ヒホンジン、異世界ライフ中2
うーん、王宮って半端ねー大きさです。
早く先立つもんが欲しー。
グーレラーシャ王宮のすぐ隣の敷地に王立傭兵ギルド本部の立派な建物がある。
王宮さえ脱出すれば徒歩何分の距離なんだけどはっきり言って奥過ぎて遠いです。
「行ってきます」
どっか部屋借りようかなぁ……でも先立つもんがなぁと思いながらイェティウス殿下の部屋群から一歩出ると案の定筋肉王子がついてきた。
「茉莉〜どうしても行くのですか〜」
金髪筋肉王子が朝から悲壮な声で私を後ろから抱きしめた。
「働かざるもの食うべからずです」
だから離して〜遅刻は社会人として最低なんです〜とジタバタしたらなんとか外れた。
というかたぶん離してくれたんだろうけどさ。
茉莉〜って叫ばないで〜。
大型犬がなんかキュンキュンピスピス言ってるみたいです〜
そういや、ある程度の年齢層の人に父君そっくりって言われてたよね。
親子二代で大型ワンコかーい。
「中庭通れりゃ、近いんですけどね〜」
横目で朝日に輝く中庭を見るといつも通り『王宮警護官』の皆様が小豆色の長衣とズボンの制服に銀のラーキャっていう花とミツバチのエンブレムをつけて一本三つ編みにして立っている。
男女ともに一本三つ編みが定めの職業らしく、王都警務官とかもそうらしい。
実はグーレラーシャ傭兵国は例外もあるんだけど、だいたい男性は一本三つ編みで女性はまあ一本しばりからハーフアップから色々な髪型なんだけどかんざしの一本や二本は刺してるんだよね。
どうも武力的な意味もある髪型らしいんだけど……そこまで突っ込めてないなぁ。
なんとか早足でショートカットできるはずの中庭の誘惑をかわして、裏門についた。
「今日も黒猫軍師殿下の腕の中からでてきたんだね」
「お仕事ですから」
顔見知りになった裏門の受付ヤーフェさんに愛想笑いを浮かべて通行許可証のカードをポシェットから出して提示した。
ヤーフェさんは壮年の白髪混じりの茶髪の女性で、どっちかというと普通のおばちゃんタイプでおしゃべり大好きだ。
筋肉中年美形王子殿下には色々お世話になってるから時間の許す限り小動物業は頑張ってる、よく抱き込まれて食事介助とかされてますよ。
そんなに疲れてるんかな?
最近の若い子はわかんないわとヤーフェさんがブツブツ言ってる。
私も今の生活今ひとつつかめないよ。
なんで仮にも王子殿下にお世話にこんな平々凡々な私がなってるのかなぁ。
お気に入りの王道異世界トリップ小説でも『平々凡々』って本人が思っても着飾ったりすると美人だったりするもんね。
まあ、先立つもんができたら少しでもお返しできるように頑張りますよ。
ヤーフェさんに手を振ってあわてて傭兵ギルドの裏口に回る。
本当に隣にあってよかったよ。
もちろん王宮警護官も立ってるけど勤務中は沈黙が基本らしい……例外もあるけど……ので会釈して通った、逆に傭兵ギルドの裏口警護の傭兵さんはいつでも元気だ。
「おはようございます!! 」
「おはようございます」
今日の当番らしい緑がかった青い髪の傭兵さんと挨拶して傭兵ギルド職員証のカードを見せて裏口を開けもらって中に入った。
いざというとき傭兵ギルドの職員が王宮の護りになるかららしいから近いんだよね……直通の通路もあるらしいけど、平時は閉じられてるらしく傭兵ギルド管理官長も裏口から通ってタイムカード押してたよ。
ハルリウス•ヒフィゼギルド管理官長、男の色気たっぷりのこげ茶色の髪と目の中年美丈夫でイェティウス殿下の方が……とか思ってしょせん小動物扱いだしねと落ち込んだのは秘密です。
ちなみに名前まで言ったのは理由があってさ。
タイムカードを押してロッカーに寄ってエプロンをして医務室に行くと先客がいるようだ。
「おはようございます」
「おはよう、ちゅんにガーゼ貼ってやってくれるか」
私の方も見ず薄茶色の髪に青い目のラファエウス医師がこげ茶色の髪と目の少年よりの美青年の腕の傷を情け容赦なく消毒していた。
しみるらしく眉をひそめた若者はちゅんではなくガイウス•ヒフィゼ高等鎌士というヒフィゼ家のお坊っちゃんで専業傭兵で次期傭兵ギルド管理官長らしい。
つまりノーラミフィエさんの甥っ子で傭兵ギルドはヒフィゼ一家かいってくらい同姓がいるから名前よびのようです。
処置台の摂子を摂子立てからとってガーゼカストから一枚出して医療用粘着テープを切ってガイウスちゅん?に向き直った。
「引っかき傷? 」
「ピルアニにひっかかれました」
端正な顔立ちの若者の筋肉質な左腕に3本傷が走っている。
傷をガーゼで保護して医療用粘着テープで留めながらピルアニ? と小首を傾げるとでっかい猫だとラファエウス医師がカルテを入力しながら教えてくれた。
あとで映像を調べたら豹っぽいでかすぎる肉食獣だった。
「商人の護衛の仕事の帰りに遅れを取りました」
「ちゅんはまだまだ未熟だし死ななきゃいいんじゃねぇか? 」
ラファエウス医師が向き直った。
近場だったので一応その場で応急処置をして傭兵ギルドの医務室で見てもらったらしい。
でも……と顔をしかめる若者に何事も経験だとラファエウス医師が肩を叩いた。
「そういえば、イェティウス殿下の腕の中から出てきて大丈夫なのですか? 」
不思議そうにガイウスちゅんが腕を袖にしまいながら聞いた。
なんだってみんな、人の事ペット扱いしたがるんだ。
「えーと、まあ、あの方も大人だし大丈夫だと思います」
「そりゃ、グーレラーシャの男を見くびりすぎてるぜ」
ラファエウス医師が顎を掻いてフッと笑った。
「そうですね、俺もいつか愛する女を見つけたいです」
ありがとうございましたとガイウスちゅんが立ち上がった。
抗生物質出しといたからしっかりと飲めよ、野生動物はなにもってっかわかんねぇからなとてを振った。
はいと返事をして若き傭兵はお辞儀をして出ていった。
王立傭兵ギルドの仕事で怪我をすると治療費の補助金が出るみたいだけど……費用系はよくわかんないんだよね。
ちなみにこのガイウスちゅんは傭兵ギルド管理官長になったあとに来た可愛い守護戦士さんに狂わんばかりの求愛をするんだけど、その頃には私もグーレラーシャの男なんてこんなもんとおもっただけだったよ。
この時点ではなんのこっちゃと思ってたけどね。
ガイウスちゅんがさってその後はちょこちょことけが人やら体調不良者が来てそこそこ忙しい。
傭兵ギルドの隣に傭兵ギルド所有の闘技場があって仕事の合間に専業傭兵さんたちが技を磨いたりしてるんで呼ばれて行くこともあるんだよね。
ここで対処できないときは傭兵ギルド付属王立ラーシャの恵病院に行くから今ん所重症者はいないけど、そのうち生き死にに関わることもあるのかなぁと日差しの強い空を仰いだ。
闘技場は年一回のハチミツ祭の時に専業傭兵、兼業傭兵や守護戦士等いろいろ含めてトーナメント戦を行うらしいです。
闘技場の方の医務室は前面ガラス戸で傭兵さんたちが訓練してるんがよく見えるんだ。
一応、一日一回くらいはこちらもくるんだけど……
「お前、すり傷くらいでくるなよ」
「すり傷は万病のもとっていうじゃないっすか」
ラファエウス医師に訓練で作ったという手の甲のすり傷を見せて赤毛の若くて少し軽薄そうな傭兵がえへへと笑って私の何故か胸を見た。
えーと……そういう視線感じたことあんましないです。
診療所ももちろん老人ホームも高齢者ばっかだったしね。
ちょっと大っきいけど胸なんぞ脂肪の塊ですよ、日差しが強いと汗が下にたまって気持ち悪いです。
それより、向こうで資格更新の順番待ちで訓練してる傭兵さんの胸の筋肉の方が立派ですよ、槌使いらしいですね。
「お前、千枚おろしにされたら俺でも治せねーからな」
あきれたように絆創膏とラファエウス医師が手を出した。
「私が貼りましょうか? 」
「うれし」
「いや、いいこいつはまだこき使わんとな」
ラファエウス医師が言葉をさえぎって手を出したので絆創膏を渡すと勢い良く貼られてた。
千枚おろしって冗談だよね。
センセー痛いっすと騒ぐ軽薄傭兵にさっさか戻らんかとラファエウス医師が腰を叩いた。
いてーマツリちゃん、俺、骨折れたっすと騒ぎながら近づいてきた軽薄傭兵に大丈夫ですよと言いながらガラス戸を開けた。
マツリちゃん冷たい〜と軽薄傭兵はシブシブ出ていった。
「まったく、近頃の若いもんはどうなってるんだ」
ブツブツ言いながら通信機にカルテを記入しているラファエウス医師は壮年で若い頃はガイウスちゅんのお祖父様の先々代国王ウェティウス陛下……筋肉中年王子の父親……の弟、ノルディウス殿下とファモウラ軍国戦争の戦場を軍医として駆け抜けたらしい。
だからもう孫がいるんだよね。
楽しい奥様は傭兵ギルドの受付の長をやってるティアニアさんです。
私が入る前に産休に入ったシレアスナさんはアッシュグレーの髪に茶色の目の美人さんで旦那さんが兼業傭兵で鍛冶屋さんなんだって。
傭兵ギルド医務室、本当に人手不足でラファエウス医師と私しか現在いません、どうしても必要なときは傭兵ギルド付属ラーキャの恵病院の看護師さんをお願いするし、緊急事態は病院対応だし、異世界でやってた仕事にくらべると楽です。
太らないように私も休み時間に運動しようかなぁ。
まったくどいつもこいつも、そんなに……まあ、若い求愛行動してない連中はそんなもんかとラファエウス医師は私をちらっと見た。
そんな、人を危険物みたいに言わないでください。
処置台を片付けながらラファエウス医師を見つめ返した。
「……飯にすっか」
ため息をついてラファエウス医師は立ち上がった。
ラファエウス医師は愛妻弁当とか自分で作った愛夫弁当とかでティアニアさんといつもラブラブで食事をしている。
私は先立つもんがないから傭兵ギルドの福利厚生の社員食堂で一番安い日替わり定食を食べてます、給料引き落としなんで傭兵ギルド職員証のカードで食券買えば食べられるんだよね。
現金払いも可なんで専業傭兵さんとか近所の人とかセルフサービスの水とお茶とお湯が無料なので弁当食べてる人もいます。
本部の二階にあって手が空いた人がたべてるんだけど、座席がおっきくて座り心地がいいんだよね。
職員証を券売機に電子マネーのカードみたいに指定場所に押し付けて日替わり定食のボタンを押した。
券が出てきたのでカウンターに持っていってお願いして引き換え番号もらってセルフサービスのお茶を一杯ついでに沢山おいてある砂糖瓶を一個持った。
「砂糖瓶持ちますのね」
振り返ると意地悪しきれない傭兵令嬢さんが立っていた。
「紅茶のは砂糖が必須です」
「本当に異世界人なんですの? 」
ノーラミフィエさんが小首をかしげた。
異世界人は砂糖入れちゃいけない決まりでもあるんかい〜
グーレラーシャ人はドバドバ、ドバドバ、ドバドバ、入れるくせにー、さすがに紅茶シロップにしては飲まんわ〜
スペシャルランチセット(デザート付)持ちやがって〜
わーん、みーんな先立つもんがないんが悪いんだぁ。
王宮の食事も妙に異世界人ってことで砂糖控え目ですよねとか、油は大丈夫ですかとか、肉より魚ですよねとか気にされるけどさ。
確かに味濃いし甘すぎだけど……私、紅茶やコーヒー砂糖入れるもん、魚も好きだけど肉大好き何です。
私の前の異世界人ってどんだけストイックなんですか〜
「な、なんですの? 私に何か有りますの? 」
「どうせ甘党異世界人ですよ」
恨みがましい目で見たらたじろがれた。
番号呼ばれたので白菜の鶏肉、米、ロール煮とパン、シメジとトマトヨーグルトサラダの乗ったトレーに砂糖瓶とお茶を置いて持ち上げて窓際の席に座った。
うん、美味しい……味は濃い目だけどね。
「そんなに甘味がほしければ、王宮にいれば良いじゃありませんの」
何故か向かいに座ったノーラミフィエさんがデザートのハニーパイを半分にしてテーブルに置いた紙ナプキンにおいて私のトレーに置いた。
うーん、安定のツンデレぶりだ。
この人、意地悪に向いてない、ものすごく。
「ありがとうございます、働かざる食うべからずなのです」
「……可愛げないって言われそうですけど、私はその考え方好きですわ」
やっぱりあの女とは違うですわねとつぶやきながら葡萄の葉の詰め物ロールをフォークで一本取って私の皿においた。
「成人すれば働くのが当たり前です」
うちの両親も共働きだったし、周りに専業主婦のお母さんなんてほとんどいなかったよ、だから働くのが当然だよ。
「そう、そういう娘ってお母様につたえておきますわ」
なんでそこに『お母様』が出てくるんだろう? と思いながら葡萄の葉をフォークでむこうとするとそのまま食べるものですわと力説された。
うーん、本当にこの人、意地悪令嬢に向いてない。
まあ、しっかり食べて午後も頑張りますよ。
紅茶に砂糖を入れながら出入り自由のギルドの中庭の芝生でイチャイチャ弁当をティアニアさんと食べさせ合うラファエウス医師を見てしまった。
うーん、異世界だね……
これも食べなさいと豚肉のスパイスキャンディー巻きを皿に入れる傭兵令嬢に。
この人はおかんなんだろうかとまだまだ独身らしい美女の顔をみながら紅茶をゆっくり飲んでもらった豚肉のスパイスキャンディー巻きを食べて甘くてスパイシーな複雑な味になんか無糖紅茶が飲みたくなった。
まあ、日本に帰れるその日まで頑張ろうっと。
それまでに筋肉中年美形王子に恩返しできるといいなぁ。
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m