1.きっかけは、幼馴染
VRMMOのお話を読んでたら自分も書きたくなったので書いてみた。
かなり設定ガバガバ、見切り発車でゆるゆるのんびりと更新してく予定です。
あんまりVRMMOには詳しくないのでそれっぽい何か、かも知れない…
季節はそろそろ夏休みに入ろうかとしてた時期のこと。
突然、家に押しかけ勝手に自室に入ってきた私・伊之瀬杠葉の幼馴染・荊尾 翼のこの一言から始まった。
「杠葉!!お願い!!一生のお願い!だから一緒にこのゲームやってくれ!!」
そう言って目の前で、ゲームのパンフレットを差し出しつつ、土下座する勢いで頼み込んでくる幼馴染を冷めた目で眺めながら、私は小さくため息をついた。
さっきまで、私は優雅に涼しい部屋で雑誌を読んでいた。それは騒がしい幼馴染の登場で壊されたけど。
まぁ、翼とは3歳の頃から幼馴染で、いくら勝手知ったる我が家だとしても、年頃の女子(自分で言ってどうかと思うが)の部屋に断りもなく勝手に入るのは如何なものだろうか。
この男は、デリカシーというものはないのだろうか…? いや、ない、な、うん、期待するだけ無駄か。
というより、まだ母親が一階にいたはずなんだけど……私には何も声かけずにそのまま通す親も、あれだな、うん。
普段はもう少しは気配りができる奴なんだけどなぁ…何かに必死になると周りが見えなくなって暴走気味になる幼馴染を、可哀想なものを見る目で眺めた。
翼は学園カーストだと上位にいそうな、普段は気配りできる学級委員長タイプなんだけどなぁ、一応。幼馴染の私から見ても、見た目も悪くはないし。まぁ、中身は廃人手前のゲーマーだけど…こういうのを残念イケメンっていうんだろうなぁ。
と、心の中で悪態をつきつつ、彼が部屋に来てから、無言かつ冷めた目で見続けているのに先程から「お願い!一緒にやろ!」を繰り返している。
さて、何で私にゲームやらせる事に対してそんなにも必死なのか知らないけども、そろそろ、こちらの態度にいい加減気がついてくれ…正直、うざったいし、めんどくさい。
もう一度、大きくため息をついてから、読んでいた雑誌を閉じる。今までの経験則から私が話を聞かない限りこの部屋から出て行かないだろう。あと煩いのはやめてほしい、ほんとに。……なんでこんなに残念なイケメンになったんだろうか、見た目だけはいいのに、見た目だけは(大切な事なのでry)(あぁ、本当にめんどくさい)
「………一緒にゲームをしてほしいのはわかった。で、そのゲームがそのパンフのだっていうのもわかったから、翼、少し落ちついて」
「っ…!!で、ゆず、一緒にやってくれるのか?! やってくれるよな!な?!」
「……だから、落ち着けって」
スパーンッ!!!!!!
また騒ぎ出しそうだったので、反射的に手に持ってた雑誌で思いっきり頭を叩く。
人の話を聞かない暴走気味な幼馴染を止める手段(物理)である。
とても良い音がして、幼馴染の頭に雑誌がクリティカルヒット。やっといてなんだけど、すごく痛そうだ。うん。
案の定、小さく呻いて、痛そうにしてるけど、知らない、翼の自業自得だ。
とりあえず、諸々あって床に落ちてた一緒にやって欲しいと言われたゲームのパンフを拾ってタイトルを見る。
「《エリシュオン・フロンティア》……これって、今話題の今度正式リリースされるVRMMOだよね」
「いつぅ……そうそう、それ。今はサービス終了しちゃったけどさ、前に一緒にやってたVRMMOの《アビス・フロンティア》ってあったじゃん? そこの会社がそのゲームシステムを再利用しつつ、新しい要素やシステム増やして作ったのがそれ、俺さ、このゲームのβテスターやってて、面白かったから、ゆずも一緒にどうかなって思ってさ」
《エリシュオン・フロンティア》
「アークエンド」というゲーム会社が今度リリースするVRMMO。
確か、謳い文句は『新しい自分を見つける、新しい自分になれる』だったはず。
「エリシュオン」と呼ばれる世界は魔物と魔法が溢れる中世ヨーロッパ風の世界で、プレイヤーは「魂の旅人」と呼ばれる。
公式から提示される目的は特になく、何かしらの生産に力を入れてもいいし、魔物を討伐したり、未開の地を開拓してくのもあり等々、現実にできる行動は基本なんでも可能でかなり自由度が高い。
プレイヤーの行動により、街が発展したり、下手すると滅ぶことあるそうだ。
法律やなんかも現実とほぼ一緒なので、犯罪行為も出来るが街には入れなくなる、指名手配されるなど枷もある。真っ当に生きるも良し、現実ではできない生き方をするのも良し、全てはプレイヤーの自由だ。
その世界の住人たちは独立した高性能AIを使用しているので、生きた人間のように感情がありその世界で生活している。
ゲームだけど、現実。それが先行してβテスターをしたプレイヤーの感想だった。
ちなみに《アビス・フロンティア》(通称、アビフロ)はこのゲームの前にリリースされてた同会社が開発したVRMMOだ。サービス終了したのは丁度一年前ぐらいだったはず。
これも高性能AIを使用しており大人気だったが、冒険することや、複数ある国の1つに所属してその国を発展させていく、どちらかといえば戦闘やら国取り合戦的なのがメインとした結構血生臭い感じのゲームだった。
まぁ、そんな世界でも無理矢理、スローライフを送ってた猛者も数人いたけども…。あれは、なんというか、すごかったな…うん。
閑話休題。
そういった前身である《アビス・フロンティア》をがっつりプレイしていて、一応先陣組にいた身としては気にならないわけじゃないけどね……。
まぁ、ゲーム内でもリアルでもちょっと色々あってサービス終了前にそのゲームというかVRMMOをプレイすることを辞めてしまったので、ブランクはかなりある。2年ぐらいやってないんじゃなかろうか。
うーん…と考え込んでいると、少し落ち着いたらしい翼が、バツの悪そうな顔をしつつ、少し言いにくそうに呟いた。
「あの時、色々あったから、ゆずがゲームに対して、何かと思うことも多いと思うけどさ、前みたいに一緒に楽しめたら、俺……嬉しいなって」
「……翼」
「ゲームやらなくなってからのゆず、ちょっとつまらなさそうってか、まぁ、お前昔からクールだけどさ、最近さらにつまらなそうとか色んなことに対して諦めてるってか…あー!!もう、なんて言ったらいいのかわからん!!その、心配なんだよ!!」
ジッと見つめられる。その瞳には確かに私を心配していた。
……たしかに前のゲームでは色々、あった。ゲームというよりゲーム内での人間関係、が、だけど。
楽しかったけどそれが苦痛になってて…そして、リアルでも色々起きてしまって…まぁ、リアルの方は間が悪かったんだけどね。
色んな要因が重なりあって、私は疲れてしまったんだ。だからゲームから離れた。その時は、大好きでゲームが生き甲斐みたいになってけど、心が折れてしまったから、離れた。
そうしたら、ぽっかり心に穴が空いたようで、現実が味気ないものになってしまった感は否めない。
そんな私の状況を幼馴染である翼は、近くで見ていてとても心配していたんだろう。
心配させてることには気がついてたけど……まぁ、ゲームから離れた原因の一端は翼も関係してたから、こう、罪悪感があったのかな?とは思う。
私がそのゲームを楽しんでたのを誰よりも知ってたし。
まさか2年ぐらいそのことをずっと気にかけていたとは思わなかった、それに関しては、うん、なんか、ごめんね。
私は、小さくため息をついた。
「……わかった。やる」
「本当か!!ありがとう!ゆず!!」
私がそう呟けば、パァーッと嬉しそうに笑う翼。そんな反応に、お前は犬か…と思いつつ、こんな感じに昔から翼のお願いには実は弱かったなぁーと。まぁ、そんなことは本人には教えてあげる気はない。
さて、翼のお願いに負けてゲームをやることはいいだろう。
だが1つ、問題がある。だから、翼に聞いた。
「ねぇ、翼。1ついい?」
「ん? なに?」
「やることにはしたけど、VRゲーム機はあってもソフト持ってないし、今から手配しても人気すぎて、正式リリース日までには、無理だよ」
人気があるため確か、初回生産分は全て完売していたはず。第2生産分も抽選でその倍率は……宝くじ買った方がいいよレベル、とニュースで話題になってたのを見た記憶がある。
そう問えば、待ってましたとばかりにニンマリと笑う翼。とりあえず、その顔はムカつくからやめてください。
翼はチッチッチと指を振ると、得意げに言った。
「甘いな、杠葉。俺が何も用意なしにお前をゲームに誘うと思ってたのか?」
「うん」
「即答かよ!?ひどくね?!俺の扱いひどくね?!?!…………まぁ、いいや…こんな反応されんのいつものことだし…別に……悲しくなんて、ないやぃ……ほら、これやる」
私が即答したせいで、少しだけ心が折れたらしい翼は、先ほどよりは少し元気なさげに、私に向かって一枚の紙を差し出したのだった。
そこに書かれていたのは『βテスター特典:ソフトダウンロードコード&ゲーム招待券』という文字。
「βテスター特典?」
「そっ、さっきも言ったけど、俺βテスターだったからこれ貰ってさ。じゃあ、ゆず誘うかなって。それに知り合いを招待すると俺も招待特典を貰えてお得ってわけでさ」
「……ふーん、なるほど、後者が本音か。まぁ、いいや、そういうことならありがたく貰うね」
「いいってことよ!あ、それ事前にキャラメイクとチュートリアルは出来っから、開始日までにやっておけよ? じゃないとスタート開始に特典貰えないからよろしく!」
「……ところで、サービス開始日っていつ?」
「明後日!!」
キリッとした顔で翼が言う。ちょっとイラッとした。
は? 明後日?? ちょっと待って。
「なんで、二日前に言うの、このバカ者」
そして私は、再度幼馴染の頭をスパーンッ!と雑誌で叩くのだった。
7/22修正:台詞の言い回しが変だった部分修正。
誤字脱字は見つけたら即直します。それに関しては修正の報告はしないないのであしからず。