顔を浮かべて笑っている。
そんな彼に春樹は勝ち目がないのを悟った。
「リーシェさん、ゆりのお父さんってもしかして結構強かったりするの?」
「はい。負け無しと聞いています。そして、挑んだ者を全員切り傷で痛みで悶えさせて返していると聞いております。」
「なんて無理ゲー...。」
勝ち目が無いと悟っていたが、もはや絶望だ。
切り傷というのは今の社会死ぬほどまでは切らないとは思うが、痛いものは痛い。
しかも大人が悶えるなどまだ中学生の春樹には大きな問題だ。
しかも、春樹は実剣すら握ったことはおろか木刀や竹刀ですら握ったことない。
「まあやるだけやってみるか...。」
「よく言った!流石男だ!」
ため息が出る。
やってやるだけやってみるとは言ったものの、どのような事をするのかが全く予想できない。
本当にやるだけやってみるだけだ。
〜〜〜
「さあ春樹!剣を握りたまえ!」
「っていうかこれって法律違反なんじゃ...。」
「ちゃんと国に特別許可を貰っている。真田家をなめるなよ!」
「いえ、別になめているわけではないのですが...。」
流石国を代表する大手企業だ。
国も公認の事を行えるなど一般庶民の春樹からさ驚きが多い。
「試合開始!」
リーシェによる試合開始の合図が聞こえた。
それと同時にゆりの父親が走り出す。
そして一瞬にして春樹に近づきその手に持った刀で春樹の首を狙う。
それをすんでのところで避け命の危機一瞬だけ免れた。
「チッ。」
「ええ?!今舌打ちしませんでした!?」
「やかましい!」
もう一度切りかかる。
このままではジリ貧だ。
今はまだ避けれてもそのうち体力がなくなり避けれなくなる。
春樹も腹をくくった。
ゆりの父親の両手で握った刀の一撃を片手で持った刀ではじき返す。
「なっ!」
そしてその作られた隙をつくようにして今度は春樹が距離を詰めた。
そして左手を額に丸めて弾いた勢いを使って押して、倒した。
そしてその左手は添えたまま右手で握った刀を首に触れるか触れない程の距離に止めた。
一本取ったのだ。
審判のリーシェを見る。
リーシェは呆気に取られて審判であることを忘れている。
「リーシェさん。」
「あ、はい。勝負あり!」
ゆりは期待通りと言いたげた顔で春樹を見ている。
そして一本を取られた本人は
「え、何が起きたの?」
素が出てますよー。
そう言いたいが心の中だけでこらえた。
「お父様が一本取られたのです。」
「え、私が?」
「はい。それにしても春樹君。」
「なんだ?」
「どうやって勝たれたのですか?」
それは春樹以外が不思議で不思議で仕方なかったことだ。
春樹自身も自分が行えたことに対しての驚きは大きい。
だからこそ言葉にして確信したい。
「んとね、ゆりのお父さんを食材だと思った
。」
「?」
一斉に頭の上でクエッションマークが見えるような顔をされた。
当たり前だ。
相手は腕を磨いた達人、それに対して勝った春樹は普通の人より料理が上手い程度の凡人だ。
「だよね、みんなそうなると思った。」
「詳しく説明して貰っても?」
「いいですよ。つまり俺は料理が好きなのでこの右手に持っている刀を包丁だと思いました。」
「包丁って言ってもそれにして長すぎるんじゃ。」
「まあ、刺身包丁も長いですしそれの延長と考えました。そして、たまに生きた魚などを〆たりしますのでその延長と考えてやりました。」
「ほ、ほう。」
「はい。俺も驚いていますよ。」
「ふぅぅぅ〜すぅぅぅー!」
ゆりの父親は息を吐きそして大きく息を吸った。
「本物の天才を発掘してしまったぁぁー!」
叫んだ。
それはゆりもリーシェも同意と言いたげのような顔をしてコクコクと頷いている。
「え?俺天才なの?」
自覚はない。
そんな春樹をキラキラとした目で見つめるゆりの父親に対して少し貞操の危機を覚えた。




