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第76話 死闘


 早速、大石弥太郎は頭をかち割られる。こんな有様なのだから土佐勤皇党の首領なぞ勤まるはずがないのだ。悪いやつではない。だが、弥太郎には優等生然としたところがある。言い換えれば太平の世の残り香がぷんぷんする。言いっぷりだけが武骨なだけで内面からにじみ出るものは、時勢にはそぐわない。


 そして、倒したのは島村寿太郎。「悪いが弥太郎!」とイの一番に突っ掛った。繰り出した突きは苦も無く弥太郎の胸にのめり込む。うずくまったところに振りかぶった槍を大上段から振り下ろし、難なくその頭を粉砕した。


 一方、河野万寿弥は鍔ぜり合いの最中、小笠原保馬に足を払われあおむけに倒されていた。そこから馬乗りに押さえつけられて、何度も振り下ろされる木刀の柄頭で頭を打ち砕かれた。


 森田金三郎の足にはというと、小畑孫三郎がしがみついている。それへ狂ったように木刀を打ちつけていた金三郎であったが、弥太郎を仕留めて返す刀で駆けつけた寿太郎に喉を突かれる。即死だった。


 金三郎に全身打たれた孫次郎は、あちこちの骨が砕かれて風前の灯である。だがここで終わるわけにはいかないと喘ぐように上田楠次の援護に向かう。目前ではすでに寿太郎と保馬が森助太郎と戦っているが、もともと森助太郎と戦っていたのは楠次だった。すでに肩口に強烈な一撃を食らってうずくまっていた。


 ありぁ、だめだなと小畑孫次郎は思う一方で、わしもだめじゃなと覚悟を決める。何も考えずに寿太郎と保馬の間を割って入り、森助太郎に覆いかぶさる。


 いきなり思いもよらない小畑孫次郎の動きにぎょっとしたものの森助太郎は、故郷富家村で講武場を開く腕前の持ち主である。上段からその脳天に木刀を落とした。ところが、孫次郎は片腕を盾にそれを受け止めた。太刀なら腕から頭蓋骨まで両断したはずである。といっても、打たれた孫次郎の腕はあさっての方を向いているのだが。


 思えばこれが運命を分ける一撃であった。孫次郎に抱きつかれて身動きが出来なくなってしまった。助太郎はしくじったと思った。そして、今更ながら己の手にあるのが太刀ではなく木刀だったのを思い出す。確かに太刀なら斬り下げるので間違いはない。それなら二の手三の手と繋げられて、複数人と戦うにはむしろ振り回すべきなのだ。


 ところが逆にそうはせず、太刀で敢えて突いたとしたならどうなるだろう。貫通でもしてしまったら堪ったものではない。抜くのにも一苦労だし、その間に新手の攻撃も受けるだろう。あるいは、刺した相手が生きてでもしたら目も当てられない。抱き着かれてそれで終わり。だがこの場合、得物が太刀でなく木刀なのだ。間違っても貫通はしない。相手を一撃で葬るならまだしも、寄せ付けないためにむしろ突かなければいけなかった。それに気付いた時には後の祭りで、あれよあれよという間に己の頭を保馬にかち割られていた。


 終わってみれば寿太郎と保馬が立っていた。順当と言えば順当だが、身を呈した小畑孫次郎の働きが大きかった。よくやったと二人は心の内でほめちぎったものの孫次郎は、その場でこと切れてしまう。うずくまっていた上田楠次もその後を追うように逝ってしまった。


 生き残った二人は互いにたがいの目を見る。それで通じたのか、寿太郎が願い事を言うことになった。一歩一歩勿体ぶるように進み、正面の月読に向かうと二礼二拍手一礼をした。


 月読の顔に変化もない。それどころか蝋人形のごとく視線がどこに合っているのかも知れない。が、しかし、何者も相手にしないという風なところが逆に、圧倒的な威圧感を生むし、相手に恐れを抱かせる。そんな月読に向かって寿太郎は、言葉を発しなければならない。保馬も、蓮台の前に陣取る新兵衛ら三人も固唾を呑んで見守る。


 寿太郎は大きく息を吸い、吐いたかと思うと新兵衛らの頭越しに言った。


「武市半平太を蘇らせたまえ!」


 しかし、月読は寿太郎をまさしく相手にしなかった。初めからそんな風であったがまさか本当にそうするとは予想だにしない。拍子抜けどころかあの寿太郎がめずらしく鳩が豆鉄砲を食らったようなきょとんとした顔をした。と思いきや、怒りをぶちまける。


「坊主! こりゃぁどういうわけじゃ!」


 言われた方もほうで空心は、えっとした顔をした。「なんじゃ、わしこそおまえが願いを言うとは思ってもみなかったぞ」


「どういう意味じゃ!」


「『遊んでいる者』ではないじゃろ、おまえは」


 ということは! と寿太郎と保馬は思った。


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