32.やらかしてる自覚はない
話が脱線するのは仕様です……( ˘ω˘ )
「ひとまず、このクエストはアタシと白妙も受けることにするわぁ。そして、この情報をローグランに売ろうかと思うの。あの人、有志で今自主的に初心者支援のボランティアみたいなことをやってるようだから丁度いいし、やっぱり内容的に受ける人は多い方が良いと思うのよねぇ」
「クエストの発注者であるギルマスさんが初心者向けのお金稼ぎクエストって言ってたってこともあるから、私たちみたいなβテスター組じゃなくて、リリースから始めた人たちがやった方が良いって思ったの」
そうカシスさんと白妙さんが言うので、全てお任せしますと2人に丸投げしました。はい。
別にこれを独占する気はさらさらないし、せっかくやるならクリアしたいし、内容的に人が多い方がいいって思ってたからね。決してめんどくさかったら丸投げしたとか、そんなこと……半分ぐらいはそう思ってたけど、うん。
「ローグランって…あれか『拳の聖者』……」
「『拳の聖者』? なにそれ?」
ソーンがなにやら遠い目をしつつ、あぁ、アイツかぁ…と呟いてたので思わず聞いてしまった。
「同じくβテスターで、職業が『聖職者』、プレイヤーだけど教会に所属してる珍しいプレイスタイル奴だよ。βテスト時代、冒険せずにずっと教会の仕事してて、司祭の位を取得してたはず。あとNPCの好感度はトップクラスなんじゃないかな……そいつが外歩くとNPCに拝まれてる姿をよく見かける」
へぇ…そういうルートもあるんだなぁ。ってことは領主さんとかと仲良くなってお手伝いしてたらそれに応じた役職を貰えるとかもありそう。
まぁ、その辺りは気が向いたら探してみるのもありかもね。それはそれで楽しそうだなぁと思いつつ、とりあえず今一番気になってたことを聞く。
「んで、『拳の』って何?」
「そいつの攻撃スタイルが、素手で戦うスタイルだから」
「……聖職者、だよね?」
「アタシも気になって本人に聞いたことあるけどぉ、本人曰く『武器はオーバーキルしてしまう可能性がありますが、拳なら加減が効きますから』ってわけわかんない事言ってたわぁ。基本良い子なんだけどぉ、頭は結構脳筋寄りなのよねぇあの子……良い子なんだけど……」
司祭の格好で悲しげな顔しつつ、魔物を殴り倒す姿が印象的だったわぁ……とカシスさんも遠い目をしていた。
気になるなら紹介するわよ?とカシスさんが言ってくれたけど、ニッコリ笑って遠慮しておいた。
気にはなるけど、お近づきになるのは、その、うん、ちょっとね……遠くから見てみたいとは思ったけども。
閑話休題。
「って事で、ユズちゃん、この後少しお時間あるかしらん? よかったら一緒に商業ギルドに付いてきて欲しくて。あと出来たら一緒にハーブラビット狩りしてもらえると助かるわぁ。実は上質肉なんだけど、存在することは知ってたけど、ドロップ条件がいまいち分かってなくてねぇ……それで、ユズちゃんの戦い方見せて欲しいの」
「それぐらいなら、いいですよ」
「ユズちゃん、ありがとうぉー!助かるわぁー!」
カシスさんにそうお願いされて、二つ返事で了承する。
どうせこのあと、日が落ちかけたら、また戻ってハーブラビット狩りしようかなって思ってたし。
あ、そういえば《調合》やろうと思ってたんだっけ。まぁ、明日とかでもいいか……とりあえず今はこっちのクエスト優先と金策な、うん。
あっ、今思い出した!という顔をして白妙さんが言う。
「そうそう、ユズリハちゃん、いろいろ貰った情報の代金だけど現金払いと物品払いどちらが良いかしら?」
「え、別にいらないよ? それにクエストに関してはジーヴスさんの反応から私以外も受けてるっぽい雰囲気あったから、私が最初ってわけじゃないと思うし……っ?!?!」
「ユ・ズ・リ・ハ・ち・ゃ・ん?」
キョトンとした顔でそう答えたら、白妙さんに両肩をがっしり掴まれて凄みのある笑顔で詰め寄られる。
あわわっ美人さんのその顔は、迫力があって気圧される……ひえっ……!!
気圧されてピシリと固まった私をみたジンが、ため息つきながら助け船を出してくれた。
「ユズリハ、お前なぁ……今のそれは2人に対して失礼だ。そこは黙って選んで報酬受け取っとけ。そいつらはそれが仕事で、貰った情報にはそれ相応の対価を払うのがポリシーとしてるんだから、断るな」
「そうよぉ〜ユズちゃん。それがアタシたちのお仕事でポリシーなの。だから、ユズちゃんは遠慮なく対価を貰ってね、何がどうあれアタシたちその情報を持ってきてくれたのはユズちゃんなんだから」
諭されるようにそう言われて、うぐぐ……そう言われちゃったら断れない……。
なので、カシスさんたちからは情報の対価は現金で頂くことにした。物品は今必要なものは特にないので、何がいいか分からなかったからね。
ちなみに対価の内訳としてはクエストの情報が50,000G、ティーカップ&茶葉が20,000G。
あぁ……あっという間に目標金額達成したわ……いや、ありがたいけど、すごく助かるけど、そのなんというか……ぐぬぬ。
とりあえず金額に驚いて、2人に高くないです??って聞いたら、これからもなにかとご縁がありそうってかユズリハちゃんなら色々見つけてくれそうなので、先行投資も兼ねてこの金額って言われました、はい。
いや、そう期待されても困るんだけどなぁ……。
カシスさんからトレードの申請が飛んできて、金額を受け取りますか?的な画面が出てきたので、はいを押す。
それにしても、こんなに貰うのは少し心苦しい気もする……そうだ、ちらっと『〜の心魂』系のアイテムについて聞いてみよう。
「そうだ、カシスさん、『〜の心魂』系アイテム知ってますか?」
「あら…あらあらん!! 何かしらそれ? 聞いたことないわねぇ…白妙は知ってる?」
「私も知らないわ。ねぇねぇ、ユズリハちゃん詳しく教えて?」
ちらっとそう伝えたら、2人から、ほらやっぱり!!私たちの勘は当たってた!みたいな顔でめっちゃガン見されました。はい。
ちらりとソーンとジンを見れば、こっちはこっちで、まったく…お前は…みたいな顔をして、ソーンは頭を抱えており、ジンはため息をついていた。ほんと2人とも失礼だな、おい。
まぁ、カシスさん達が知らなかった場合、2人からこんな反応されそうとは思ってたけどね……。
とりあえず、説明する前に実物見せたほうがいいよねって事でインベントリから『森狼の心魂』を取り出し2人に見せる。
「えっと、これなんですけど」
「あら、とっても綺麗な石ね!早速《鑑定》してもいいかしら?」
「はい、どうぞ」
2人に渡そうとしたら、そのままユズリハちゃんが持っててって言われたので、手の上に乗せて待つ。
そういえば、このアイテムだけど説明は読んだけどちゃんと手に取って見たのは今回が初めてだ。
『森狼の心魂』は手のひらサイズのハート形をした半透明の石だった。
薄っすら緑っぽい色をしてるのは森狼のものだからかな? ってことは、魔物の種類によっては色は変わりそうだなぁーなんて思いながら、カシスさん達が《鑑定》し終わるまで待っていた。
「ありがとう、ユズリハちゃん。なかなか面白いアイテムだったわ。それを手に入れた経緯を聞いても大丈夫?」
そう聞かれたので簡単に答える。
チュートリアルの戦闘で格上の森狼を倒したらドロップした事を、その時の状況と一緒に説明した。
その時にチェシャに聞いたことも一緒に話しておく。
「あ、あとチェシャ曰く、魔物相手に一定以上の好感度を持たせて、その相手に認められれば貰えるアイテムだって言ってた。個体によって好感度の感じ方は違うとも言ってたよ」
「ふむふむ…なるほどねぇ。このアイテムの使い方も聞いてるのかしらん? これ説明文だけだと、いまいち何に使うのか分からないのよねぇ、あと、ユズちゃんはこのアイテム《鑑定》した?」
「えっと《鑑定》は最初にドロップした時に見ただけ。使い方は…チェシャが、それを持ってると《使役》や《調教》《召喚》のスキルがなくても、その証をくれた魔物を《従魔》に出来るってい……」
「「はぁっ?!?!?!」」
私がそう言ったら、4人分の驚きの声が上がる。
うわっ!!びっくりした……驚いて4人を見れば、キラキラ目を輝かせて私を見てるのが、カシスと白妙さん。
お前は、またっ!!って呟きながら、頭を抱えてるのが、ソーン。そんなソーンの肩を慰めるように叩きつつ、ユズリハだから諦めろと笑いを堪えてるのがジンだった。
なんでそんなに驚いたのかは、白妙さんが説明してくれた。
《従魔》が関係してくる職業はサモナーやテイマーなのだが、βテスト時代からその二つはかなり育成が難しくて玄人向けの不遇職と言われているらしい。
どちらも魔物をテイマして仲間にするのだが、基本的にテイムした魔物の好感度は最低値で、そしてなかなか上がらない。主人の命令はほとんど聞かないことが多いそうだ。
ごく稀に、魔物と交流を深めることができると向こうからテイムしてくれ!ってくることもあるらしいが、基本は戦って体力を減らしてからテイム!って感じらしので、そりゃ…瀕死の状態で従わさられれば好感度は低いよな…うん。
なので、その職業の人たちはギルドから『魔物の卵』
と呼ばれるアイテムを購入し、孵化させていたから育てるのが定番になってるそうだ。
孵化させた魔物はちゃんと命令も聞くし、好感度も上がりやすくなるが問題点もある。
ギルドで買える『魔物の卵』から生まれてくる魔物は種類が限られてるのと、ランダム仕様となっているのだ。ランダム……キツくないですか…それ…うわぁ……。
なお、卵はフィールド上で見つけられる場合もある。例えば魔物の巣などに行けば『魔物の卵』が手に入るが、確率は極めて低く、巣周辺の魔物は通常よりも強いとのこと…うわぁ……。
あと、卵から孵化させた子も含め、自分の《従魔》を虐めたり不遇の扱い等して、かれらの好感度が最低値を振り切ると《従魔》の契約が自動的に切れる仕様になっている。
そして短期間で一定数の契約切れた場合、そのプレイヤーは二度とその職業に就けなくなるペナルティが発生するそうだ。
さらに『魔物の宿敵』という不名誉な称号が与えられて、集中的に狙われるようになるとのこと……うわぁ……。
なので、サモナーやテイマーは、このゲームではじっくり時間を掛けて魔物を大切に育てられる人向けな職業となってるらしい。
「だから、ユズリハちゃんのそのアイテムは凄いものなのよ……だって認められた証なのでしょう、それって最初から絶対に好感度が高い状態ってことじゃない……ふふふふ」
怪しい目をしながら白妙さんが笑ってる……こ、怖い……ひえっ……。
どーしたらいいんだ…と思ってたら、あらあら白妙落ち着きなさいな!と言いながらカシスさんが、白妙さんの頭にチョップをかました。あれ、この光景なんかデジャヴ……。
良い音がして、カシスさんのチョップがヒット!白妙さんがううっ!と唸ってその場にしゃがみ込んだ。
この2人お互い止める時、これなんだな…なんて思いながらその光景を見てました、はい。
痛みでうずくまってる白妙さんをよそに、カシスが言う。
「ユズちゃん、それを使って今《従魔》ちゃん呼べたりするの?」
「今は無理。この子は私が倒してるから復活させないとダメなんだって。一緒にドロップした牙と心魂を教会に持って行ってごらん、お金かかるけど《従魔》ゲット出来るよーって、チェシャが。それに今、あんまり所持金もないから金額によっては復活させられないんだよね…」
そう答えたらカシスさんはうーんと一瞬考え込んで
「それなら、その情報の対価はその子の復活させる代金でどうかしらぁ?」
「えっ、それは申し訳ないからいい。だってチェシャが結構お金掛かるって言ってたから、かなり掛かりそうだし……」
「大丈夫よぉ〜アタシも白妙も所持金はいっぱぁいあるから!! ユズリハちゃんさえ良ければ、お願い!」
しかし、なぜにこんなに必死なんだろと思いつつ、ありがたいけど、ここまで頼ってしまっていいのか…うぬぬ…どーしようかなぁーって迷っていたら、突然目の前に影が差して、ガシッ!と肩を掴まれる。
それはいつの間にやら復活した白妙さんで、その顔は涙目だ。
「お願い!ユズリハちゃんんん!!!私を助けると思って協力して!!私の職業、サモナーなのよぉぉ……」




