黒猫軍師王子は反撃中
茉莉がこの腕の中にいないだけでこんなに不安だ。
いつか父上様が結婚前の母上様をカータシキ魔法塔国の愚か者に奪われたとき、もし母上様がこの世からいなくなれば原因を消滅させてすみやかにこの世からいなくなり母上様の魂を追うと思ったと言っていたが……
今はその気持ちがわかる。
傭兵ギルドに行くとノーラミフィエがハナウルスと待っていた。
ついでに傭兵ギルド管理官長ハルリウスが受付前で厳しい顔でジェア傭兵ギルド受付官長と通信機を見ている。
「イェティウス殿下、国王陛下より依頼をお受けいたしました」
デリュスケシの港町にはパイナ草原国の民族衣装の連中が露骨に大暴れしてるそうですとハルリウスギルド管理官長が振り返り眉をひそめた。
おいのデシティウスの班を向かわせました、あいつも暴れたい時期でしょう。
ハルリウスギルド管理官長が人の悪い笑みを浮かべた。
光星のデシティウスが出れば相手は全滅でしょうね。
この間、ハニーブランデーをあおってたのを可愛い茉莉の寝顔を見に行こうと回廊を通ったときに、幸せそうだな、従兄弟殿下と獰猛そうな笑顔をむけられて、これは、あの元奥のストレスか? と足を一瞬止めましたからね。
元奥の愛人とやらに喧嘩を売られたとか聞きましたよ。
従兄弟殿に幸せをとその時に願ったものですが、僕が今、不幸です。
ジェア受付官長がこちらの依頼書にサインをと通信機とタッチペンを出したので行った。
従兄弟殿が幸せな再婚をしたのはもうしばらくたってのことでした……まあ、この時点ではストレス大王で殲滅上等の野獣傭兵だったわけで、ガス抜きに使われたデリュスケシの賊はボロボロになるまであともう少しの話です。
もちろん、僕は同情なんてしません。
「潜伏場所は、ハウデュアセの港町でよろしいのですか?……ニノミ君は優秀だ、殿下、手放す予定は? 」
「ありません、時々、箱に詰めて捨てたくなりますが」
そうですか、捨てるときは御一報をとまんざら冗談でもなさそうにギアリウスからのメールをチェックしている。
どうやら宙杖のヴィヴィアーヌからの連絡は無事に裏が取れたらしい。
現地の傭兵ギルドに依頼済みだ。
王立傭兵ギルドの本部は王都にあるが地方に支部がある。
当然傭兵ギルド支部管理官がいるのだが、案外癖があるのが揃ってる。
突然の依頼でよくここまで協力体制を整えた、さすが私の相棒と感心した。
ちなみに『先読みのギアリウス』が奴の二つ名です。
もっともノーラミフィエには遅れを取りまくりですけどね。
そちらにはおいの息子のガイウスを向かわせます、未熟ですが殿下のお役に立てると思います。とハルリウスが通信機に目を向けた。
篷髪のガイウスは良い若者だ。
本当にヒフィゼの者を中心に派遣してくれたようだ。
緊急事態だから、身内にわがまま言っただけですよとハルリウス傭兵ギルド管理官長は横を向いて装備品の手配をギアリウスと話し始めた。
傭兵ギルドを仕切るヒフィゼ家の者は優秀なので指名依頼が引きも切らない、きっと無理をしてくれたのだろうとその後ろ姿に頭を下げた。
「例の翼人の長姫の方は話を聞きましたわ」
この野獣傭兵令嬢〜と暴言を吐かれたのでファメイ翼国の方へ抗議を送っておきましたけど、本当に可愛くないですわ、あの非生産姫、茉莉を見習ってほしいですわといつになく冷ややかにノーラミフィエが僕を横目で見た。
こう見るとノーラミフィエもヒフィゼ家の令嬢なのだと思う。
聞けば聞くほど、他の女性の悪口しか出ませんでしたから、役に立ちませんでしたけど……だから外国人は嫌いなのですわ。
ノーラミフィエにとって茉莉も外国人と同列だったはず……外したほうが良いでしょうか?
「茉莉をそんな外国人の手のもとにおいておくなんて可愛そうですわ! さあ、助けに参りましょう! 」
ノーラミフィエが拳を振り上げた。
落ち着けノーラミフィエとハナウルスが両手のひらを前に出した。
可愛い妹分がさらわれたのに落ち着いてたらグーレラーシャ女の心意気が廃りますわ〜
どうどう、どうどうとハナウルスがなだめ私は馬じゃありませんわとノーラミフィエが叫んだ。
うーん妹分ですか……大丈夫そうですね。
むしろ暴走車が私を含めて二台……ハナウルス、あとからくる予定のギアリウス迷惑かけます。
愛しい女を取り戻すのに手段を選ばない、グーレラーシャ男の心意気です。
ハウデュアセの港町は観光と漁業の町のデリュスケシと違い、商業と漁業の町の様相が強い。
デリュスケシなら、戦闘文官の唐揚げ弁当が食べられたのによ~とハウデュアセ傭兵ギルド支部の管理官の前でギアリウスが小さくぼやいた。
あら、ハウデュアセ名物はそんなものよりいいですよとヒフィゼの分家のラミアシナ傭兵ギルド管理官が笑ってない目を三日月にした。
ことを起こす前に問題を起こすなと思いながら、外国との貿易で手に入れたと思われる、ミル=キシグ古王国の寝椅子をソファーに転用したらしいものに座ったまま足を組んだ。
全体的に異国情緒溢れているのがラミアシナ傭兵ギルドの特徴のようであふれかえる色彩に壁に傭兵ギルド章が貼られている。
「迷惑をおかけします」
「未来のグーレラーシャ王族の母君がさらわれたのですから全力を尽くさせていただきます」
ラミアシナ傭兵ギルド管理官がお茶を進めた。
本当はここでゆっくりくつろいでいる精神状態ではないのです。
でも、駆け引きは大事ですから、父上様のようにぶっ飛んでいきたいですけどね。
「報酬は特別手当もついても……」
「無事、取り戻したあかつきには回復しだい全力でハウデュアセの良いところを伴侶様共々ご紹介させていただきます」
ニッコリと笑ってない笑みを浮かべてラミアシナ傭兵ギルド管理官が中型通信機を出した。
そこにはハウデュアセに行こうではなく賊が潜んでいると思われる倉庫の画像とそこを護る敵の兵、傭兵ギルドの傭兵の配置図がうつっていた。
「こちらは元々海賊と関わっていると噂の貿易会社の倉庫です」
赤いレンガ造りの倉庫は港に整然と並んでいた。
そこを意味なく徘徊……いえ警戒してるのでしょうが、ともかくグーレラーシャ人的には徘徊にしか見えないパイナ草原国人らしき兵たち……
「ここに茉莉が……」
「旦那、突っ走っちゃだめですぜ」
ギアリウスがポリポリと頬をかいた。
「傭兵ギルド本部より派遣のガイウス君ですが、将来有望ですね」
ハウデュアセ傭兵ギルドに誘えませんよね、未来の傭兵ギルド管理官長ですし、残念ですと食えなそうな笑みをラミアシナ傭兵ギルド管理官は浮かべた。
「さっさと案内しなさい」
「周りの制圧が終わったようです」
バトルファンを握りしめ攻撃しそうになった瞬間に耳の通信用ピアスに手をやってラミアシナ傭兵ギルド管理官が口角を上げた。
ひと暴れしてきますかと笑ってラミアシナ傭兵ギルド管理官がバルディッシュを立てかけてあった棚から持ち上げた。
激鬼のラミアシナと呼ばれるだけあるが……傭兵ギルド管理官自ら出てどうするんですか〜
例の倉庫の周りには無力化された徘徊ろうじ……兵がまとめられハウデュアセの警務官に引き渡されるばかりになっていた。
その前でガイウス•ヒフィゼが相棒や班のものと武器を持ち待機している。
「状況は? 」
「特に動きはございません」
ガイウスが簡易に礼をした。
目で合図して倉庫の扉を開けた。
たくさんあるコンテナの奥の小さな箱の上に私の愛するもの、茉莉が布でぐるぐる巻にされ寝ていた。
そしてその可愛らしい顔をヴィヴィアーヌが拭いていた。
茉莉を泣かせましたね、万死に値します。
「海賊共が来ましたのですかな? 」
長い髭のローブ姿の老人が手をかざしながら私を見た。
はやる心を抑えてゆっくりと足を踏み入れながら配置を見る。
護衛は軍狼と呼ばれる銀狼人にはぐれの戦エルフだ。
二人といえど侮れない。
「私の大事なものを返していただこう」
バトルファンが開かないまま前に出し冷たい眼差しで敵を見回した。
「く、愚民の王子め、偉大な御方に捧げる大切さがわからぬのですな!!」
ローブ姿の老人がうめいて戦エルフの後ろに隠れた。
愚民どもをやってしまえと汚い声で命じてたぶん一番の手練の二人が前に出たあと、他のものはどこだとローブ姿の老人が視線を彷徨わせる。
残念ですね、すべて殲滅させていただきました。
倉庫の外から戦う音がする、たぶんお待ちかねの海賊も若き傭兵の引きいる班に全滅させられるでしょう。
ラミアシナ傭兵ギルド管理官の鬨の声は聞かなかったことにしていいですか?
「あくまで抵抗するのですね、わかりました」
冷たく微笑んだ、戦いに高揚する、やはり私もグーレラーシャ人だったらしい。
バトルファンを広げ構えた。
「さあ、逝く覚悟を決めなさい」
戦エルフを横ナギに切りかかり後ろに飛ばれ避けられた。
狼獣人はギアリウスに爪振り上げ槍で防がれている。
戦エルフが後ろにとんで距離を取り手を前にかざして光弾を打ち出したのをあっさりとラミアシナがバルディッシュで防いで見せた。
「なぜだ、なぜそんな毒婦が良いのだ」
青白い異様に細い女が声を上げた。
ワタクシの方がよっぽど清き乙女で美しいとわめいた。
明らかに麻薬中毒の様相だ。
姫様〜落ちついて〜と狼獣人がそちらに向かおうとしてハナウルスの鞭に尻尾を巻き付かれた。
ノーラミフィエは薙鎌を振り入ろうとする海賊を切り伏せた。
「もはやこれまでか……」
ローブ姿の老人が宝石がジャラジャラついた小型ナイフを掲げ茉莉の脇に立った。
「今こそ贄を捧げるときですぞ」
ナイフが茉莉の胸の真上に来た瞬間私はバトルファンをとばし駆け出した。
再び戦エルフが打ち出した光弾が肩をかすめる。
逝くなら一緒いきましょう。
「黒猫軍師殿下〜、俺の苦労はどうなるのさ〜」
ローブ姿の老人はナイフを扇で弾かれついでに筋肉オレンジ色の目男に殴り倒された。
「ヴィヴィアーヌ」
「けったくそ悪い、大ボケジジイと気色わりぃ女の相手してよ〜、別に重要でもないこのオレンジ色の目を崇め立てられて……あー気持ち悪かったぜ」
首回してをコキコキ鳴らしながらヴィヴィアーヌがうんざりしながら倒れたローブ姿の老人を足で抑えた。
この背教者〜と騒ぐローブ姿の老人を微妙に踏んでるのはストレスの現れだろう。
「お前……その姿が本当ならば」
「うん? 俺、あんたみたいなきしょい女嫌いなんだ、だから……俺に近づくんじゃねぇ」
青白い異様な女がこちらに来ようとして威嚇されふらついたところを海賊を制し手伝いに来たノーラミフィエに捕まった
まあ、猛獣ですからね、ヴィヴィアーヌは。
女言葉つかいを潜入用と聞かされたときなんか魂が抜けました。
戦エルフは傭兵業務だけ使える拘束符でギアリウスに行動不能にされてるし、狼獣人はハナウルスの鞭でぐるぐる巻きで姫〜と叫んでる。
そんなことより、茉莉です。
怖がらせないようにゆっくりと茉莉に近づく。
青黒い包みが震えた。
「茉莉、さあ、帰りましょう」
「で、殿下〜」
茉莉が目に涙を浮かべてる。
怖かったねと包みごと抱き上げて力いっぱい抱きしめた。
なんかジタバタしてますが……
「あー殿下〜マツリ姫、死んじまうよ、ソフトタッチが異世界人の基本って、異世界取り扱いマニュアルに……」
「茉莉、茉莉〜」
ぐったりとした茉莉に今度こそ、母上様監修の『異世界取り扱いマニュアル』を読破しようと心に決めた。
息はしてますよね、良かった。
もししてなければ、茉莉を追って逝くところでした。
父上様を見習って、茉莉を腕の中から出さないようにしなくては、心配で日も夜も明けません。
でも、働き者の茉莉も尊敬してるんです。
だから、一生一緒にいてください。




