祭りの日に僕がいた。
【Twitter企画30作目】
僕は走っていた。
夜は深まり、腕時計を見ればすでに12時を回っていた。
こんな夜中まで一体何をしていたのかというと『遊んでいた』。
あぁ、勘違いしないでほしい。この『遊び』は別にそういうような類いのものじゃない。僕はお祭りに行っていたのだ。
このお祭りはこの町特有のものであるらしく、毎年この日になると朝の5時から3日後の朝5時まで3日間開催する。
町のメインストリートをまるまる封鎖して、中央の広場では常になにかイベントをして、1日中いてもまったく飽きないのだ。
そのお陰か毎年この時期になると観光客が10000人ほど来る。まぁ、それでもまだ全国的には少ないだろうが、この町からすればこのお祭り期間に来る10000人は一年での観光客の90%以上を占める。
そして、僕はこの町の住人であった。しかも、今年は運悪く、僕の町内会が運営を担当することになってしまった。
このお祭りは毎年運営が異なる。しかし、完全に運営の組織が変わってしまえば、それはとても効率が悪いし、お祭りの出来も悪くなる可能性がある。
そのため、お祭りの運営には指揮官とも言うべき人がいる。その指揮官はこの町で1番の年長者が担当することになっており、10年前から指揮官は変わらずに『ゆーさん』が担当している。
そして、『ゆーさん』は運営となる町内会を毎年くじ引きで決める。前の年に担当した町内会を除き、その他の町内会の代表を集めて、公平にするらしい。
そして、その結果僕の所属する町内会が運営を担当することになってしまった。
そして、僕の運営での担当は『遊ぶこと』だった。遊ぶと言っても子供の『遊ぶ』とはすこし異なったものである。
僕は出店やイベントを回って『これはこう遊ぶのだ』ということを観光客に伝えることを担当させられた。理由は簡単。
「1番若いから」
だそうだ。
迷惑な話であるが、しかし、従うしかないのならば従う。そうしなければいけないのだから仕方がないだろう。
さて、ここでやっと言い訳を締めよう。
10分前。
僕は任せられた仕事をこなして一段落していた。基本的に僕の仕事は早めに終わる。すべてのところへ一通り行ってそれを見てた1人が理解すればいいのだ。そうすれば自然と他の人にも伝わる。ドミノ方式とかいうものだ。
だから僕はお祭りの会場である公園の隅のベンチでグダーとしていた。
あとは定期的に始まる体験型のイベントをやっていけばいい。しかも、次の体験型イベントは5時間後である。
「はぁ」
僕の口から自然とため息が出る。
さすがにこれまでの仕事量が多すぎた。5時間あるとしてもやはり寝るために家に帰るわけにもいかないし。
つまり、この空白の時間はただ時間が過ぎるのを待つしかない苦痛の時間なのだ。
「やってらんないよなぁ」
僕は誰に言うわけでもなく呟いた。
「ん?」
僕の耳はそれを聞き逃すことはなかった。
女の子の泣き声が聞こえた。幼めの声だ。
僕は声の主を探した。
くるくると顔を回す。
「あ、」
声の主は存外近くにいた。僕の座っているベンチの向かい側。反対のベンチの前でその子は泣いていた。
お祭りであるためか、すこし、きれいな服を着ていた。しかし、その服には泥がついていた。
僕はそっと立ち上がるとその少女に近づいた。
近くにいくとしゃがんで少女に言った。
「どうしたの?」
僕はできる限り優しく言った。
「わ、たし怒られちゃう。。。せっかく───、もう、やだ。」
しょうがない。僕は改めてゆっくりと言った。
「落ち着いて。はい。深呼吸しようか。すってー。はいてー」
少女は僕に合わせて深呼吸した。しばらく、していると落ち着いたのかはわからないが、泣き止みはした。
「それで、どうしたの?」
僕は聞いた。
「洋服がよごれちゃった。」
簡潔だが、しかし、必要最低限の情報は得られた。
つまり、この少女はお祭りですこし、ふざけてしまったのだらう。そして、運の悪いことに転んだりして、洋服を汚してしまった。なるほど。
「怒られちゃう」
「わかった。」
僕はその少女の頭を撫でて言った。
「すこしだけ待っていてほしい。そしたら僕がその洋服をきれいにしてくるよ」
僕は着ていた上着を渡してトイレに行かせた。そして、服を脱いで来てもらった。
「はい」
僕に服を渡して、少女は言った。
「じゃあ、またトイレに隠れてて。変な人に捕まったら困るからね」
「おにいさんも変だけど………」
「あ、あはは」
僕はすこし申し訳なく思いながら言った。
「ちょっと待っててね」
そして、僕は走っていた。
少女の洋服だが、この泥はもはや落とせるような代物ではない。なかなかに染み込んでしまっていた。恐らく、昨日の雨による水溜まりに浸かってしまったんだろう。
僕はその少女の洋服を偶然持っていたビニール袋に入れてメインストリートをできるだけ早く走っていた。
このメインストリートは店が向かい合うように建ち並んだ便利な道だ。そして、もちろん洋服屋も存在する。
僕は少女には泣いてほしくはなかった。あのまま泣かれてしまっては目覚めが悪い。あの時は落ち着いたが、ひとりになればまた泣いてしまうかもしれない。
できるだけ人が泣く姿は見たくない。見てしまったなら助けないといけない。そんなことを僕は思っている。
洋服屋は公園からメインストリートにまっすぐ入って右に500メートルのところにある。僕も時折利用しているので場所はすでに記憶してある。
「はぁ……はぁ……」
僕は息を切らしながら洋服屋のドアを開いた。
店員は僕の姿はみてすこし、引いたようだが、今ははそんなことを気にするときではない。
僕は店員のいたレジにまっすぐに向かって行き、言った。
「はぁ………すみません……この服と……」
僕の声はすこし、荒かったが、気にしない。
「この服と…同じ服をください……」
僕はそう、店員に言った。そして、袋の中身を見せた。
店員はそれを確認すると頷いた。
「わかりました」
そう言うと店員は店の倉庫へ向かっていった。
僕はその後ろ姿を見ながら呟いた。
「ひさしぶりに走ったなぁ」
と。
意外に洋服を探すのは早く、店員は3分後に帰ってきた。
「こちらが同じ服だと思います。ご確認ください」
店員の腕にある服を見るとそれはまさに少女の服であった。
「これです!ありがとうございます!」
これで、あの子は泣き止んでくれるだろうか。
あ、そう言えば。
「いくらになりますか?」
幸運なことに僕は財布をもっていた。まぁ、いつも持ち歩く癖がついてしまっていたから当然だ。しかも、今日はお祭りである。もし、クラスメートに会ったらそれなりに付き合わないといけないだろう。
そんな無駄なことを考いつもよりもえて僕の財布はいつもよりも英世が多目に入っている。ついでに諭吉も。
店員は僕の質問に答えた。
「3000円です」
「わかりました」
僕は店員にちょうど3000円を渡す。
「レシートはいりますか?」
「大丈夫です!」
そう言って店から飛び出すと僕は再び走り出した。
走る。走る。走る。
周りの人が僕を見ている。それはそうだ。
僕は袋に入れた服と同じ服を脇に抱えて走っているのだ。しかも女の子用。
どうみてもおかしいだろう。注目の的になるのは仕方ないことだ。しかし、ここで足を止めるわけにもいかない。
僕はただ走った。
そして、あの子を泣き止ませたかった。
公園に着いて、すぐに僕はそのあの子を呼んだ。
「おーい!」
そう言えばあの子の名前を聞いていなかった。これではどうすることもできない。いや、あの子が僕の言うことをちきんと聞いていればあの子はたぶんトイレの中にいるはずだ。
僕は公衆トイレに向かって呼んだ。
「おーい!服をきれいにしてきたよー!」
僕はトイレに響くような声を出した。
すると中から鍵をあける音が聞こえた。
ふぅ。これで泣き止むといいけど。
すこししてあの子が出てきた。
「ほんと?」
僕のぶかぶかの上着を着てそっと出てきたその子の顔はすこし怯えたような、疑うような、そんな顔をしていた。
僕はその子の頭にそっと手を置いて言った。
「ほんとだよ」
そして、抱えていた服を少女の前に広げて見せた。
その服を見たとたんに少女の顔には喜びが浮かび、目を輝かせた。
「わぁ!」
自然と少女の口からこぼれる声。
それを聞いて僕はその本当に嬉しかった。
その気持ちをそっと隠しながら僕は自慢げに言った。
「ほらね?僕は嘘は吐かないんだよ」
少女のさっきまでの疑うような顔から少女は僕を、おそらく『嘘吐き』などと思っていたに違いない。
だからこそ僕はそんなことを言ってみた。
「ばれてた………」
「あはは。ほら、それより服を着てきなよ。まだまだお祭りはあるし、おかあさんと一緒に来てるんでしょ?」
言うとその子は言った。
「うん!ありがと!おにいさん!」
満面の笑みで僕に上着を返してトイレの中に入っていった。
ふぅ。
「ひさしぶりに疲れた」
僕は静かにその場から離れた。
公園の時計を見てみると僕が少女と会ってから30分ほど経っていた。
これからあの少女は祭りを楽しむのだろう。
だったらあの少女が楽しめるような祭りを流れるように進めよう。
次の仕事はなんだったっけ?
僕は祭り会場を歩き出した。
雲が割れて月が辺りを照らした。
ども。ミーケんです。
一応この企画も残るところあと10作となり、最初の方よりはクオリティーが上がっていればなと思っております。
では、この短編についてですが、
この話に関して言えば特に解説することがないのです。
ざっくりまとめてしまえば
『祭りの日に少年が少女を助ける』
だけのお話です。
実は書いてる途中で
「あれ?この主人公ってロリコンなのかな?」
とか思ってました。笑
では!また今年中に会えることを祈って!笑