空〜母とオマエとそしてある阿呆へ〜
オマエは馬鹿で、兄貴は阿呆。
阿呆は誉め言葉ではありませんのでご承知を。
安らかな顔で眠ればいいのに
まるで地獄に堕ちていく苦痛か
それとも生への執着か
別れを言いたかったのか
その本心は分からない
朝、伸びて息絶えていたオマエは
その時何を望んだのか
見ていたわけじゃないから分からない
けれども
これだけは言える
オマエも私から逃げていくのか
皮肉なものだ
私が永久の別離を味わいたくないがために
ただ誰よりも早い死を望み
望み続けているというのに
周りが先に死んでいく
ようやく本格的な冬を感じ始めた高い空
青空を斑に彩る様々な雲
昇った二頭の竜は交わる
それが
まるで母が呼んだかのように
それまで一年以上の間
待っていたかのように
ようやく昇天していく
私の愛すべき家族のように思われた
もう母は私の夢枕に立つことはないだろう
母はときどき弁解しにやってくる
それは私の願望ではなく
言いたいことを勝手に言って
心残りを勝手に晴らして
挨拶もなしに去っていく
母は気まぐれな猫だ
だがその愛は
深く豊饒で限りがない
だから余計に寂しいのだ
寂しがりなのだ
私の預かり知らぬ世界で
その寂しさが少しでも紛れたことを願う
死というものは事故でもない限り
否、即死でもない限り
臭いがある
光は弱く、見るものに哀しさしか与えず
膿のような独特の香りと一緒に
母にもオマエにも私にも
その時を知らせる
実際に目の当たりにしなければ分からないそれを
ただオマエは知らせたかったのか
残酷でしかないその告知を
私が受け入れ
足掻かぬことを知っていたのか
オマエは私を拒まない
只、せめて間に合う内に
言いたいことを
最後の罵倒を
言わせてくれたことに感謝したい
私の右足が痛むのは
数年前の交通事故の
オマエのその痛みだろうか
動く足と動かぬ足と
引きずる気持ちがよく分かる
せめて最後にその痛みを教えてくれたことで
情操教育の意味を理解した気になる
部活でも
友人関係でも
オマエからでも
母からでも
思い知らされるのは常に私の利己心だけだ
生きて欲しい
寂しいから
虚しいから
オマエも母も
苦痛から解放されたいだろうに
子供じみた独占欲と
他人を蹴散らしてでも手に入れたい地位と
些細なことで
自分の根本に眠る
黒々とおどろ雲のように渦巻く
触れてはいけない何かに気付かされる
思い知らされる度
これが大人の階段を登るということなのかと思う
頭に流れるのはあの名曲だ
その歌を初めて知ったときには理解しきれなかったどころか
阿呆臭いと一蹴してしまったその歌詞が
今ならもう
思春期の核心を突いているのだと分かる
子供と大人の間で
大人からは青臭いと笑われ
子供にはまだ理解できない
良心の呵責が
割りきれないもどかしさが
青春の与えてくれる
最大の贈り物に思える
一つ一つ
新たな扉を
過去に開けた扉を
開けていく度に
真理に近づいていく
現実を見て掴むもの
夢を見て掴むもの
答えには辿りつけないかも知れない
頭の良し悪しではなく
只、それを心で感じ続けること
それだけでいいのだ
それを許さない社会があるのならば
そんなものは民主主義でも何でもない
空が虹色に染まる
上を見ると美しい青
西の空には沈みゆく太陽を中心に
青に向かって懸命に抵抗する
美しい色
夕焼けを見る度寂しくなったりはしない
私に言わせれば、寂しいのは幼児体験の賜物だ
夜になれば、家に帰らなければならないから
楽しい時間が過ぎていくから
夕焼けは
消え行く瞬間だから
あんなにも美しいのだ
一瞬だけ強く輝くのは
命と同じだ
そしてどんなに人間が足掻いても
それは運命づけられているかのように
その時はやってくる
空はいつも
私には鏡の役割を果たしてくれているようにしか思えない
一つだけ見せて欲しいものがあるならば
それはオマエの心でもなく
母と幸せになっている姿でもなく
音信不通の
阿呆な兄の姿だ
見上げた空が同じだと言うのなら
一言、その阿呆に言いたい言葉がある
それが向こうの空まで
届けばいいのに
オマエは猫。
今日亡くなったので、どうしても今日上げたかったので、詩にしちゃいました。
日記だと伝わらない独特な気持ちを空に掛けてみた、私の偽りなき本心です。