表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/44

17.美味しいものの為ならば

今回は他に比べて、短めです。

 



 シャリ、シャリ、シャリ、シャリ………




 目の前の野菜たちの皮をひたすら剥く。ひたすら剥いていく。


 ナイフで剥くのかな…と思っていたら、アンリエッタから渡されたのはピーラーだった。

 なんで、この世界にあるの?!と驚いていたら、アンリエッタ曰く、ナイフだと時間が掛かるから、βテスト時代に知り合いの鍛治職人と一緒に共同開発したそうだ。

 ちなみにこのアイテムはNPCの方々にも好評で、速攻で広まり普及してるとのこと。すごい。

 他にもこの世界で作れそうな簡単な調理器具は作ってあるらしい。手軽に調理できたほうが楽だろ?とはアンリエッタ談。ほんと料理に対する、アンリエッタの意気込みがすごい。



 とりあえずピーラーで、ただひたすら皮剥きをする。

 なかなか樽の中の野菜は減らない。野菜、多過ぎるだろ、これ。


「ユズリハ、だいたい3分の1ぐらい終わったら、声掛けて」


「りょーかい」


 約15分ぐらい掛けて、樽の3分の1を処理した。アンリエッタに声を掛けて、野菜を渡す。

 ありがとうと、アンリエッタは野菜を受け取ると、素晴らしい包丁捌きで、あっという間に野菜を切っていく。

 思わず、すごい……って呟いたら、だろ?ってドヤ顔で返された。ドヤ顔になるのもわかるわ、タタタタッ!って感じで包丁の動きが素早い、私には真似できないもん。すごい。


 ふと、辺りを見ればすでに大皿に2〜3品料理が出来上がっていた。

 美味しそうな匂いがして、おなかが鳴りそうだ。さっき食べたのに…くっ。


「なんだい、食べたいのかい? あの野菜片付けて、落ち着いたら作ってあげるよ。だから頑張っておくれ」


 あまりにも物欲しそうな顔をしていたのだろうか……。私があまりにも料理をジッと見ていたことに気がついたアンリエッタが笑いながら言った。



 まじで? ほんとに?

 食べたいやつ作ってくれるの??




 やったー!!!!私、頑張る!!任せて!!!って事で一気にやる気が出たので、そそくさと作業に戻る。

 自分でもちょろいなって思うけど、あの美味しそうな料理の前では仕方がないと思うの。

 あの串焼き一口食べてからアンリエッタの料理のファンなんだよね〜ふふふ♪ アンリエッタが作る、他の料理気になるんだもん。

 そんな様子の私をアンリエッタが微笑ましそうに見ていたなんて、浮かれていた私は気がつかなかった。






「お、終わった………」



 ぐでーんと作業台の上で脱力する。お、終わった…私、頑張った。

 あの樽いっぱいの野菜たちの皮をひたすら剥く、あの単純で地獄な作業が終わった…。途中から無心だったよね、はははっ。

 ご褒美の料理がなければ途中で投げ出していたかもしれない。ちなみに掛かった時間は30分ぐらい。とりあえずお疲れ、私……。


「はい、お疲れさん。ありがとね。ほら、とりあえずこれ飲んで一息つきな」


 ぐでーんと伸びてた私に、アンリエッタが笑いながら飲み物を差し出してくれた。甘い香りのあったかいココアだ。

 お礼を言ってから一口飲めば、美味っ!!!え、めっちゃ美味い!!!

 疲れてたから一気に飲みきってしまった…心なしか回復したような気がする。もしかしたら何かしら効果がついていたのかも。

 まぁ、ココアを《鑑定》する前にあっという間に飲みきってしまったのでわからないけど。それほど貰ったココアは美味しかった…はぁ、幸せ。


「アンリエッタ、ありがとう。美味しかった」


「どーいたしまして!あんだけ美味しそうに飲んでくれると、こっちも嬉しいねぇ」


 カップを流しに片付ける。ついでに皮剥きで散らかった作業台やらその周りも片付ける。

 野菜の皮は裏口出てすぐにある木箱の中に入れてくれ、と言われたのでそこに片付けた。肥料にして近隣の農家さんに売るんだってさ。


 アンリエッタの方を見れば、さっきより料理の品数が5品ほど増えてた。そのうちのいくつかは少し手を加えれば、すぐ食べてる状態で置いてあった。注文してから揚げたり温めたりするそうだ。

 どれも美味しそうで、どれも気になるんですよね……おっと、よだれが…。


「次は、何をやればいい?」


「そうだねぇ……デザートでも作ろうか。それじゃ、この果物たちを一口サイズに切ってもらえるかい? あとは…これを見ながら作っておくれよ」


 そう言って渡されたのは、料理のレシピと色とりどりの果物だった。イチゴ、リンゴ、ブドウなど現実でも見覚えのある果物と、初めてみる形の果物が1つ。

 ぱっと見、ラズベリーのような形をしているけど大きさは蜜柑ぐらいある。色は赤ではなくて薄いピンク色。匂いは桃っぽい。この世界特有の果物かな?


「アンリエッタ、この果物は?」


「あぁ、それはこの世界の果物だよ。『ピチベリーベル』っていう名前で、外に行けばいっぱい自生してるやつさ。味はミックスジュースみたいな感じで、美味いよ」


 へぇ、面白い。あとで採取しに行ってみよう。《鑑定》はその時でいいかな。


 とりあえず、今はお仕事お仕事っと。

 アンリエッタから渡されたレシピを読む。なるほど、分量はこのレシピに合わせて作ればいいのね。了解了解。

 果物の切り方は食べやすくて見栄えがよければ、私にお任せすると言われた。ちなみに作るのはお手軽簡単フルーツポンチだって。


 果物をそれぞれ見栄えがいいように一口サイズに切っていく。ブドウは巨峰サイズだったので、皮をむいてから半分にカットしておいた。

 さっきの単純作業な皮剥きよりは頭を使うから楽しい。永遠と終わりが見えない皮剥きは…ほんと、きつかったんだ…ははっ。


 全て切り終わったら、今度は8リットル入る大容量のガラスの瓶に、カットした一口サイズの果物を入れていく。香り付けにミントも一緒に入れてから、アンリエッタお手製サイダーを注いでいく。だいたい果物が全部浸るぐらいまでサイダーを注いだら、ハチミツを少々。そして蓋をして、味が馴染むまで置いておくのだ。


「アンリエッタ、出来たよ」


「あぁ、ありがとう。あとは、地下の氷室から氷を持ってきて冷やすんだけど……」


「私、《氷魔法》使えるけどそれでもいい?」


「へぇ、珍しい魔法選んでるねぇ。別に構わないよ、ユズリハがやりやすいようにやりな」


「うん。ありがとう」



 ついでにスキル上げもできるから一石二鳥だよね。って事で《氷魔法》を使用する。

 って言っても、まだLv.1だから氷の塊しか作れないんですけどね。


「えっと《マジックアイス》」


 両手の手のひらを上に向け、そこに氷の塊が生成されるイメージで唱える。ちなみに《マジックアイス》の消費MPは5だ。

 手のひらの上に、ふわりと冷たい風が渦を巻く。そして3秒ほど経つと、私の手のひらサイズの氷がひとつ出来上がった。やった、成功。


 大きめのタライを用意して、その中心にフルーツポンチの瓶を置く。私には重すぎて瓶が持てなかったので、瓶の移動はアンリエッタがやってくれた。

 その瓶の周りに、さっきの要領で作った氷を入れていく。この大きさの氷だと、タライがいっぱいになるまであと15個ぐらいかな? うん、私のMPは375だから、余裕ですね。


 タライがある程度氷で埋まったら、今度は小さめの氷を生成して、その隙間に入れていく。

 フルーツポンチは冷えてる方が美味しいからね。キンキンに冷やしちゃおう。

 ある程度、いい感じにタライが氷で埋まったので、作業終了! ちなみに使用したMPは100ちょいでした。



【《氷魔法:Lv.1》→《氷魔法:Lv.2》になりました】

【氷魔法『アイスバレット』を習得しました】


 氷魔法『アイスバレット』

 説明:氷の塊を敵に打つける攻撃魔法。《氷魔法:Lv.2》で習得。威力は「知力」、命中率は「器用」の値により変動。消費MP:10、クールタイム:30s



 おお、いい感じにレベルが上がった。攻撃魔法なかったから外に探索行くとちょっと楽になるかな。

 そういえば、《料理》スキルなしでこのフルーツポンチを作ったけど大丈夫だったのかな。チェシャの説明だと、作れないことはないけど品質落ちるとかなんとか言ってたはず……アンリエッタに味見してもらおう。


「アンリエッタ、出来たけど、不安だから味見して」


「あ、そっか、ユズリハはスキル持ってなかったね。いやぁ手際が良かったから忘れてたよ、ははっ!」


 そう笑いながら、アンリエッタは味見をしてくれた。一口食べてから、ニッコリ笑って、美味いよって。良かった、合格らしい。ユズリハも食べてみなって言われたので、自分でも一口。

 おっ…!!果物それぞれの甘さと、ほのかに香るミントの爽やかさが、絶妙なハーモニーを奏でてる。自画自賛する、めっちゃ美味しい!!せっかくなので《鑑定》してみよう。



『彩鮮やかサイダーフルーツポンチ』

品質:UC(アンコモン)

説明:5種類以上の果物を使って作られたフルーツポンチ。シロップはサイダーなのでしゅわしゅわ爽やか。食べると空腹が回復する。

レシピ:アンリエッタ

調理:ユズリハ




 なるほど、プレイヤーメイドのアイテムは作った人の名前が記載されるのか。レシピはアンリエッタのレシピで作ったから、それも一緒に記載されると。



「スキルなしにしては、上出来だよユズリハ。あんたも料理人やらないかい?」


「食べるのは好きだけど、作るのは面倒いって思うから遠慮しとく」


 リアルで料理をしてるのは、必要に迫られてなので趣味ってわけじゃない。なのでゲームでも、やりたいとは思えなくて……申し訳ないが、丁寧にお断りしておいた。

 私は誰かが作った料理を食べることが、楽しみなのでこれでいいんだ、うん。


 そのあとも、準備をしていたらゲーム時刻は19:00。あ、酒場開店の時間だ。


「さて、開店だよ!これから更に忙しくなるから気合いれなよ!」


「うん、頑張る」


 よし!とお互いに気合をいれてさぁ!お仕事お仕事!


美味しいものに釣られやすい主人公です。笑


8/6修正:品質の表記を間違えていたので修正。ご指摘ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ