挨拶
「春樹君!突然ですが私の家に一緒に来ていただいてもよろしいでしょうか!」
「えっ、いきなり、」
「ありがとうございます!では今すぐ行きましょう!」
「ちょ、ちゃんと俺の話を聞いて。」
自分が勢いに任せて話をつけようとしたのに気づいたのかはわわわわと顔を赤くして俯いた。
最近あまり見なかったゆりの反応だ。
最初の頃はよくしていたが、もはや全力で春樹にアピールしているためあまりなかったのだ。
「話を整理をするよ。」
「はい...。」
「あ、別にそんなに落ち込むことないよ。」
「...ありがとうございます。」
「うん。それでゆりの家に行くの?」
「リーシェ、私のメイドがお父様に春樹君の事を言ってしまったのです。それでお父様がそんな小僧に家の娘はやらん!とか言いまして...。」
「つまり親バカなゆりのお父さんがゆりの事を好きすぎるあまりに俺の存在を認めたくないって事ね。」
「そういうことです。ほんとにお父様には幻滅してます。」
まあまあと宥めながらもゆりが持ちかけた話しを自分で整理する。
ゆりのメイド、リーシェが春樹をゆりの彼氏だと言ったということになる。
「ねぇゆり。」
「なんですか?」
「リーシェさんは何か勘違いしているんじゃない?」
「勘違いとはなんでしょうか?」
「ゆりと俺が付き合っていると勘違いしているんじゃない?」
「え、違うんですか?」
「え?」
「嘘ですよ。まだ付き合っていません。」
まだという単語は聞かなかったことにしよう。
ただ、アタックしてくれているゆりに対して悪い感情なんて全くもってないが。
「まあ、話はした方がいいと思うしゆりの家に行こうか。」
「はい!春樹君ならそう応えてくれると分かっていました。」
「あれか、真夏実と茜が先に帰ったのってゆりが先に言っておいたのか。」
「そういうことです♪︎」
鞄を肩にかける校舎を出た。
だいぶ隣を歩くゆりとの距離が近いが、離れればその分近づいてくるのが分かっているのでもう諦めている。
まだ腕を組んでこないだけましだ。
「春樹君。」
「ん、なに?」
「春樹君は好きな人いますか?」
吹き出した。
突然の質問。
しかもとても春樹にはレベルが高い質問だった。
「なかなか突然だねぇ!?」
「純粋に気になったんです。」
「そっか。...そうだねぇ、俺の好きな人か...。」
「ワクワク。」
「それ自分で言っちゃう?」
自分の心境を言葉に表すゆりに対して疑問を投げかける。
そんなことどうでもいいと言うようにゆりは無視する。
「よくわからん!」
「えーずるいですよ春樹君!」
「ずるいも何もないよ。」
「まあ、私の事を沢山知ってもらって好きになりますから。」
なんとも可愛い告白だ。
その顔を見た瞬間「これはだめだ」と思い直ぐに顔を逸らした。
だが、それは遅かったようでゆりに気づかれていた。
「あ、もしかして春樹君照れました?」
「照れてない。」
「そうですか?でも顔赤いですよ?」
「ほんと最近ゆりは俺に対して容赦ないね!?」
「はい!春樹君の未来のお嫁さんですからもっと親密な関係になれるように精一杯努力します!」
「う、うん。」
もはやプロポーズだ。
そんなゆりの言葉もここ最近よく聞く。
だが、未だに慣れないままだ。
本心から言っているゆりのその言葉にしっかりとした応えが出せないのがとても人として最低だと分かっている。
でもとても難しい問題だ。
そんな簡単に応えを出してはいけない。
「ゆりの気持ちはよく伝わってくるよ。だからこそ、俺もしっかりとした応えれるようにしたいし、そうできるように努力するよ。」
「はい。春樹君のそういう真面目なところ大好きですよ。」
「ありがと。」
確実に未来の話ではある。
ただ、春樹だからこそしっかりと相手に向き合って応えようとしているのだ。
逃げてはいけない。
中学一年生には難しい問題ではあるが。
「と、なんやかんや話しているうちについたね。」
「はい。少々お待ちを。」
ゆりはインターホンのようなボタンを押す。
すると門が開いた。
「すごいね。」
「そうですか?」
「ゆりはこれに慣れすぎているんだと思う。俺らには物珍しいけどね。」
「私と結婚したら」
「はいはいわかったよ。それよりもリーシェさん出てきたよ。」
門を入って豪邸までの長い道、その到達地点にあるドアから出てきた。
こちらに近寄る。
「おかえりなさいませお嬢様。」
「ただいまリーシェ。」
「なんかメイドカフェに聞きそうな言葉を聞いたきがする。」
予想通りと言えばそうではあるがあまり現実味のない話だ。
メイドなんて無いと思っていたのだから。
リーシェに案内されてある部屋の前に来た。
「ここで旦那様がお待ちです。」
「ありがとう。では入りましょうか春樹君。」
「りょ、了解。」
少し緊張する。
ドアが開き中の光景を見る。
そこには高そうなソファと棚、机、皿など飾り物が置いてある。
そして正面のソファになんとも髭が似合うダンディーな男性が腕を組んで待っていた。
威圧感に負けないように一歩一歩と歩を進め男性の向かい側のソファにゆりが座るのを見て春樹もその隣に座った。
男性の眼力がとても強いがその目が少し潤っているのがわかった。
そんなに娘のことが好きなのかと心底親バカ度をかんじた。