表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/44

7.負けたくはない

今回はちょっと心持ち長めの。

戦闘シーンは気がつくと長くなるぅ…

 辺りに響く獣の咆哮。

 それを聞いた瞬間、身体が一瞬怯む。

 やばい、油断した…!あの咆哮は何かのスキルのようだ。確実に私よりあの狼の方がレベルが高い。


「ガァルルルッ!!!」


 私が動けないことが分かっているようで狼が素早く私との距離を縮めてくる。

 速い…!!先ほどの兎より格段に速い。

 はっ!と気がついた時には、狼の鋭い爪が眼前に迫っていた。

 まだしっかりと動かせない体を、どうにかして動かす。この体勢であの攻撃を受けるのは、とても危険な気がした。


「くっ!!! 」


 左肩に痛みが走る。痛みに対する感覚再現率は、特にいじってはいない。確かデフォルトで30%だったはずだ。それでも左肩を襲ったダメージはかなり痛い。


 狼の攻撃の反動で地面に転がる。身体が動かせるようになっていたので受け身をとってから、身構えた。

 狼は私に一撃を与えると、ひらりと離れて距離を取ったようだ。


 簡易ステータス画面を開く。簡易ステータス画面とは戦闘中やフィールド上でHPなどの自分のステータスを表示したままにできるシステムだ。

 それを邪魔にならない位置に配置し、狼からなるべく目を離さず、自分のステータスを確認する。

 簡易ステータス画面の使い方……このやり方もチェシャに教えてもらってないけど…今はそんなことは言ってられない。



 名前:ユズリハ Lv.2

 種族:人間×幻影種・吸血鬼 種族Lv.1

 職業:ノービス 職業Lv.1


 HP:80/100

 MP:300/300


 状態:通常



 予想していたよりもあの攻撃、結構威力がある。爪攻撃なら、あと4回。確実にそれ以外の攻撃もあるだろうなぁ……そうなると、ちょっと厳しい。

 こちらの攻撃がどれほどダメージを与えられるかもわからない。

 この感じだと、今のこの状態では、あの狼に勝てる気がしない。


「グルルゥ……」


 狼は低い唸り声を上げながら、こちらを警戒してる。

 じっと狼を見つめたまま、息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。刀の柄を握っている手に力を込めた。


 狼が動く。


 決して、狼から視線は外さない。

 狼はスピードを上げながら、ある一定の距離まで来ると跳躍。先ほどのように、鋭い爪がついた前足を振り上げる。あの攻撃がくる!


 まだ、まだだ、まだダメだ。


 焦りそうになる気持ちを抑えながら、タイミングを計る。1、2、3…!!!


「はっ…!! くっ!!!!」



 キィンッ!!!!


 刀と爪が打つかる音が鳴り響く。

 力は明らかに狼の方が上。その攻撃の力強さに押し負けそうになる。けれど、私は最初から狼に攻撃するつもりはなかった。


「これで、どうだっ!!!!」


 押し負けるのが分かってるのなら、私は、その力を利用するだけだ。その攻撃を、重心を移動させ刀で後ろに受け流した。

 途端に狼は驚いた気配をし、バランス崩す。


 そのチャンス、逃がさない。

 素早く刀を納刀、そして抜き放つ!!!


「ギャンッ!!!!!」


 刃先が狼の後ろ足に当たり、その部分を斬りつける。スキル《居合・攻》が自動で発動したらしいのは、ちらりと視界の片隅で見えたログからわかった。


 私から距離を取る狼。警戒の度合いを強め、怒りを露わにしてるのが伝わってきた。

 心臓がバクバク鳴っている。なんとか、ぶっつけ本番で出来たけど、正直もう、あの行動はやりたくない。


「グォゥガァァ!!!」


 一度大きく吠えてから、狼が向かってくる。しかし先程よりはスピードが落ちている気がした。後ろ足を斬りつけたからだろ。

 再度、刀を構える。そして、また狼の攻撃を受け流すことに全力を掛けた。





 攻撃、受け流す、攻撃、受け流す……


 何度繰り返しただろう。隙をついて攻撃はしているので軽度のダメージ程度は与えてはいるはずだが、状況はよろしくない。

 私は息が上がり、肩で呼吸をしていた。ちらりと簡易ステータスを見る。



 名前:ユズリハ Lv.2

 種族:人間×幻影種・吸血鬼 種族Lv.1

 職業:ノービス 職業Lv.1


 HP:40/100

 MP:300/300


 状態:疲労



『状態:疲労』の文字。動こうとすると、ジワりジワりと微弱だがHPが減っていくのが見えた、なるほど、これが『疲労』の効果か。

 これだと攻撃を防げて、あと2回。攻撃できて1回ぐらいだろう。チュートリアルとはいえ、負けるのは悔しくて、意地になってるのは、自覚していた。

 今は私と距離を取っている狼の方も、疲労しているようだ。次で決めないとダメだ。


 深呼吸をする。刀を握る手に力を込め、静かに狼を見据えた。構える、そして、狼に向かって走り出す。

 狼もこちらを見据えたまま走り出した。これで決着をつける、狼の目はそう言ってるように思えた。


「ガァァッ!!」


「やぁっ!!!!」


 鋭い牙が並んだ口を大きく開けた狼の噛みつき攻撃。これは、避けられない。だから、私は大きく左手を振りかぶる。


「これ、でも!!噛んで、てっ!!!」


 ガキィンッッ!!!!!


「グゥッ!?!?!?!」


 狼が驚いた気配。その一瞬の隙に刀の切っ先を、全力で狼の眉間へと叩き込んだのだった。









「おっつかれさまぁー!!すっごいよぉ!ユズリハすごぉいねぇ!!ユズリハのステータスで、あの子を倒すの、ほぼ無理って感じだったんだけど、倒しちゃった!すごぉいすごぉい♪」


 チェシャのキャッキャ♪とテンションの高い声を聞きながら、私は地面に仰向けでぶっ倒れていた。

 もう、無理です、もう動けない。ってか、ごめん、チェシャに返事をするのさえ、億劫なんです…。

 ちらりと簡易ステータスを見れば、残りHPが5で、『状態:過労』と変化していた。

 これ、今無理やり動いたら、死ぬやつじゃ……。


 ちなみに、どうやって勝てたのか。それはほぼ賭けだった。

 向こうもこれで決着をつける気でいたのは雰囲気でわかった。だから一番強い攻撃がくる気がしたのだ。獣系がよく使うあの攻撃が使われてなかったから、それがくる、と。なので、爪攻撃がきてたら詰んでた。

 私はあの時、噛みつきがくると予想していたから、事前にベルトから刀を外し鞘を手で持っていた。

 噛みつきが来たら、その鞘を噛ませ、防げるように。

 そして私は、その賭けに勝ったのだ。



「チェ、しゃ…あり、が…とう」


「ほんとにぃすごいよぉ!!お疲れ様ぁー!!あ…!!ごめん!!今の状態じゃ何もできないねぇ、すぐ回復させるぅ…!!」


 息も絶え絶えに、返事をしたら流石に今の私の状況を把握したらしい。慌てた様子でチェシャが「元気になぁーれ☆」と呟いた。

 ふわりと体を温かい優しい風か包み込む、じんわりと体の中から温かくなる。そして、その温かさが体全身に行き渡った瞬間、私のHPは全快、状態も通常に戻っていた。

 むくりと起き上がってから、背伸びをする。服の汚れを叩いてから、深呼吸をした。


「ふぅ、ありがとうチェシャ…流石にあの状態は死ぬかと思った…」


「いやぁ、僕もすぐに回復してあげなくてごめんねぇ…とりあえず、いろいろと説明したいけどぉ、まずはさっきの戦闘のログ確認したほうがいいよぉ〜」


 そう言われたので、先ほどの戦闘のログ確認。

 おぉ、結構すごいことになってる。



【レベルアップしました。Lv.2→ Lv.4】

【精神+2、幸運+1、BP+10、SP+6取得しました】

【《剣術・刀:Lv2》→ 《剣術・刀:Lv3》になりました】

【《居合・攻:Lv1》→ 《居合・攻:Lv2》になりました】

【《鷹の目:Lv1》→ 《鷹の目:Lv2》になりました】

【スキル《居合・護》を覚えました】

【『森狼(フォレストウルフ)の牙』『森狼(フォレストウルフ)の心魂』を手に入れました】



《居合・護:Lv1》

説明:素早く刀を抜いて敵の攻撃を受け流し、弾く技。鞘に収めた状態で帯刀し、鞘から抜き放つ動作で相手の攻撃を無力化する。必ず『一度、鞘に収めた状態から抜刀』することが条件。1度の抜刀で防げる攻撃は2撃まで。連続使用:3回まで、クールタイム:3min



森狼(フォレストウルフ)の牙』

説明:森狼の牙。かなり丈夫で鋭く、武器の素材や強化素材として優秀。


森狼(フォレストウルフ)の心魂』

説明:森狼に認められた証。きっと、この者はあなたの助けになるだろう。



 あれだけ頑張ってスキル覚えなかったらどうしよう……って思ってたけど、よかった覚えてた。そのことに、ほっと胸をなで下ろす。

 レベルも2上がってたので、やっぱり格上の相手だったんだなぁ。そして、ドロップであの狼の名前が判明。あと、とても気になるアイテムがある。ちなみに、さっきの《鑑定》でスキルのレベルも上がって、ちょっと嬉しかった。


「『森狼(フォレストウルフ)』…?」


「さっきユズリハが戦ってた子だよぉ〜。名前のまんま、主に森に生息する狼だよぉ。1匹だけだと、レベルが低くてもいけるけどぉ、基本的に群で行動してるから、ソロだと厳しいし、ある程度レベル高くないとキツイ相手だねぇ。ちなみにさっきの子はLv.4だよぉ」


「なるほど、よく勝てたなぁ私……あ、1つよく分からないアイテムがあるんだけど…『森狼(フォレストウルフ)の心魂』ってなに?」


 《鑑定》しても詳しい説明がなく、内容についてもよく分からなかった。

 チェシャが驚いた顔をするが、すぐに納得した顔になり、うんうんと頷いている。


「ああ、やっぱりドロップしたんだぁー。それはね、そのまんま、ユズリハがさっきの森狼(フォレストウルフ)に認められた証だよぉ。この人なら従ってもいい、この人なら手を貸してもいいってあの子がユズリハに対して思ったから、そのアイテムがドロップしたんだぁ」


「え、倒してるのに??」


「倒したからこそ、だよぉ。森狼(フォレストウルフ)は好戦的なんだぁ、まぁ狼系の魔物全てに言えるんだけどねぇ。だから、上下関係決めるのも全部、力の強さで決まる。ユズリハは格下なのに、互角に戦ってそして勝利したから、あの子を楽しませたから、って感じかなぁ」


「この『〜の心魂』系のアイテムは戦闘以外でも貰えたりするの?」


「貰えるよぉ〜要は一定の好感度を魔物相手に持たせればいいんだもん。まぁ、好感度の感じ方は個体によって違うから、頑張ってね?って感じかなぁ」


 なんか、話を聞いてるとレアドロップみたいだ…。嬉しいけど、でも、倒した相手に認められるってちょっと私は複雑だなぁ。倒し方がアレ(眉間に刀をグサァ)だったし…。他の方法で欲しかったかも、これ。


「んで、使用方法なんだけどぉ、それを持ってると《使役》や《調教》、《召喚》なんかのスキルがなくても、その証をくれた魔物を使役することができるようになるよぉ〜」


「えっ……」


「その証をくれた子がユニーク個体って設定になるから、その子限定ってなるけどねぇ。一緒に牙もドロップしてるでしょ? それを持って教会に行けば、結構お金はかかるけどぉ、簡単に《従魔》げっとぉだよ☆」


 なん、だと…。


 説明を聞いた私は、思わず、ポカンとチェシャを見ることしかできなかった。


 まじか。

7/25修正:ステータスにレベル追加

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ