ヒホンジン、異世界ライフ中1
目が覚めると金髪筋肉中年王子、イェティウス様の腕の中でした、ちゃんちゃんって何さ〜。
から数日後、私、この世界が意外に進んでることを実感しながら王宮の結構奥にいます。
一生、海外に出ないと思ってたのに飛行機みたいな飛行艇に乗ったし、それ以前に大使館みたいのがあってきちんと手続きしてから出国したのもおどろきだよ。
普通、異世界トリップの王道って中世風で魔法でコルセットだよね~。
まあ、コルセットはあこがれるけど、苦しいらしいからいいんだけどさ、服がドレスじゃなくて長衣とフレアパンツなんだよね。
グーレラーシャ傭兵国って日差し強すぎだから、あと男女ともに筋肉多すぎー。
まあ、居候として文句は言えないけど……料理の味少し濃過ぎで甘いもんは甘過ぎだけどさ。
私は声を大にして言いたい。
筋肉中年王子〜あなたが一番甘すぎる〜
私は小動物じゃないもん〜
私はさっきぼやいた様にグーレラーシャの王宮の王族が暮らす部屋群の一角のイェティウス殿下が賜った部屋群にお世話になっている。
部屋群ってくらいだからいくつもいくつもいくつも部屋があってたぶんお屋敷並にあるんだと思う……思うというのは奥の部屋からほとんど出してもらえないからで、トイレもお風呂もついてる超豪華な居候生活です……仕事したいよー。
グーレラーシャ王宮は一部二階といくつかの見張りの塔以外はほぼ平屋でいくつもの中庭に面している砦形式とかいう建物らしい。
国内すべての建物はほぼ平屋か2階建てに中庭の砦方式の建物ですと例の筋肉王子がおっしゃってたけどさ……部屋から出してもらえない身としては影も形も見たことはないよ。
ちなみに王宮の中庭に無断で出ると王宮警護官という人たちに逮捕されるらしい。
王宮警護官って言うのはファンタジー的に近衛兵とか騎士? とかっぽいんだけど……かなり違うんだよね。
どっちかというと警察官とか護衛武官とかに近いかなぁ……
貴族も平民も関係なくなれるエリート職らしいよ。
窓の外に身動き一つせず立つ小豆色の制服が中庭に見えた。
いつか王都も見たいなぁ……どうやってお金稼いでイェティウス殿下に返せるのかなぁと中庭が見える居間から、ソファーに反対によりかかり空すら優美な金属柵で防御している様子をぼーっと眺めていると物音が聞こえた。
イェティウス殿下がお戻りでございます
王宮管理官の声がして足音とともに勢い良く扉が開いて筋肉美形王子が入ってきた。
メリリノア王女殿下とかいうちょっと噛みそうな名前の人の即位式前の色々な行事で本日も正装だ。
黒の絹に銀糸刺繍の足首丈の脇スリットの詰め襟、長袖のゴージャスな長衣と細身の銀糸刺繍の白いズボン、それに黒いゴージャスな銀糸とクリスタル? の刺繍の腰丈のマントを留める金具は銀色の猫のブローチで水色の宝石の目をしている。
そしていつもより細かい細工の銀のサークレットに白い手首丈の手袋で完璧な美形王子、異世界風に仕上がっている、筋肉過多だけどね。
疲れた様子でオールバックにしていて落ちてきた前髪はらってイェティウス殿下が私に微笑んだ。
「茉莉、今日も良い子にしてましたか? 」
筋肉中年美形王子は手袋をわざわざとって頭をなでた。
「私、小動物じゃありませんよ」
ぷぅっと頬をふくらませるとツンっと突かれてはいはいと隣に腰掛けてその流れのまま私を膝に抱き上げた。
いつもながらの早業だ、えーと。
王宮管理官のアーリアさん……デフォルトの異世界トリップ小説だと侍従さんとか女官さんとか侍女さんの役割の人らしいけど、超エリートの国家公務員で貴族も個人雇ができないとのこと……をみると特に意識されずいたたまれなかった。
「こんな可愛い小動物見たことありません」
「……小動物業以外の仕事紹介してください」
私を後ろから抱きしめうっとりと首元に頭をうずめた殿下に言ってやった。
仕事は僕の腕の中にいることですとのたまったので身をよじって逃げようとしたら余計に抱き込まれた。
そんな仕事あるかぁー
職業小動物なんて認めないからねー
こっちは立派なワーカホリックなおひとりさまなんだからね。
「僕を癒やしてください」
かすかに薫る甘い女物の香水に疲れた筋肉中年王子がため息をついた。
「なんかあったんですか」
剣だこのある手をポンポンと叩くと頭を撫でられた。
「私もいい歳ですからね」
ふぅと妙に色っぽいため息が耳元で聞こえた。
色気筋肉王子殿下が私と話すときは公式の事を話すときとなんとなく気がついた。
サロンに出たら肉食系お嬢様にガッツリからまれました。
とささやいてついでに首元キスすんな〜。
「肉食系って筋肉王子殿下もじゃないですか〜」
思わずその頭をバシバシ叩いた。
「……筋肉、王子、殿下……」
女性の小さい声にふとアーリアさんを見ると肩を震わせてる。
天下の王宮管理官を笑わせるなんてすごいですね……筋肉王子殿下って、僕は普通ですとイェティウス殿下が片手を離して額を押さえたので思い切って膝から降りた。
ふんわりと高級そうな絨毯の感触と下の石床の固さを膝に感じた……すみませんね、みごとに膝ついたんですよ。
「茉莉、大丈夫ですか? 」
僕の抱きかかえが甘かったですねとあわててイェティウス殿下が立ち上がったのが見えたので痛む膝を無視していざってとりあえず逃げようとした。
なんでそんなにおびえてるんです〜とイェティウス殿下に捕まって抱き上げられそうになった所で扉が開いた。
「旦那〜、異世界人対応マニュアルには押しすぎ注意ってありますぜ」
俺は仕事してきたっていうのによとギアリウスさんがあきれた顔で部屋に入ってきてるのが見えた。
「ギアリウス、それで何かつかんだのか? 」
イェティウス殿下は私を持ち上げ膝の上に抱えた。
ついでにフレアパンツまくって足確認するのやめてください〜
「嬢ちゃんにつながる手がかりはパイナ草原国での祭壇と魔法陣くらいだな」
とりあえず専門家も呼んでるんだが……すまん、帰りてぇよなぁとギアリウスさんがポリポリと頬を掻いた。
ギアリウスさんも同級生で腐れ縁のサラリウス•ゲルアシュアゼさんとかいう人がファモウラ軍国の戦場でかなり前に行方不明になっていて、専門家から異世界転移の可能性もあるといわれてるんで他人事じゃないといって私の頭撫でてイェティウス殿下ににらまれてた。
なんでさ〜いいじゃないさ〜自分だって小動物扱いのくせに〜、ギアリウスさん、変にベタベタしないから落ち着くんですけど。
「それで『日本』には確認は取れましたか? 」
「ああ……いいずれぇ、なあー、もう」
ガシガシと頭を掻いてギアリウスさんが私に目線を合わせた。
ニホンとかがヒホンであれば、お家に帰れる……でも……
「明正和次元の日本に長井茉莉はいるが、嬢ちゃんじゃない長井茉莉だった」
同位体ですらねぇと担当のソウトントンとやらが言ってた……力になれなくてすまんとギアリウスさんが頭を下げた。
その様子は耳と尻尾を力なく下げた大っきい赤毛のワンコみたいでなんか気の毒に思えた。
「大丈夫です、私の国は日本でニホンじゃないですから、お世話になりました」
筋肉王子の膝の上でモゾモゾ頭を下げた。
痛ましいものを見るようにギアリウスさんが私の頭を撫でようとして手を引っ込めた。
「旦那〜、あんたそれでいいのかよー、一応グーレラーシャ王宮で有力な貴族のお嬢の婿候補だろうが……」
ギアリウスさんが額に手を当ててため息をついた。
イェティウス殿下を見上げると嬉しそうに頬ずりされた。
「特に貴族のお嬢とやらに興味はありませんよ」
イェティウス殿下は私のお腹に回した腕に力をこめた。
中身が出そうだよ。
バシバシバシバシバシバシと勢い良く腕を叩いてるうちに意識が飛んできた。
わ~嬢ちゃーん、顔白い〜旦那、離して〜
ギアリウスさんの声の向こうに優兄ちゃんが見え気がした。
ああ、なんか石造りのアーチ型の天井が見える……天国みたいな……違う、グーレラーシャ傭兵国だよね。
ああ、魂だけになればうちに……日本に帰れるんかなぁ……ポロポロ涙がこぼれ落ちた。
帰りたい……帰りたいよぉ……
ふわふわのベッドの掛け布団で顔をおおう。
「茉莉……」
優しい声がして横を見ると見慣れた金髪筋肉中年王子の麗しい顔が見えて思わずキャーと叫んでコロコロ転がってベッドのはしまで逃げた。
なんで逃げるんですかぁ〜と騒ぐイェティウス殿下を勢い良く扉を開けて入ってきて、はいはい、原因は退場〜とギアリウスさんが引きずって部屋から出ていった。
その後からノーラミフィエさんが苦い顔で入ってきた。
「本当に外国人とか異世界人って大げさですわ」
ノーラミフィエさんはそう言いながらも優しく私をベッドの中央に戻してくれた。
別にあなたのせいじゃないのですけど、私、外国人に不信感がありますのといってパイナ草原国で起きた初めての朝に服を貸してくれようとした、このいじわるしきれないノーラミフィエさんはなんだかんだ言いながらめんどう見てくれるんだよね。
ノーラミフィエさんの服、胸が入んなくってさ、それも態度硬化の原因だと思う……お腹入っても、胸入んない気に入った服買えなかった事あるから標準が一番だと思います……えーん。
「まあ、あなたの場合はデシお兄様の元奥方と違って毒にも薬にもならなそうですけどね」
そう言いながらも目に残った涙をテッシュで拭ってくれて優しく髪をすいてくれるノーラミフィエさんはツンデレ? 指摘するとなんか怒りそう。
イェティウス殿下とどうにかなろうなんて思わないことねと言いながらツンと顔を反らしてノーラミフィエさんが出ていこうとした。
どうにかというか、愛玩動物ぐらいにしかなれないと思うけどなぁ……そうだ。
思い切って上半身を起こしてノーラミファエさんを見た。
「あの、お仕事紹介してください」
「……お仕事? あなたみたいなか弱い異世界人が? 」
バガにする様子もなく振り返って傭兵令嬢は小首をかしげた。
いえ、か弱くないです。
「私のつてなんて傭兵ギルドしかありませんわよ」
切った張ったが商売で怪我するのが当たり前のところにあなたみたいなお嬢様が耐えられるかしらと意地悪ぶってノーラミファエさんが口角を上げた。
あーどっちかというと大丈夫かも……切った(ら)貼ったは一応本業だしね。
血がダラダラ出るんですわ〜となんかトラウマでもあるんかと思うくらい傭兵令嬢が説明した。
「だから、不本意ながら従兄弟殿下に抱き……」
「出血どーんとこいです、ドクターもいるんですよね」
というかなんでそういう系の職業ネタになるんだろう? 普通受付とか事務職とか雑用係とかじゃないの?
まあ、雑用係はともかく事務職とか受付ふられても困るけどさ。
一瞬、口をつぐんだノーラミファエさんが私をマジマジと見た。
「……嬉しいわ、ぜひ、明日からおいでなさい」
医務室の職員が一人産休入ってつい言ってしまったのよ〜と何故か抜けてる意地悪しきれない令嬢が私の手を握った。
一応、看護師の資格ありま……と言いかけて異世界看護師って資格どうなるんだろうと小首をかしげた。
先生とは明日あってくださいねと嬉しそうに私を寝かしつけてエセ意地悪令嬢は足取り軽く去っていった。
仕事に出るのに筋肉中年美形王子殿下が腕から出したくないとかごねたり、やっと説得……できたか不明だけど、ともかく会ったドクターまで筋肉医師でなんかもう、異世界本当に来たのかなぁと思ったのはもう少しあとの話だ。
あと、傭兵ギルドの受付とか、事務職とか雑用係、強すぎる……。
か弱い? 私に振られないはずだよ〜。
別の意味でもできません〜。
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m