2. とりあえずキャラメイク
私に頭を叩かれた(最初の時よりはかなり手加減をしてるが)翼は、イテテっと叩かれた頭を抑えると、ごめんね?と小首を傾げて謝ってくる。
昔から無茶振りやらなんやらして、私を困らせてるなって翼が自覚あるときにやってくる謝りのポーズだ。
とりあえず、可愛くないのでやめてください。イラッとするので、再度叩きたくなる。そういう思いを込めて、ジト目で見れば察したのか速攻でやめた。
「ごめんって、ゆずをどうやって誘うか悩んでて、気がついたら今日だったんだよ。悪かったって」
「……あのさ、明日用事あるんだけど私」
「そっか、じゃあ、今日中にキャラメイクだな!よろしくーー!!」
ジト目しつつそう言えば、翼はニカッ!と、とてもとても良い笑顔。そして、じゃぁっ!と軽く手を上げて去っていった。
来る時も突然だったが、帰る時も突然だ。
相変わらず過ぎる幼馴染にため息をつきつつ、まぁ、いつものことなんで諦めた。
「はぁ、まぁ…貰ってる側だし…やってあげるか……」
枕元に放置してた、VRゲーム専用であるヘッドギアを頭につけると、先程もらったダウンロードコードをストアで入力する。
そして表示される『ソフトのダウンロード終了まであと、60分…』の文字。それを確認してからギアを外す。
時計を確認。只今の時刻17:00を少し過ぎたぐらい。さて、ダウンロードが終了するまで時間がある。
一階に降りれば母親の姿はなく、夜勤に向かったようだった。リビングには『夕飯よろしく!by母』と書かれたメモが一枚。
仕方ない、夕飯の準備やら家事やら終わらせておくか。父親は今日は帰りが遅かったはず……余り物の野菜ぶっ込んだ焼きそばでいいや…夕飯は簡単にしよう。うん、ごめん、お父さん。
ある程度、夕飯の支度やらなんやら済ませていたらダウンロードが終わったらしい。ダウンロード終了を知らせるピピッという電子音が二階から聞こえてくる。
もしかしたら、早めに父親が帰って来る可能性もあるから、リビングにメモを置いておく。冷蔵庫から飲み物を確保してから部屋に戻った。
ギアをかぶるとベットに横たわり、ダウンロードしたばかりの《エリシュオン・フロンティア》を選び起動させる。
ふわりと体から浮くような感覚の後、意識がスッと沈んでいった。
**********
頬を撫でる風を感じて、閉じていた目を開ける。
眼前に広がるのはどこまでも続く青い空と緑の草原だった。吹き抜ける風に混じりどこか甘い花の匂いもする。
あぁ、この感じ久しぶりだなぁ。
「あ、ようこそぉ《エリシュオン・オンライン》へぇ〜」
ふと、背後から間延びした声が聞こえた。振り返るとそこには、不思議な生き物がふわり、ふわりと浮かんでいたのだった。
パッと見、猫に見えるが耳が大きめでキツネのようにも見える。顔の面積に対して目は大きい。大きさは中型犬ぐらい。毛並みは灰色と白の縞模様だ。とりあえず、もふりたい。
「……猫? 狐…???」
「あははぁ〜♪さぁ、どっちだろうねぇ〜♪ とりあえず、自己紹介!僕はチェシャ。キミたちのキャラメイク&チュートリアル担当AIだよぉ〜よろしくねぇ?」
「うん、よろしくチェシャ」
そう挨拶すれば、チェシャは満足したようにニンマリ笑う。そして、説明を始める。
「まず、この場所の説明するね? ここはゲームを始める前にくるフロントだよぉ。公式からお知らせがある場合はここで伝えるよぉ。あとゲーム内設定を変えるときもここで聞くから僕に言ってねぇ〜」
「ん?このフロントにはチェシャがいるの?」
「うん、今はまだ始まってないからキャラメイクとチュートリアル担当だけど、リリースしたら兼フロント担当のチェシャくんになるよぉ〜♪」
その後もゲームについて簡単な諸注意を聞く。やって良いことや、やっちゃダメなことなどなど。
「〜って感じかなぁ。質問はあるぅ?なければキャラメイクはじめようと思うんだけどぉ」
「大丈夫、次に進めて」
「りぉかーい♪ まあ、わからないことがあったらヘルプか、その度に僕に聞いてねぇ。さて、じゃあ、まず、キミの名前を教えてくれるかなぁ?」
目の前に文字入力のための、パネルが現れる。
さて、名前どうしようかな……。少し悩んでから《ユズリハ》と入力した。
本名のカタカナ表記だ。どうせ、本名っぽくない名前だし、大丈夫だろう。まぁ、翼あたりからは何かしら言われそうな気もするけど。
「《ユズリハ》だねぇ〜。うーんと、うん、重複はないみたい〜だから、名前の登録終了だよぉ」
「ありがとう、チェシャ」
「いえいえ〜、次はぁユズリハのパーソナルデータを読み込むよぉ〜。僕の尻尾を軽く掴んでもらって良い?」
そうチェシャは言うと私に向けて尻尾を差し出す。まじか、突然のもふりタイム。恐る恐る触ってみた。あ、もふもふ、すべすべ最高。
「ふっふ〜♪僕の毛並みは最高でしょ? あとはぁ…あ、アビフロのデータあるけどこれも読み込むぅ?僕としては読み込むことをオススメするよぉ〜」
「ん、ならそれもお願いする」
チェシャの尻尾に夢中な私に対して、ふふふ♪とチェシャは笑うとりぉかーい♪と作業を進めた。私は読込みが終わるまで数分、チェシャの魅惑のもふもふを堪能したのだった。
「さて、読込み終了ぉ〜。とりあえずユズリハの初期データを表示するねぇ。アビフロのデータを反映させてない初期設定はこれだよぉ」
チェシャがそう言うと、目の前に新たな半透明のパネルが現れる。
名前:ユズリハ
種族:人間
職業:ノービス 職業Lv.1
HP:150/150
MP:100/100
腕力:10
体力:10
敏捷:10
器用:10
知力:10
精神:10
幸運:5
BP:200
「これが基本的なものと思えば良いの?」
「うん、そうだよぉ〜。職業についてはみんなレベルが10になるまではノービスだよぉ。種族の人間は種族レベルはないけどぉ、レベルが上がるたびに貰えるBPが他の種族より多いよぉ。BPはレベルアップする度に貰える、ステータスに振り分けられるポイントのことだよぉ。あと種族的な縛りもないからねぇ、好きなように育てられるって感じかなぁっと、さぁて、アビフロのデータを反映させるとこんな感じぃ〜」
ポポンっとリズミカルな音がしてステータス画面が変更される。
名前:ユズリハ
種族:人間
職業:ノービス 職業Lv.1
HP:150/150
MP:100/100(+50)
腕力:10
体力:10
敏捷:10(+5)
器用:10(+5)
知力:10(+10)
精神:10
幸運:5(+2)
BP:200(+50)
「()内の数値が特典としてプラスされるやつだよぉ。読み込んだキャラデータの数値が高い項目がぁ、基本、プラスされてるよぉ〜あと、そのゲームの攻撃スタイルも参考してるよぉ。HPは体力を、MPは知力をあげると1Pごとにそれぞれ5上がるよぉ。BPのプラスは前のゲームを遊んでくれてありがとう特典だよぉ。それぞれの項目の説明は必要ぉ?」
「うん、一応お願い」
前のゲームとステータスの項目は同じなので一応、分かるけど、万が一変更されてる可能性もあるから聞いておく。ステータス関連はなにをするにしても、今後重要なるし。りぉかぁ〜い♪と軽い声がしてチェシャが説明してくれたのはこんな感じだ。
HP→これが0になると死亡、死に戻りする
MP→これが0になると昏睡状態になる
腕力→攻撃力を上げるならここ
体力→HPを上げるならここ
敏捷→移動速度や回避を上げるならここ
器用→命中率や生産スキルの成功アップはここ
知力→MPを上げるならここ、魔法職は上げるの必須!
精神→低いと状態異常にかかりやすい、抵抗力
幸運→そのまま。レアドロップ率アップとか上げると良いことが起きやすい
BP→ステータスに自分で振り分けられるポイント。レベルアップで毎回5P貰える(種族・職業により増減有り)
ちなみに、防御力については「(腕力+体力)÷1.5」の数値がそのアバター個人の防御力になる。防御力に関しては装備品でいくらでも底上げができるから、装備は重要だよぉ〜と。
「ステータスに関しては、プレイヤースキルも関わってくるからねぇ。たまにレベルが上がるときに勝手に+1されるときもあるよぉ〜いろいろ行動して試してみてねぇ」
「なるほど、その辺りは前のと変わらないんだね。うん、わかった」
「うん、その辺りのシステムは引き継いでるからねぇ。次は種族なんだけどぉ、変更する?変更する場合は《エルフ》《獣人族》《竜人族》《ドワーフ》《精霊》《ランダム》から選べるよぉ。ちなみにレア種族や上位種族はランダムのみ出るからねぇ。ランダムは一回につき3種類表示されるよぉ〜3回まで引直し有りで、3回目でも決まらなかったらもう選べないからねぇ注意だよぉ」
「引き直し有りとか、ランダム、優遇されてる気がする」
「開発側からしたらぁ、よくある種族も楽しいけどぉ、やっぱりファンタジーなんだし絶対になれない特殊な種族で遊んで欲しいって気持ちがあるからって言ってたよぉ〜で、どーするぅ?」
「うん、それなら《ランダム》で」
そう言うことなら《ランダム》にしようかな。
私がそう答えると、お決まりのニンマリ顔のチェシャがりぉかーい♪と呟く。すると、空中に3つのダイスが現れた。クルクルと転がり、そして止まる。
「まずはぁ1回目! 出たのは《ハイエルフ》《ハーフリング》とぉ…おぉレア種族の《幻影種・人魚》だね!」
「《幻影種・人魚》??」
「えっとぉ、 まず《幻影種》の説明をするねぇ。《幻影種》は現実で言うところのお伽話とかに出てくる種族、妖精とか吸血鬼と悪魔とか天使とかとか、そういうの不思議系の種族がこの世界ではそう呼ばれているよぉ。初期能力はとても高いんだけどぉ、種族特性が強くて初めから縛りプレイを強制される種族だねぇ〜」
「《幻影種・人魚》ってことは、自力で陸地の移動ができない…とかそんな感じ?」
「そうそう〜そんな感じぃ。スキル《部分変化》を覚えれば大丈夫だけどぉ、定期的に水の中に入らないとダメージ判定とかもあるから、かなりマニアック向けだねぇ〜」
その説明を聞いた私は、無言で2回目の《ランダム》を選んだのだった。
チェシャはそのままチェシャ猫のイメージです〜
もふもふ要素が欲しかった(ㆁᴗㆁ✿)
07/22修正:防御力についてとステータスの説明を少し追加、文章がおかしい部分修正。