黒猫軍師王子はお仕事中2
まったく、どうしてこんなにうるさいでしょう。
王宮の仕事部屋の大型通信機に表示したパイナ草原国の調査報告書を確認しながらため息をついた。
わざわざ印刷したらしい釣り書きと見合い写真とやらがサイドテーブルを占拠している。
「私なんて王位継承権から限りなく遠い王宮住みの中年男なんですけどね」
どこにこんなくたびれかけた中年男に魅力を感じるのでしょうか?
金髪に混じった白髪をみた。
若い頃、美貌の父上様方の祖母上様、クレシアの月によく似ていると祖母上様に懸想してた男にせま……ろくでもない記憶ですね。
もちろん、バトルファンで叩き飛ばしましたとも。
私は、祖母上様でなくて父上様に似てるんです。
どうせなら母上様の様な神秘的な黒髪とか銀を溶かし込んだ緑の瞳とか憧れましたが……しょせんないものねだりですしね。
だから、黒髪の美女に惹かれるのでしょうか
昔、ファモウラ軍国の戦場を駆け抜けていた頃あった美しい黒髪の守護戦士の宇水 優黎嬢……『青の指揮官』に惹かれ、今また、黒髪の愛らしい茉莉に惹かれている……
優黎嬢にはフラレてファモウラ軍国の総統麻•ロビンに嫁いでしまったが……
あのパイナ草原国のテントで茉莉を見たとき、グーレラーシャ傭兵国の男としての本能……愛するものを見つけた、魂の歓喜を感じた。
抱き上げたい、誰にも渡したくない、囲い込んで誰にも見せたくない。
「それなのに……今日も僕の腕の中から出て仕事に行くなんて、茉莉さん、僕を殺す気ですか……」
かくっと頭を下げた。
「パイナ草原国の方はファグレアの蔓延より、新国王陛下や旦那の伴侶の方が気になるみたいだな」
ギアリウスが資料を確認しながらやってきた。
ここではギアリウス•ニノミ秘書官と言うことになる。
高名なイトコたちと違って俺は現場向き〜と騒いでいたが、聞く気はない。
こういう仕事も現場ですよ、ギアリウス。
「僕の伴侶は茉莉に決まってます」
ヴィヴアーヌから送られた麻薬組織の動向を無意味に画面上で拡大しながら答えた。
わー、やっぱりさっきぼやいてたの旦那かよ〜とギアリウスはため息をついた。
失礼な君だってノーラミフィエが冷たいだの、男心がわかってないだの、抱き上げたいだのよく言ってるじゃないか、一応従姉妹殿は高位貴族ヒフィゼ家の御令嬢ですよ。
「茉莉は何をしてるのでしょうか」
「その嬢ちゃんのことなんだが、ヒフィゼの大奥様が見極めるとかなんとか」
ノーラミフィエが騒いでたぜ、なんだかんだいって面倒見いいよな、さすが俺の愛する女だぜと惚気るギアリウスがうざったいです。
なぜ、ヒフィゼの叔母上様が出てくるのでしょう?
律様は、息子の嫁に興味ありませんの?〜とか言ったらしいぜ〜と妙に気色悪い裏声を出してる側近を見合い写真を丸めて叩いた。
母上様はたぶん父上様の腕の中から出てこられないのではないだろうか? か弱すぎるほどか弱いですからね。
その点、茉莉は少しは武術をするらしく、サラリと腕の中から出ていきました〜本当に僕の息の根止める気じゃないですよね。
「旦那、このムリュフの姫君、嬢ちゃんよりたわわってますぜ」
「僕は巨乳が好きなんじゃなくて茉莉が好きなんです」
見合い写真を広げてニヤニヤしてるギアリウスを従姉妹殿にいいつけてやると思いながら通信機の画面を見ると新しいメールが来ていた。
ケーリィアスからのようだ。
雇った冒険者からパイナ草原の中央にある大岩の壁画の存在の報告を受けた? 同行の考古学者が大興奮? なんですか? それは。
古代アラリスーリ帝国の謎の文様風のものと……その岩に閉ざされた洞窟があるから中の調査許可を申請中とのことですか……
その他、古代の祭祀に人を捧げるものがあるとか古代アラリスーリ帝国専門の考古学者が興奮気味に隣りの壁画を解説していたとか言っていた。
古代アラリスーリ帝国の流れをくむと言われるオーヨ神聖王国……今はヌーツ帝国の地方都市だが……でも人を捧げる祭祀をかつては行っていたとかなんとかさわいでるとか、時空より巨大な力を得るためにマレビトを呼び捧げんとかなんとか……
呼ばれたのがオーヨの神話の天空の若君だったか夜空の姫君だったか……
飛躍しすぎじゃないですかね?
でも、茉莉が異世界の人なのはたしかです、ヒホンとかいう国から来た……マレビト?
頭を振って画面を進める。
「……パイナ草原国もかつて古代アラリスーリ帝国の広大な版図の一部だったことがある」
よって古代アラリスーリ帝国の遺跡の可能性が高い、洞窟内部を探索に期待すると考古学者からの興奮気味な報告があったらしい。
草原の民は案外保守的ですからね。
一介の考古学者に祭祀の跡とは言え調査が出る可能性は……
ええ、もちろん、なんとかしますが……
人を捧げる祭祀のときに『天上の香』が使用されたらしいです。
まさに死に至る天上の香ですけどね。
「まったく、何が楽しくて麻薬なんぞに手を出すんですかね」
「愛しいものと甘いものがあれば至高であるとかつてのラーシャ族の将軍が言ったそうですが……」
最近、グーレラーシャでも麻薬の流入が絶えないと王都警務隊からの報告書にあった。
デリュスケシの港町で地方警務隊や傭兵ギルドの専業傭兵に捕まる海賊のほとんどが麻薬に手を染めているとか……
世界は平和になりきれていない。
でも……かつてよりは平和のはずです。
一体何が起こっているのでしょうか?
「旦那〜メリリノア王女殿下の即位式のパーティのパートナーは誰にするんだ? 」
このシュホルドの大農家令嬢の豊穣な胸たまんねぇーとか言ってるニノミ秘書官は従姉妹殿に引き渡して引導を渡してもらうことにして。
「もちろん、長井 茉莉嬢以外考えられません」
可愛い茉莉を思い出して微笑んだ。
「りょーかい、でも面倒くさそうだぜ」
旦那は意外とモテるからなぁ……グーレラーシャの淑女はまあ、ヤローの性質を知ってっから本気って分かれば邪魔なんて無駄しないけどよ〜とギアリウスは積まれた見合い写真をパラパラ見た。
つうか、旦那〜巨乳好きって思われてるんか?
ほとんど胸がたわわってる女ばっかなんだけどとギアリウスが僕を見た。
あ……軽いつきあいなら案外、胸が大きいサイズの女性が多かったかもしれませんね。
ええ、優黎さんのあとヤケになって少しあれてたことがあったもので。
でも……あの狂おしい、愛しいものへの執着というか、離したくない、抱き上げたい、腕の中から出したくないと思うような女性にあったことは茉莉以外ありませんでした。
あの優黎嬢ですらです。
もちろん優黎嬢は抱き上げたい気持ちはありましたけど……麻•ロビンやらアキュアのケイル軍王の押しに負けましたから、まだまだグーレラーシャ男の本領発揮ではなかったのかもしれないです。
でも……もしも茉莉が……他の男に目を向けたら……この世の果てまで追いかけて誰にも見られない所に閉じ込めてしまう自信があります。
父上様の母上様への執着なんか見てると人の振り見て我がふり直せって思ってましたが、全く無理です。
「じゃ、嬢ちゃんの盛装とか準備しねぇとか……ジーミシアちゃんなんかつてねぇ? 」
赤い髪の少し幼い感じの美女が気がつくと入ってきていた。
入室許可はいただいたのですが……と心細そうだ。
ジーミシアさんはデシティウス殿の長女で最近まで弟ガイウスと共に子供だと思っていたが……すっかり大人だな。
臙脂色外務担当官の制服を着ている。
ジーミシアさんが文官の礼をした。
「あの、盛装でございましたら、我が叔母が嬉々として揃えそうでございます」
ジーミシアさんはこげ茶の目を伏せた。
しかし、その前に我が祖母がちょっかいを出しそうでございますがとしずかに付け加えた。
次期、外務担当官長となる予定のジーミシアさんは母親のせいで少々引っ込み思案のようです。
「それでジーミシアちゃん、本題は? 」
ギアリウスは目線を鋭く見た。
「ケレス森国のダウリウス大叔父上がリエスディア国王陛下の退位式に出るために参ったのですが……創生の森の古代の遺跡に無断侵入を試みたものがいたそうですわ」
かつて、異世界よりのマレビトが現れたとか言う文様の刻まれた岩とかいう話です、イェティウス殿下の元に異世界人がいるということを聞きつけて何かのたしにと戦闘文官様に漏らしたとのことですとジーミシアさんはうっすら笑みを浮かべた。
なるほど、どうに使うか……
「ダウリウス殿は本当にカザフ外務担当官を信頼しているのですね」
「自分の背中を任せられるのは戦闘文官様だけと、今でも伴侶様以外で一番信頼できると豪語しておりますわ」
ああ、ダウリウス君、ラズデアナさんに盛大に振られましたよね。
しかも息子にダルフィーラにラズデアナさんの娘のハセルリアさんを娶せようと画策したら、息子の女遊びが激しいせいでナルフィーラ王弟殿下に取られたとか、そんなに複数の女性が必要なのでしょうか?
「まあ、メインの宴はともかく、今日もファメイ翼人国の大使館で夜会と言う名の狩り場だ」
もちろん旦那は獲物の一匹ですぜ、とギアリウスがニヤリと笑った。
ああ、でもファメイの長姫は胸はスレンダーだ、残念ですね、旦那と見合い写真をわざわざ探して見ているギアリウスに殺意を少し感じた。
今度、一度話し合いしたほうが良さそうです。
ジーミシアさんはノーラミフィエ叔母様に言いつけて……とつぶやいてるのが聞こえました。
ええ、ぜひやってやってください。
協力は惜しみません。
ギアリウス•ニノミ秘書官、あなたの事はとても信頼していますが、失言癖というか煽るというかは許しがたいです。
ぜひ従姉妹殿に締められて反省してください。
後はなんとかしますから安心して逝ってらっしゃい。
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
今日は私の誕生日ですヽ(=´▽`=)ノ