2-13
「いや~、おばちゃんのパン美味しかったね。さすがって感じ」
「うん。おいしかった」
女将に貰ったパンをぺろりと平らげ、ルクリアとモモは店を出て再び帰路につく。長居こそしなかったもののすっかり陽は落ちて、瞬く星々に負けないほどの明かりを灯した食堂や酒場が街路を賑わせる。
「これ……このせきぞうってもしかしてせいりゅう?」
商店街の通りも出口に差し掛かった時、誰の目にも止まるように置かれている石像を指差してモモが言う。巨大な一対の羽をピンと天に伸ばして、蜥蜴のように膨らんだ胴体とそれを支える頑強な二本の脚、スラリと伸びる尻尾。そして遠吠えをするかのように掲げられた頭部が印象的な石像だ。
「これ? う~ん、どうなんだろうね。どっちかっていうとドラグーンにそっくりだよね、この変な石像」
ルクリアはそう言いながら、ぺしぺしと石像の脚の付け根あたりを叩く。
「どらぐーん見たことあるのか?」
「ないないっ! 本で絵を見たことがあるだけ。めちゃくちゃ凶暴で、はち合わせたら最後、な~んて書かれてたよ。おっそろしい~」
やはり子供は大きな生き物に憧れるものなのだろうか。モモは残念そうな表情をして、ルクリアと同じように石像に触れる。しかし思っていた以上に冷たかったのか、すぐに手を離すと一言。
「……つかれたからかえる」
「そうだね~。かえろっか」
ルクリアは少し冷たくなったモモの手を取って、暖めるようにして手をつなぎながら石畳の街道を歩く。ふと夜空を見上げると、モモを連れて帰ったあの日と同じように、満天の星空が視覚をくすぐった。
あの日と違うのは、モモがちゃんと自分の力で歩いていること。
「……良かった」
ルクリアの漏らした小さなひとりごとは、街の喧騒に紛れて宙へと消える。けれどモモにはそれが断片的に聞き取れたのか、怪訝そうにルクリアの顔を覗いている。
「なんか言ったか?」
「ん~? お腹減ったな~ってねっ」
「ついさっきくったばっかりだろ……」
そのまま正直に言うのも恥ずかしいので、適当に誤魔化すルクリア。心底呆れたようにため息をついて、モモは小さく笑う。
食いしん坊だと思われているような気がしてなんだか癪だけど、笑ってくれたしいっか。と思いつつ、ルクリアはもう一度心のなかで、良かった、と呟いた。