4話:時間跳躍 ~ ホンモノのニンゲンのなり方 ~
サキは機獣オーバード・ネメアTYPE2に乗り、時空ゲートから過去に向かって跳躍した。
事の始まりは、数分ほど前に遡る。
~数分前~
『サキさんの体をスキャンした結果、サキさんは思考反応型変動時空構造を持つ人間だと判明しました』
クロノ・ガーディアンのお仕事はそこそこ過酷らしい。
なので、クロノ・ガーディアン隊員は定期的に肉体をスキャンして、恒常性やら何やらを確認しなければならないらしい。難しいことはサキには分からないので、割愛する。
サキの体をスキャンしたエボニーは、補足説明をした。
『簡単に言うと、サキさんは自由に時空ゲートを開ける体質です』
「自由にタイムトラベルできるってこと?」
『はい、そうです。サキさん、ちょっと試しに過去に跳躍してみましょう』
「わかった。こんな感じかな……時空ゲート、オープン」
思考に反応して、サキの背後に巨大な時計盤が現れた。
次元エネルギーで構成された時計盤上では長針と短針がカチコチと音を立てており、銀色の光を放っていた。時計盤の真ん中にはぽっかりと巨大な穴が空いている。
これこそが時空ゲートなるものらしい。
『開きました! 時空ゲートが開きました!』
エボニーが歓喜の声を上げる中、サキは機獣オーバード・ネメアTYPE2を見上げた。
「ネメアはどうしよう?」
「グォン」
『機獣ですか!? 機獣ですね!? サキさん、機獣に乗って下さい! 機獣は時間の流れからパイロットを守る装置、いわゆるタイムマシンとしての役割も果たすんです! さあ、時空ゲートが閉じない内に、早く!』
「わかった。いこう、ネメア」
「グォォン!」
こうして、サキは機獣オーバード・ネメアTYPE2に搭乗し、時空ゲートに飛び込んだ。
~現在~
しかし、サキとて不安はある。
様々な色の輝きが煌びやかに灯る時空回廊を駆ける中、サキは機獣オーバード・ネメアTYPE2のコックピットに差し込んだセーフティデバイスに問いかけた。
「……大丈夫かな。タイムスリップ先でちゃんとガーディアンとして活動できるかな」
『普通にしていれば大丈夫ですよ』
「普通、ね……」
(そんなこと言われても、私たちには普通なんてわからないよ)
西暦2019年の日本では学校教育が完全に崩壊していた。
学校教育の崩壊に伴い、普通という定義は失われた。
次々と離婚していく両親。続々と蒸発する親。お互いに無関心な親。暴力を振るっては偽りの愛を語る親。子供を労働させる親。親の都合で作られては捨てられていく子供たち。子供は搾取されるモノ。
子供たちは自分の意志で親と学校の教育から離れた。世の中の速度に付いていけないテレビと新聞は時代遅れとなり、子供たちはネットを親代わりにして育った。
子供たちはネットニュースを信用し、SNSで交友を持ち、ソシャゲで競争し合い、時に友情を育み、時に憎しみ、時に窃盗を犯し、時に殺人を犯し、時に音楽を奏で、時に愛を交わした。
それがニセモノだとするのなら、何がホンモノだと言うのか。誰がホンモノを与えてくれると言うのか。
親は信用できず、教師もまた信用できない。
親は口を揃えて言う。「私たちはちゃんと子供を育てました。ウチの子がおかしくなったのはあんたら学校のせいです」と。
教師は立場の弱さ故に何もできず、単なる傍観者と成り果てた。
親は泣き叫んだ。「こんなはずじゃなかった」、「まさかこんなことになるなんて」、「この子が何を考えているのか分からない」、「こんなの、私たちの子供じゃない」と。
それでは、誰が私を産んだと言うのだ。私たちはキャベツ畑で生産された人工生命体だとでも言うのか。
親は子供たちを勝手に産み、勝手に幻滅し、勝手に捨てていく。
誰も子供たちを助けてはくれなかった。
何を以て普通とするのか。サキには分からない。多分、今となっては誰にも分からないのだろう。
テレビや新聞では、「血の繋がりは大事だ」、「家族は大事だ」と主張している。けれども、捨てられた子供たちがひしめく地球の日本では、その言葉はひどく虚しい響きを伴っていた。
『あっ、ここです! この回廊を右に回って時空ホールに入って下さい!』
「了解。タイムスリップ完了。現地に到着する」
「グォォン!」
誰も子供たちを守ってはくれない。
だから、サキは時間を支配したい。
歪でささくれた人間関係の中で失われた時間を取り戻し、ホンモノになりたい。捨てられた子供たちが口を揃えて言う、『ホンモノのニンゲン』になりたい。
その願いだけが、サキの体を突き動かしていた。
時間が空き次第、次話を更新しますm(_ _)m