真実
初投稿で分からないことだらけです。よければ見ていってください。
『ーーーー返して』
突如聞こえた声に驚き、夏菜子はハッと目を覚ます。夢だと思ったが、それにしては声ははっきりとしていた。
「どういうこと…?」
ベッドの上でボソリと呟く。先ほどの声は、中学生の頃の親友「美咲」のものととても似ていた。いや、そのものだったのかもしれない。彼女はもう、この世にはいないのだ。
「美咲…なの?」
尋ねてみるが、返事はない。そこでふと、夏菜子は美咲の死因を思い出そうとした。だが、思い出そうとすればするほど、鋭い頭痛と耳鳴りが夏菜子を襲う。
「ううっ…!」
それがあまりにも強烈で呻き声をあげる夏菜子。段々と意識が遠のいていく。そんな私を、誰かが見ているような気がした。
夏菜子は目を覚ますと、歩道に立っていた。見慣れた景色。そうだ、と夏菜子が思い出す。
(中学生の時の通学路だ……。高校に入ってから、こっちに全然通らなくなったなあ…)
と感慨に浸っていると、女子中学生二人が何やら揉めていた。それを見て、夏菜子は驚愕した。そこに居たのは、眼鏡をかけ、地味な女の子と、中学生の頃の夏菜子だった。
「私だ…」
夏菜子がボソリと呟いても、その二人には声が届いていないのは明らかだ。
(でも私、中学の頃、こんな喧嘩したことあったっけ……)
そんな疑問を抱えながら、二人の会話を見守る。
「どうしてくれんの?明日からどうすんの、これ!?」
「私だってわかんないよ。でも、しばらくはこのままじゃない?」
会話を聞いても喧嘩の理由が思い出せなかった。地味そうな女の子の服に相当落ちない汚れでも付けたのか?そこまで考えて、夏菜子は遂に思い出す。
(ーーーあ、そうだ。入れ替わったんだ。私と、“美咲”)
彼女らは姿が入れ替わっていたのだ。
(私、美咲の姿が羨ましくて…)
夏菜子は、対象の一つの持ち物と全く一緒の物を買って、それらを相手に気づかれないようにすり替えられたら姿が入れ替わるという都市伝説のような儀式を行い、見事成功したのだ。
(そう、そうだ。私、最初は全く信じてなくて、でも、帰り道の途中で姿が入れ替わって…それで………あ)
夏菜子は重大なことを思い出し、走り出す。
「しばらくってどれくらいよ!!」
美咲が叫び散らす。
「高校入るぐらいまでかな〜」
姿が入れ替わり、有頂天になっている夏菜子は明るい様子で答えた。
「…はあっ!?信じられない!!こんな姿でそんな長い時間過ごすなんてごめんよ!!」
美咲が夏菜子に飛びかかる。
「やだっ、離して!」
夏菜子が必死に払おうとするが、美咲は手の力を緩めない。
「このっ…」
夏菜子は思いっきり力を込めて美咲を跳ね飛ばした。
その先は、車道。
「あっ………」
夏菜子は素早く美咲の手を引き、抱き寄せる。直後、トラックが通り過ぎた。すると、世界が溶けていき、白色の世界になって行く。その中には、夏菜子と美咲だけ。夏菜子は美咲から離れ、崩れ落ちる。涙が、止まらない。
「ごめん……ごめんね……今更、こうしたって、もう美咲は……本当に、ごめん……」
『思い出しただけでマシよ』
夏菜子は涙でぐしゃぐしゃになった顔を美咲に向ける。
「返してとか言ったけど、干渉できるのはこんぐらいのレベルまでだし、大体今更姿を返してもらってもね…」
美咲は笑みを浮かべ、言った。
「だから、大切に扱ってよね、私の体!」
「うん…うん…!」
美咲は満面の笑顔を見せたまま、白い世界へ溶け込んで行った。
ピピピと目覚まし時計が鳴る。夏菜子は目を覚ました。すぐに姿見の前に立つ。いつも通りの私だ。
「美咲、ありがとうね」
そう言い残し、夏菜子は部屋を出た。姿見から、
「高校、私の分まで楽しめよ!」
と聞こえたような気がした。