ゆり
少女が目を覚ました。
顔を覗き込んでいた春樹がまずは目に入りその存在に驚く。
「わ、すみません私すっかり寝てしまって。」
「いや、いいよ。倒れたんだし俺が寝てなって言ったし疲れてたのもあると思うし。」
「は、はい。」
本当ならば真夏実と茜が飛んで来るはず、だが二人も椅子に座って机に体重を預けて寝ている。
そのため今起きているのは春樹と少女だけだ。
「そうだ、自己紹介がまだだったな。俺は渡辺春樹、春樹って呼んでくれ。ちなみに敬語はやめてくれ同級生だろ?」
「は、はい。私は真田 ゆり、ゆりって呼んでください。」
はわわわわと言いながら彼女もといゆりは自己紹介をした。
敬語じゃなくていいと言ったがゆりは敬語のままだ。
その方が喋りやすいならそれでいいのだが。
「まあいいや。あっちで寝てる髪が長い方が吉中 真夏実で、髪が短い方が竹之内 茜。俺のクラスメイトだ。」
「仲良いんですか?」
「茜は幼馴染だから仲良いな。真夏実に関してはよく分からないんだけど仲良くなった。」
「そ、そうですか。」
「ゆりは二組?」
「はいそうです。」
春樹かが三組、その隣のクラスは二組か四組になる。
「ゆりは少ししか寝なかったから自己紹介とか残ってると思うよ。心配だから一緒にクラスに行こうか。」
「わ、わかりました。」
ゆりは常におどおどしている。
まだあまり知らない人と接するのが苦手なのかもしれない。
「二人とも起きろ。教室行くぞ。」
「いやよ...。」
「まだ寝ていたいぞ...。」
「いいから早く起きろ!」
そう言い二人の頭にチョップをくらわす。
そんな三人のやり取りをみてゆりはクスクスと笑った。
「本当に仲が良いんですね。」
「お?そうか?まあいいや。早く行くぞ。」
春樹がそう言うと二人ともノロノロと動き出し靴を履いて保健室を出た。
「あいつらまだ寝ぼけているな。ついて行こ。」
「はい。」
まだゆりは笑っている。
それが疑問に思いながらも笑っているなら良しとし春樹も保健室を出た。
一年生の校舎についた。
春樹はゆりをクラスまで送り自分も隣のクラスに入った。
既に完全に目が覚めた真夏実と茜は席についていた。
「よし!全員揃ったな!では自己紹介を始めようではないか!」
担任の大きい声が教室に響く。
春樹も席についた。
「では一番からやっていこうか!では君から!」
そう指をさされたのは大志だ。
大志は前にでてニコッと笑う。
「飯塚 大志です。好きなことはスポーツです。」
短い挨拶。
それは時間があまり無いことを知っている大志の判断だ。
順番は周り次は茜の番だ。
「竹之内 茜だぞ。好きなことは春樹と喋ることだぞ。」
眠たくてあまり自己紹介を聞いていなかった春樹は目を大きく開いて驚いた。
そんな春樹を男子が睨む。
また再来したような感覚を覚えた。
あの時のことをいじめられるきっかけになったあのことを。
冷や冷やとしながらも順番は回っていく。
「吉中 真夏実です。茜と同じで春樹と喋ることです。」
悪魔のような顔で笑う真夏実。
それは春樹への嫌がらせだ。
心の底から人を恨んだのはこれが初めてだ。
そして次は春樹の番だ。
「渡辺 春樹です。好きなことは特にありません。しかし、嫌いな人ならいます。それは竹之内さんと吉中さんです。」
春樹のその衝撃に一言でクラスの男子全員よ春樹への嫉妬がなくなった。
嫌っているならまあいいかと。
それを大志は苦笑いで聞き、茜と真夏実は涙を堪えながら俯いて聞いた。
「喧嘩するほど仲がいいってやつだな!全員の自己紹介は終わったな!では先生が最後に自己紹介をしよう!」
担任の話が耳に入らないほど落ち込んでいる二人。
春樹は担任の言葉で二人が立ち直ると思ったが。
「先生の名前は田中 勝也だ!よろしくな!」
田中 勝也それがこの熱血教師の名前だ。
熱血なのは名前に勝が入っているためかそれとも全く関係がないのかは謎である。
チャイムがなった。
「起立、礼。」
「さようなら。」
「気をつけて帰れよ!」
チャイムが鳴ったと同時に大志が号令をして皆自分のカバンを持って教室を出ていく。
号令は田中先生に号令係と任命された大志がやることになった。
「よし、帰るか...?」
春樹は自分の服を誰かに掴まれているのに気づいた。
その方向にいたのは...分かっていた通り真夏実だ。
「春樹...」
「あ、嫌いって嘘だからな。」
「ほんと?」
一気に顔が明るくなっていく。
そしてそれは俯きながら近づいてきた茜も一緒だ。
「お前らが調子に乗るからだぞ。気をつけてくれよ...。」
「わかった。」
「了解したぞ。」
しっかりと反省したような顔をしている。
「中学校生活が駄目になってしまったかと思ったよ。もう心臓に悪いからやめてくれよな...。」
真夏実と茜この二人は可愛い。
そのためその二人に好かれている春樹は男子の嫉妬の対象となってしまうところだったのだ。
ただひたすらに安心した。
そんな時教室の扉が勢いよく開いた。
「は、春樹君!私と一緒に帰ってくれませんか!」
そこにいたのはゆりだ。
しかも顔を真っ赤にしながら。
「もちろんいいよ。一緒に帰ろう。」
「は、はい!」
嬉しそうに返事し春樹に走って近づいてくる。
そして触れ合うような距離まで近づき春樹に最高の笑顔を見せた。
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