みんなで晩御飯
「母さん、今日は俺が晩御飯作るよ。」
「そう?今日は母さんの番だったはずだけど?」
「そうなんだけどさ、近所に引っ越して来たクラスメイトと茜がご飯食べに来るんだよ。しかも俺の作ったご飯を食べさせろって言ってるし。」
「あらあら、それにしても茜ちゃんが来るなんてどうして?」
「なんか茜は俺と同じ学校に行きたいからってここの近くのおばさんの家に引っ越したらしいよ。」
「そうなの?春樹はモテモテね。」
「変な事言わないでよ。」
「母さんはそう思うけどなぁ。」
簡単に今日人が来ることを説明し、それに対して春樹の母親が冗談なのかそれとも本気で思っているのかよく分からないことを口した。
「そろそろ来る頃だと思うから母さんはテーブルの上を綺麗にしといて。」
「りょーかい。さて、今日のご飯は何かなー?」
「今日は俺の得意料理の一つ、肉じゃがをしようと思う!」
「やったぁ!春兄の肉じゃが大好き!」
そう口で言いながら兄である春樹が大好きな雪は春樹に抱きつく。
「なんかこんな反応されると肉じゃがが本当に好きなのか、俺のことが好きなのかよく分からなくなるなぁ。」
「春兄の事が大好きで、その春兄が作ったものならなんでも好き!でも特に肉じゃがは格別っ!」
「そうか。それは嬉しいよ。」
質問に対して前者でもなく後者でもない返事をする。
普段の雪はこんな感じでただ兄が大好きなだけの可愛い妹なのだが、春樹の周りに女性がいた瞬間に人が変わったようになる。
それはどうにかして欲しい。
インターホンが鳴った。
真夏実と茜が来たようだ。
「来たね。入って。」
二人とも物珍しそうにキョロキョロしながら春樹が案内した方向へと進む。
茜は前の春樹の家はよく知っていたが、この家は知らない。
それは家が遠くなってしまったのが原因だ。
そして真夏実に関しては春樹は真夏実の家に入っているが逆は必要が無いので入っていなかったのだ。
そのため真夏実も近所でありながら春樹の家の中が新鮮なのだ。
「春樹のあの性格を育てた家はどのような物だと思ったけど、案外普通ね。」
「茜もそれは思った事があったが、前の家もごく普通の家だったぞ。」
春樹の性格を育てたのは家そのものではなく家族であると茜は知っている。
昔からそうなのだが、茜が春樹にベタベタと近づいていると人が変わったようになる雪と、春樹から聞いた話なのだが、出会って間もない人の家に夜遅くに行くと言っても何も心配せずに送り出すほどの信頼をしている母親がいる。
この二人が春樹の性格を育てたのだ。
「まあその辺に座っておいてよ。すぐに作るから待ってて。」
「わかったわ。」
真夏実は春樹に言われたように直ぐに座ったが茜はそうはいかなかった。
何故ならば、家自体は変わってしまったものの別に家具がすべて変わった訳では無い。
少し見覚えのない物もあるが、それよりも懐かしさが大きい。
「この机と椅子は変わってないぞ...。」
「そうよ茜ちゃん。」
「おばさん、久しぶりだぞ。元気にしてたか?」
「とても元気だったわよ!茜ちゃんもあんなに小さかったのに大きくなって...。」
「おばさんしみじみとしてるぞ?」
「そうね。こうやって昔は一緒にいたものだから思い出して。そして春樹に新しい友達さえ出来てそれで連れてきて...。」
息子の成長を嬉しがる母親そのものがそこにはあった。
そして、それを羨ましそうに見ているのは真夏実だ。
真夏実は家には誰も居らず、たまに休むために帰ってくる母親にも部屋に篭っているせいで会わない。
そのためこのような楽しそうな家族を見るといつも「自分もこのような家庭に生まれたかった」と思うのだ。
そしてそんな視線春樹の母親が気づいた。
「貴女のお名前は...真夏実ちゃんだったわね。」
「そうです。まだいきなり押しかけたりしてすみません。」
「いいのよ。春樹は人を見る目があって、仲良く出来る人にはとことん仲良くして、自分が苦手な人は少し距離を置く、そんな生き方をしているあの子が信じた子なら私も信じられる。いわば私の家族のようなものよ。」
圧倒的な信頼感。
それは春樹の母親だからこそのものだ。
そして、自分を家族と言ってくれた春樹の母親に対して、他の人に対してほ感じられない優しさを感じた。
これが家族愛なのだと真夏実は知っている。
実の母親にこそ感じないが父親には感じた事がある。
だが、父親は忙しいためなかなか会えないが。
「いつでも困ったら家に来ていいわよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
ふと鼻腔をくすぐる美味しそうな匂いがしてきた。
どうやら肉じゃがが出来たようだ。
「肉じゃが出来たぞー。皿に俺が入れるから雪運んでくれ。」
「りょーかい。」
雪がみんなの元へと白ご飯、肉じゃが、味噌汁、シーチキンがのったサラダを運ぶ。
「うわぁぁ。美味しそう!春樹はやっぱりすごいわね!」
「そうか?少し照れるな。まあ食べようか。」
「うん!」
全員の目が輝いている。
「何度食べてもこの肉じゃがは美味しいのよねぇ〜。」
「ありがと。んじゃ、いただきます。」
「いただきます!」
みんな食べ始めた。
初めて食べた真夏実はおもわず笑顔になる美味しさに驚き、今まで食べたことのある者達はまた上達した春樹の腕に驚く。
「うまっ!」
みんな声を揃えて叫んだ。
すこし真夏実の過去を紹介するしました。
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