ヒホンジン、異世界ライフ中4
そなたのようなもの、あの御方に相応しくない。
美しいの衣装を着た青黒い髪の中性的なたぶん異様に青白い美女? が目の前にゆらりとたった。
ことの起こりはお茶会の翌日にさかのぼります。
今日も大型ワンコ……違ったイェティウス殿下の悲痛の叫び? を通勤のために振り切って、廊下をあるきながら中庭通り抜けの誘惑を小豆色の制服で諦めて歩いていると今の時間には珍しく向こうから誰か来た。
灰色の美しい翼をゆらし紫の瞳と灰色の短い髪のスレンダーな女性が茄子紺色のミニドレスに透け感のある白い花もようのショールを優雅に巻きつけ両手を腰に私の前で立ちどまった。
「まあ、お前がかの君の情婦なの? 」
女性は汚らわしいものを見たように眉を上げた。
じょ、情婦? どこにそんな色っぽい人が? 思わずキョロキョロとあたりを見回した。
どこにもあられもない格好をした美女はいなかった。
「お前のことよ、グーレラーシャの黒猫軍師の情婦なのでしょう? 」
翼人? の女性が私の鼻先に銀の上に青いラインストーンのネイルアートが施された手入れがよくされた爪が突き出された。
えーと、黒猫軍師って誰?
「私がお世話になってるのはイェティウス王子殿下ですが」
情婦ってお妾さんとか愛人とかのことだよね? 私は愛玩動物枠なんです。
「イェティウス王子殿下がグーレラーシャの黒猫軍師よ」
そんなこともしらないなんて信じられないわと翼人? はよく研がれた? 指の爪を揺らした。
……筋肉中年王子殿下の情婦って思われてる?
それは……お互いにまずいことだよね。
「さっさとあの方と別れなさい! 」
翼人? の女性が腕を振り上げた。
ぶ、打たれる。
思わず目をつぶる……あれ?
衝撃が来なくて目を開けると小豆色の制服が目の前に立っていた。
翼人? の女性の爪? を手甲で受けてる。
素早い……と言うか金属で割れないあの爪何ー?
「王宮内での暴力行為は控えてください」
初めて聞いた王宮警護官の声に中庭出なくて良かった〜と心底思った。
「ダイア様〜」
向こうから緑色の翼の中年の丸っこい女性が一生懸命ヨタヨタと走ってきた。
その後ろからピンクの翼と黄色の翼の中性的な男女が滑るようについてくる。
無礼よ〜なんでそんな女をかばうの〜
ダイア様とやらが両手を握ってキーキー言った。
ダイア様、問題を起こしたらだめです〜おしとやかに〜
緑の翼の女性がハアハア言いながらダイア様に取りすがった。
「だってイェティウス殿下が私を、他国の姫を相手にしないのはそこの情婦のせいだとお姉様に聞いたわ」
「ダイア殿、私に何か御用ですか? 」
キーキー言ってるダイア様の声にかぶさるように聞き覚えのある美声……いつもより冷たいイェティウス殿下の声が聞こえた。
「イェティウス殿下」
ダイア様が桃色と言っていい甘い声を出し次の瞬間恐ろしい顔をした。
後ろから抱きかかえられる
なんでそんな毒婦をとダイア様に睨みつけられる。
「あなたが私の大事なものに手を出すなら」
容赦しませんと恐ろしい声で後ろの保護者は言って私の首筋をかんだ。
えーと、攻撃する人間違ってますよ。
ダイア様はブルリと身体をふるわせてどこか私を見た。
怯えてる?
でもすぐに強い目をした。
「私は諦めません」
大きく指を突きつけてダイア様はイェティウス殿下、失礼しますと翼人のお付きを連れて踵を返した。
呆然自失した後に時間を確認して思いっきりイェティウス殿下から転がり落ちた。
「茉莉? 大丈夫ですか? 」
「イェティウス殿下、ありがとうございました、行ってきます〜」
ちらっとイェティウス殿下の方を見るといつも二人一組で行動が基本らしい王宮警護官のさっきかばってくれた人の片割れがイェティウス殿下の後ろに控えている。
呼んで来てくれたのか、あとで丁寧にお礼言わないとね。
王宮警護官二人にお辞儀をして茉莉〜と騒ぐ大型ワンコに手を振ってなんとか遅刻せずに済んだよ。
もう、イェティウス殿下に迷惑かけるわけに行かない……情婦って、毒婦って何さ〜
うん、迷惑かけないように頑張る。
というわけで傭兵ギルドの事務所に休み時間を利用してやってきました。
「ええ〜、なんて恐ろしい事を〜」
リリアナ事務員さんが中型通信機を胸に抱えた。
別に恐ろしい事言ってませんよ? 聞き間違えかな? もう一度、頼んでみよう。
「独身寮とか、ギルドで優遇されてて月末払いの賃貸物件とか、下宿とか紹介してください」
「無理ー無理です〜、あたしはまだ死にたくなーい」
リリアナ事務員さんが蒼白になってパタパタとレオティナス事務課長の後ろに逃げた。
今日も薄毛な三人のぱぱでインテリ中年レオティナス事務課長は馬鹿、私に振るなとつぶやいてる。
私の毛根を死滅させる気かとぼやきながら咳払いをした。
「マツリ君、君はイェティウス殿下の保護下にあると私は理解している」
「いつまでもお世話になってるわけに行きませんから」
レオティナス事務課長は眉を上手に片方上げてリリアナ事務員さんを見た。
ひいっあたしのせいじゃ無いですよ〜とリリアナ事務員さんが怯えた。
なんでそんなに怯えてるの?
「それは、立派な考えだが……」
「すごく迷惑かけてますので」
イェティウス殿下に早くお嫁さん……なんかまたズキズキした。
でも情婦とか毒婦とかいわれたくないしなぁ。
「まあ、君の考えもあるだろうが……」
「イェティウス殿下の腕の中から毎朝出てくるのだってヒヤヒヤしてるのに〜絶対に無理〜」
リリアナ事務員がレオティナス事務課長の後ろから叫んだ。
小動物が出てくるくらい大丈夫ですよ。
こんなことなら弁当はラファエウスみたいに中庭で食べれば良かった。
私も横着せずに食堂行けばよかったです〜
レオティナス事務課長が舌打ちしリリアナ事務員さんがきれいな青い目をうるうるさせた。
えーとなんで大惨事みたいになってるんでしょうか?
「独身寮とか、下宿とか……」
「頼む、頼むから黒猫軍師殿下の腕の中から出ていかないでくれ」
「わーん死にたくないよ〜」
なんか恐慌状態にこれ以上無理なんだろうと思いありがとうございましたと頭を下げて事務所を出た。
黒猫軍師殿下って今朝知ったイェティウス殿下のことだよね?
怖くないよね? イェティウス殿下、やさしいよね? 毎回添い寝とか、あーんとかは困るけど……
寝起きの色っぽさとかふっと笑ったときの優しさとか……
私も離れたくないけどさ。
お姉さんな国王陛下とか叔母様なジャスミナ様とかノーラミフィエさんとかが心配してるし、迷惑かけないでほしいって思ってるみたいだし……それにあのダイア様みたいな人もそこそこいるんだろうなぁ。
あーあ先立つもんが欲しい……
そうすれば、お礼もできるし住むとこも決まるし、たまにはスイーツも自分のお金で食べられるしね。
とりあえず、帰りに不動産屋行って物件見てこようかな。
予定通りに裏門から街に出た。
おい、マツリちゃんそっちは違うぜと慌てるギルドの門番さんに手を振ってあるきだす。
なんか慌てて通信機をかけてるけどなんかあったのかな?
グーレラーシャの王都ラーシャは賑やかだった。
しばらくすると後ろに気配がした。
振り向くと見覚えある人が息を切らして追ってきていた。
「なんでついてくるんですか? 」
「だって襲われたら恐ろしいです〜」
リリアナ事務員さんがなぜかついてきた。
王都ってそんなに物騒なところなんですか?
気がついて追ってきて良かった〜、王宮に送っていくよ〜
リリアナ事務員さんがそうに言ってるのを流して石造りの町並みの間を走る古い石造りの歩道をあるく。
車道は馬車とか鳥車とか自動車っぽいものとか走ってる。
店の前には日よけ代わりなのか売ってる物が鮮やかな色で染められた布が上から斜めに地面に固定されている。
がっしりしたグーレラーシャ人の老若男女がそれぞれ店に入ったり道端の日よけ用パラソルの下で売られてるジュースを飲んだり果物のはちみつがけ串を買って食べたりしている。
芸術的なうさぎの細工飴を食べてるのはうさぎの頭獣人で隣の猫耳獣人は大事そうに芸術的な猫の飴細工をポシェットにしまってる、その向こうで物語の竜の角と尻尾を持った女性が肉屋でお肉を見てる。
本当にたくさんの種族が争いもなく歩いてる。
高い建物があまりないけど古いヒホンではない異国情緒あふれる町並みに心が弾んだ。
栗さんとか海里姉ちゃんが行きたーいとか言いそうだよ。
優兄ちゃん……優弥さんは……相変わらずお菓子とか食べてるのかなぁ……
帰りたい……日本に家に……凩道場に……
ダメだ、泣いちゃ。
異国情緒あふれる町並みがぼやけた。
「ちょっと待って」
リリアナ事務員さんがおってきたので慌てて小さい路地に入った。
お願い〜逃げないで〜
俺には四人の子供と母ちゃんがいんだぞ〜 死にたくねぇ〜
リリアナ事務員さんの後ろからギルドの今日の門番さんまでおってきた。
なんかよくわかんないけど……ともかく逃げないと。
石造りの路地をかける。
より小さい路地をぬける、曲がる。
「危ないよ」
「ごめんなさい〜」
曲がったところでぶつかりそうになった押し車の円背気味のおばあちゃんに謝って奥へ、奥へと進んだ。
こっちと誰か手招きした。
普段の私なら絶対にいかないのに……
待てーと門番さんの声が聞こえた。
私は慌てて手招きされた方へ行って小さい扉を潜った。
モワッとしたどこか不思議な香が中央に置かれた脚の付いた香台らしきものから漂い。
周りには深い宇宙のような青黒い布に金と銀の線が無数にランダムにどこか機械の基盤チックに描かれている。
その前に同じような青黒い布を被り顔に薄い深い青の布で覆った人物を中心にオレンジ色の服を着たがっしりしたグーレラーシャ人みたいな男、中性的な美女? がいずれも顔を布で覆い立っていた。
他にも気配を感じる……
ついに……ついに手に入れ……ボソボソと青黒い人物がつぶやいてるのに背筋が寒くなった。
私、攻撃は最大の防御な日本人としてなんか間違った?
逃げようとして後ずさりながら扉を探るとノブに当たった。
ま、回しても開かない。
中性的な人物がふわっと被り物を後ろにはらってゆらりと近づいてきた。
そなた……そなたのような毒婦が……マレビト?
ささやくような声が聞こえた。
あれ? その毒婦って二回目です……もしかして筋肉中年王子殿下の関連ですか?
もう、絶対に自立するんだ。
「あの、私、あの方のお妾さんじゃありません」
小動物枠だよね……なんか頭がクラクラ……
「そなたのようなもの、あの御方にふさわしくない」
ゆらりと目の前に近づいて中性的な異様に青白い美女が感情のない目で私の首を持った。
首を絞められそうになってその手を離そうと持つと汚らわしい、離せ毒婦と頬を叩かれてよろけた。
そのまま倒れ込んで……うま乗りになられそうになったところで美女が首根っこを掴まれた。
可笑しい、力が入んない。
「巫女姫サマ、それはご供物です」
グーレラーシャの傭兵? ポイ人が冷静に無礼者〜離せ〜と騒ぐ美女をどけて……
ごくもつ? こくもつ? ごくつぶし?
極持つじゃないよね……
天井に貼られた星座図みたいな布模様をボンヤリと見た。
手首に縄がかけられ誰かの肩に担ぎ上げられたところで意識を失った。
最後に浮かんだのはイェティウス殿下の顔だった……どうしてだろう?
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m