31.本題になかなか入らないのはよくあるよね
区切りがいいところがなくて、今回ちょっと他よりも長め。
勝手知ったるジンの店。
ってわけで、作業場から勝手に椅子を3脚ほど拝借して、話をするため店内のカウンターに集まる。
ちらりと、ジンとカシスさんの方を見ればまた説教中のようだ。ジン、イライラ溜まってのかしら……ほんと、お疲れ様。
あ、これからいっぱい喋りそうだからお茶飲みたい。
そういや前に買ってたなと思い出して、インベントリからティーセットを取り出した。白地のシンプルなティーセットだ。
買っておいて忘れたけど《鑑定》してなかったって事で、ついでに《鑑定》しとこう。
『ティーセット(初心者用)』
品質:C 耐久値:∞
説明:紅茶をいれるための道具一式。初心者用なので《料理》のスキルを持っていなくても使用可。
セット内容:ポット、茶漉し、カップ&ソーサー×6、ティースプーン、シュガーポット、魔法のケトル
ん?『魔法のケトル』ってなんだろ…。これの詳細見れるかな?
そう思って名前をタップしたら、あ、説明出てきた。
『魔法のケトル』
説明:『ティーセット』に含まれる道具の1つ。水を入れれば瞬時にお湯に変わる魔法のケトル。水以外は入れられないので注意。水は800mlまで入る。
………これってあれか、現実で言うところの直ぐにお湯が沸く電子ケトルみたいなやつか。
あ、水持ってない、って事で作業場の台所から勝手に貰ってきた。あとで、ジンの分も一緒にいれる予定だから問題ないよ、うん。
水を『魔法のケトル』に入れて蓋をしたら、チンッ♪とベルの音がして一瞬にしてお湯に変わる。
どういう仕組みなのか分からないけど、これは便利だ。ただ、このセットの『魔法のケトル』は容量が少なめだから、お茶専用って感じ。
さて、お茶をいれましょうかね。
ちゃんとした手順でいれようかと思ったけど、ポットとカップを湯通しするのはめんどいので今回は省略。
セットのティーポットは大体4〜5人用って感じ。
そこに杯数分、とりあえず3人分でいいや、紅茶の茶葉を入れてからお湯をいれる。
あ、蒸らす時間って思っていたら、ティーポットの上に砂時計の表示が現れた。この砂時計が落ち切ったら飲み頃って感じか、なるほど。
セットのシュガーポットは、このティーセットでいれたお茶にのみ使用可能で減る事ないって説明に書いてあったので気にせず使えるのはありがたい。
カップを3つ用意したところで、丁度ポットの砂時計が全て落ちたので、ポットの中をティースプーンで、ひとかきしてから茶漉しでこしつつ、カップにそれぞれ濃さが均等になるように注ぎ分けていく。
ちなみに紅茶の出がらしは自動的に消えるみたいでティーポットには残ってなかった。ここら辺はゲーム仕様なので片付け楽でいいね。
さて、入れたお茶はっと。
うんうん、良い色、良い匂い! 思わず自画自賛する。
お茶をいれるのはリアルで、一時期どハマりしてたので自信があるのよね。
「よかったら、どうぞ。ミルクは持ってないから、ストレートでよければ」
「ユズリハちゃん、ありがとう」
白妙さんにどうぞとお茶を渡せば、ニッコニコと微笑みながら受け取ってくれた。ただ、そのあと爛々と目を輝かせてじっと見つめられる。まるで面白いおもちゃを見つけた!って感じにロックオンされてる感じ……。
私、白妙さんの興味を引くこと言ったっけ?と、ソーンを見れば、なにやら頭を軽く抑えて、ジト目で私を見てる。はぁ…と息を吐いてからソーンが私にたずねた。
「……ユズ、それどうした」
「えっ、初めて商業ギルドに行った時に買った」
「ユズ、あのな、『紅茶の茶葉』と『ティーセット』っていうアイテム、初めて聞くんだけど…お前のそれ、どこで買えるかなんて誰もまだ見つけてない情報なんだよ…なんでそんなに、しれっと出してくんのお前……」
「へぇ〜それは意外。商業ギルドで買えたから、普通に出回ってると思ってた」
「βテスト時代から『茶葉』は常に売ってるところが見つけられてなくて、時々、市場に不定期にいる商人が売ってるって分かってただけなの。ティーセットに関しては今回初めてみるわ。ユズリハちゃん、ちょっとそのアイテムの詳細見てもいいかしら? ちゃんとそれに対しての情報料お渡しするから」
「うん、いいよ」
私がそう許可を出したら、白妙さんがお礼を言ってから《鑑定》と呟いて『紅茶の茶葉』と『ティーセット』を見ている。時折、なるほど、これは…あらあら!面白い!とかブツブツ言いつつ、ものすごく楽しそうだ。
そーいや、他人の所有物はその人の許可がないと基本《鑑定》できない仕様だったけ。
あの様子だと白妙さん少し時間かかりそうだから、先にお茶を飲んでることにする。
あ、美味しい。流石にギルドで飲んだレベルまでいかないけど、普通に美味しい。
「話が進まねぇ……お前がしれっと新情報出してくっから……」
お茶を飲みつつソーンがぼやく。
むっ、失礼な。私は普通にゲームを楽しんで遊んでるだけで、何かを発見しようと動いてるわけじゃないんだけど。
そう言えば、また更にため息をつかれた。ほんとその態度失礼だぞ、ソーンさんや。
「お前ら、なに勝手に俺の店で優雅に茶飲んでるんだ……」
「え、だってジンたちお取り込み中で時間かかりそうだったから。ストレートしか出せないけど、飲む?」
「あぁ、飲む」
カシスさんへのお説教が終わったらしいこの店の主人が、頭を抑えつつそう聞いてくる。そしてため息をつきつつ、ソーンの隣に座った。
それに続いて説教されてたカシスさんもこちらへ。カシスさんは一度白妙さんを見て、少し嬉しそうな顔をしたあと私の方を見る。微笑まれた。
「あらあら、白妙が楽しそうねぇ♪ ……さっきはごめんなさいねぇ、ちょっと新しい事を知れるチャンスだったから興奮しちゃってて……。ちゃんとした挨拶が遅くなってごめんなさい、アタシはカシスよ。どうぞ仲良くして、ね?」
「えっと、ユズリハです。こちらこそよろしくお願いします」
そう答えれば、カシスさんは更ににっこり微笑む。
わぁ、ほんと綺麗な人だなぁーって印象と更に性別がわからない。うーん、気になるし、ここは聞いちゃうか
「えっと…カシスさん一つ聞いてもいいですか?」
「ん、いいわよ〜。なにかしらん?」
「性別どっちです??」
ブホッ!!!!!
私が真面目な顔してそうカシスさんに聞いたら、お茶を飲んでたソーンが吹き出した。ちょっと汚いよ、ソーン。せっかくいれたお茶がもったいないじゃないか。
ちらりとジンを見たら、めっちゃ笑いを堪えて肩を震わせている。お前もか。
ちなみに、聞かれた本人はあははっ!!と豪快に笑ってから「口調はこんなんだけど、アタシは心も身体も"男"よ」って教えてもらいました。
あぁ、男の人だったのか。なるほど、疑問がすっきりした。
変なこと聞いてすみません、ありがとうございますってお礼を言ってから、2人分追加でお茶をいれるため、準備を始める。
その際に、カシスさんがジンに「ユズちゃんって、面白い子ねぇ♪」と呟いており、こちらにも面白いおもちゃを見つけた!って感じにロックオンされていたなんて知る由もなかった。
***********
「さて、いい加減本題に入るぞ、お前ら」
パンパンッ!と手を叩きながら、ジト目で私たちを見つつジンがそう呟く。
先程、みんなカウンターに集まってから、本題に入らず談笑(ってか私が、白妙さんとカシスさんに色々質問攻めされてた感じだけど)してて、軽く30分経過しましたとさ。
閑話休題。
「えっと、ユズリハ。まずは収穫祭の詳細教えてくれるか?」
「うん、えっとね……」
そうソーンに促されたので、見つけた経緯とここにくる前にジーヴスさんから聞いた内容をみんなに話す。
「……って感じ。ジーヴスさんは初心者向けのお金稼ぎクエストですよーって言ってた」
私が話し終えると、三者三様の表情をしていた。
カシスさんと白妙さんは自分の持ってる情報と照らし合わせているのか、じっと考え込んでいる。
「へぇ、食料系のアイテムは商業ギルドで売った方が高く売れるのか」
「冒険者ギルドの方で報告した時に買い取りどこがいいか聞いたら、受付のあの猫耳っ子……えっと、アリーチェが教えてくれたよ。ただ、商業ギルドに所属してないと買取の際、少量だけど手数料がかかるって。どのくらいか掛かるかは聞いてないから分からないけど」
「それなら、グループで行動してる奴で、商業ギルドに所属してるメンバーがいるなら、そいつにまとめて買取代行してもらってもいいな」
「あと、多少なりとも商業ギルドの貢献ポイントになるって言ってたから、生産まで手が回らない最初のうちはそれで稼ぐのもありじゃないの?」
とりあえず今は、白妙さんとカシスさん待ちなのでお茶を飲みつつソーンと話している。
ちなみにジンは、ソーンの隣でお裁縫中。彼のイメージは鍛治が強かったから、裁縫してる姿はすごく新鮮な感じだ。
私が今朝方にドロップした『うさぎのしっぽ』を渡してくれれば、それを使って今私が着てる『白小花の藍色ケープ』を強化してくれるって言ったからなんだけどね。
スキルを使ってるからなのか、手の動きが素早くて何をやってんのかよくわからない。とりあえずなんかすごいなぁって思った。
「ほら、ユズリハ出来たぞ」
「ありがとう、ジン」
さてさて、どんな感じになったのかなぁー。
『白小花の藍色ケープ+1』
防御力:8 幸運:5 耐久値:800 品質:R
説明:白糸で花の刺繍が施された藍色のケープ。可愛らしいデザインで若者に人気。襟元に白の紐リボン(ボンボン付き)を付けたことにより可愛らしさが増えた。強化可能。
おお、防御力と耐久値上がってる。品質がめっちゃ上がってるのは使った素材の影響かな。 あと、幸運が付くようになった。
名前の横の+数字のは強化した回数で、これが多いほど強化してるということらしい。
ちなみにデザインは、説明の通り、先の部分にボンボンが付いた細長い白の紐リボンが襟元にプラスされた感じ。ボンボンのサイズは10円玉ぐらいかな、これなら邪魔にはならなさそう。
全体的にとても可愛らしいくファンシーな感じになってる………まぁ、このぐらいの可愛らしさなら許容範囲かな、うん。
「どうだ、付けては見たが動きの邪魔にならないか?」
「うん、大丈夫。これぐらいなら問題ないよ」
「なんか、赤ずきんならぬ、青ずきんって感じだな」
実際に着てみて身体を軽く動かしてみる、うん、問題ない。
ちらりとお店の鏡を見てみたら、たしかに赤ずきんならぬ青ずきんですね。
自分に似合ってるかと言われると、よくわからないけどソーンもジンも満足げな顔してるから大丈夫なんだろう、たぶん。
「あらあらぁん!ユズちゃん!!可愛くなっちゃって、もう!!!」
「はいはい、カシス、ストップ」
話し合いが終わったのか、カシスさんが私をみてキラキラ目を輝かせていた。
今にも飛びつき抱きしめられそうな気配を感じていたら、ニコニコ笑顔の白妙さんの脳天チョップがカシスに炸裂。声にならない叫び声を上げてカシスさんがその場にうずくまった。うわぁ……綺麗に入ってたから痛そう……
「カシス、可愛い子見ると抱きしめようとするの悪い癖よ? 気持ちはわかるけど、そのうちセクハラで訴えられても私知らないわよ」
「しょうがないじゃないのぉ〜職業柄、可愛いには目がないのよぉ〜着飾ってあげたくなるのよぉ〜」
少し涙目で、ふてくされたように、そうカシスさんが言う。
気になって聞いてみたらリアルで美容&ファッション関係の仕事をしているから、可愛い子(性別問わず)は気になって構い倒したくなるそうで……。
白妙さんに「ユズリハちゃん、これから頑張ってね」
と意味深な顔で言われてしまった。えっ、待って、それなんか怖いんだけど……。
「おい、お前ら話し合いは終わったのか?」
「えぇ、いろんな情報あり過ぎてどうしようかな悩んだけど、これが一番かなっていう方向性だけ、ね、カシス」
「とりあえず、この情報はこう扱おうって白妙と決めたわぁ。それはねぇ ーーー」
そうカシスさんが切り出して、語りはじめたのだった。
6/30修正:カシスの一人称変更




