ふるさと
森に剣のぶつかり合う音が鳴り響く。
「太刀筋が単調なんだよ、素振り馬鹿。」
「はっ。おまえは剣が軽すぎるんだよ。」
剣の音とともに互いを罵倒し合う声が聞こえる。
「音が聞こえると思ったら、またサボってる。いい加減仕事しなさーい。」
剣の音より、罵倒する声より、数倍も大きい声が響き渡る。
「ちっ。今日はここまでだな。」
「おまえの負けが一つ減って良かったな。」
「おい単細胞。おまえの負けが一つ減ったんだろ。」
「なにまだやるのか。」
一度終わったものが即座に始まった。
「いい加減に、しなさーい。」
さっきの声より大きく、二人はすぐにやめて仕事にもどった。が
「今度はどっちが多くとれるかで勝負だ。」
「いいだろう。受けてやる。」
「はい。ありがとうね。」
それぞれに収穫に応じた金額が支払われた。
「もらった金額が多いから俺の勝ちだな。」
「いや。採った量は俺のほうが多いから俺の勝ちだ。」
「はあ。」
「あぁ。」
「もうフィルもカルもやめなさい。帰るよ。」
今にも喧嘩が始まりそうなところでとめた。
こんな毎日を繰り返している。フィルとカル、アル。
「いまからやるぞ。」
「のぞむところだ。」
「もうすぐ着くよ。」
フィルとカルはこの生活が長いにもかかわらず、家の場所を正しく理解できていない。そして、この言葉を聞くと嘘のように静かになる。
そのまま家に入っていく。
「今日もごめんなさいね。今日こそはつくるから。」
母は病気で倒れてしまい、父はすでにいない。今まで三人の生活が続いている。
「大丈夫だよ。まだ寝てて、私が作るからね。二人は静かに待っててね。」
言わずとも二人は静かにしている。母のところには来ずただ自分の好きなことをしながら。
アルは今日採ったものを取り出し、料理を始めた。
「さあできたよ。二人とも食べてね。私はお母さんと食べてくるから。」
静かに二人は机の前に座り、少しでも早く食べきろうと口いっぱいに放り込んでいる。
アルは母の隣に座り、母に食べさせながら自分も食べている。
「どうかな、お母さん。」
「今日もおいしいわよ。また一段と上手になったわね。」
「ほんと、うれしいなぁ。」
アルは嬉しそうに顔をほころばせながら、自分も食べ始めた。すでにフィルとカルは元の自分がしていたことに戻っている。
「ねえ、今日も一緒に寝ていいかな。」
「いいわよ。いらっしゃい。」
そして夜を越した。また仕事に出る。昨日と同じ食材集めの仕事。フィルとカルは今日も隙を見つけては、二人で鍛錬を続けている。昨日と変わらない日々だ。
また家に帰って、食事をして、寝る。ただそれだけの日々。
同じ日が長く続く。
しかし、時間は残光なもので母は次の日に亡くなっていた。アルは一日引きこもっていた。フィルはカルを誘い、今日も仕事に向かった。次の日アルは変わったことを言い始めた。
「お母さんがやっと元気になったね。これからは一緒に出掛けられるよ。」
この発言にはフィルもカルも驚きを隠せなかった。お母さんは昨日亡くなったはず。元気なはずはない。それどころか元気になるはずもないのだ。
「大好きな三人と一緒にお出かけだよ。楽しみだね。」
仕事をするのを止められて今日は市場に向かった。その間も独り言が絶えないが、それは誰かと話しているよう。
その次の日には、カルが倒れてしまった。母と同じようにいきなり、前日に前兆もなかった。動けず、ベッドに倒れたきり。それからはフィルは一人で仕事をした。いままで三人でやっていた分、その疲労はすさまじかった。鍛錬する時間もすべて寝るまたは、仕事に費やされた。
一週間後フィルは亡くなってしまった。その直前には、逃げろといったように聞こえた。逃げるといっても行くあてはないし、逃げる必要は感じなかった。その言葉の真意は夜中に判明した。
「カルそんなに怖がらないで。お母さんとかフィルみたいに長くはかけないからね。」
アルの後ろには悪霊が見えたように思った。いや思っただけではない、二つの影が見える。
「アルもこうなるんだよ。そうすれば一生一緒にいられるんだから。」
アルはそのまま手に持った毒草をカルの口に押し込んだ。今までの仕事での疲労が積み重なり、抵抗するだけの体力はない。そのまま水を注ぎこまれ、飲み込んでしまった。そのまま体の力が抜けていき、動くだけの力もなくなり、全身の感覚が遠くに行くようで、、、
「これでみんなここで一緒になれるね。ずっとこれから、永遠に。」
アルはカルに飲み込ませた毒草を飲み込んだ。
その家は壊そうとする人がいればすぐさま呪われ、中に入る人がいれば一生その人を見ることがなくなる、と言われ、その街には誰も寄り付かず、呪いの故郷と呼ばれる町となってしまった。