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前日談

「或る少年武将の苦悩」)の、少し前の話。純一郎(じゅんいちろう)の父ちゃんとその小姓の会話。ブログより1部修正して。

財前兄弟のおとんは、飽くまで公たる人間なもんだから、実の息子だろーとなんだろーと、領地の平和の為なら利用する気満々です。

有純(ありすみ)様、やはり時期尚早だったのではありませぬか」

「んー?」

 私が筆を滑らせていると、傍に控えていた小姓が言う。

亥清(いのすみ)様はまだ15歳であらせられるのですよ? 加澄(ますずみ)様にしろ同じ事です、双子なので御座いますから」

「でも領主としての能力はもう充分だろう、遅かったくらいだ」

「しかし経験値というものが御座いますでしょう」

「そんなのこれから嫌でも積めるだろうよ、何せこの戦乱の世だ」

 書状の最後に花押を書き入れる。筆を持ち上げ、ふり返った。小姓はまだ複雑そうな表情だったから、私は笑って見せた。

「あのね。純一郎はああ見えて私や真次郎よりも戦に関しては強いよ。教えたら飲み込みも早かったし、本人もちょっとやそっとの暗殺じゃ死にゃしないくらい丈夫だしね」

「はぁ……」

「あの子、幾ら毒を盛っても平然としてたからね」

「……あの、有純様。今のお言葉……」

「あの子も知ってる事だ。鍛える為に少しずつ毒を盛っていったのに、最終的に致死量入れても何ともなかったからね」

「…………」

 小姓が呆れたような顔をした。私は顔を前に戻す。

 墨が乾くまではまだ時間がかかる。

 ……好きで、自分の子供に盛った訳じゃない。この戦乱の世だ、少しでも不安材料は減らした方がいい。少なくとも、ウチの息子達には毒殺される危険はほとんどなくなった訳だ。

 もっとも、あれでまかり間違って死んでたら、その時はその時だったが。

「……とにかく、純一郎は経験値さえ積めば立派な武将になれるよ。そうだね、あの子は平和の方が好きだから、少なくとも民の命を優先する、そういう立派な君主になってくれるよ。それこそ、自分の身よりもね。出来れば、生き延びて欲しいんだけど。この家の長男として生まれたからには、そうなって貰わないと駄目だから」

「…………」

「さて、乾いたな」

「……ところで有純様、先程から書かれていたその書状は……?」

「ああ、これ手紙。届けて欲しいんだ」

「はっ、どこにでございますか」


「伊達」


「…………はぁっ?!」

 手紙を折り畳みながら目的地を告げれば、若いからだろうか。上の息子よりも賑やかな声が背後から上がる。私は書状を小姓に渡すべく再び振り返った。笑って言う。

「何、挨拶だよ挨拶。『この度ウチの長男の純一郎が跡を継いだんでくれぐれも宜しく』ってだけ。そのうちこっちに来るとか言ってたしね、序でにその時顔合わせさせようかと」

「ちょ、だからってなぜ伊達に!? 以前からあそこはウチの鉱山狙って…家督継いだばっかの亥清様なんてあの手練手管の伊達にいいように言いくるめられますよ?! 経験値積む以前でしょう!!」

「何言ってんの。純一郎には対伊達じゃ有利な、私達にない経験値があるよ」

「は……」

 私は言った。

「純一郎、誰に似たのやら、衆道がこの家の誰よりも好きだろう」

 小姓が、視線を逸らす。そういえばこの子も、衆道が苦手な子だったな。農民出身だし。

「……まぁ、貴男様や加澄様よりも綺麗所の小姓お集めになっていますからねぇ。それどころか衆道のお嫌いな加澄様の為に取り揃えられた綺麗所の家臣にも手を出す始末ですし」

「『女性は正室以外要らないし無用に種を蒔きたくない。男はただの性欲処理です』なんて前に言い放ってたからね、色に溺れる心配がないのはいいんだけど」

「それで、それが対伊達にどう役に立つと……?」

 小姓が首を傾げる。納得がいくまでは私の書状を受け取るつもりがないらしく、手を宙に浮かせていた。いい加減手が疲れるから文机に肘を突くと、私は言う。

「今の伊達の主は『英雄色を好む』って言葉通りの人なんだよ」

「ああ……えーと、この間で何人目の奥さん貰ってましたっけ」

「もう5人は下らない筈だよ。お盛んだよねー。

 そんでね、あの人、衆道もいける口らしいんだわ。他の武将と同じようにね」

「……あの、有純様、貴男まさか」

 小姓の頬が引き攣る。私は頬杖を突いて笑った。

「うん。純一郎はあの年で相当そっちの意味で遣り手らしいから。それにあの見た目だからね、そっちに興味のない同性も誑かすレベルだし。いざとなったらそっちで落とせば」

「あんた自分の息子に何させる気ですか!?」

 怒鳴る小姓に、私は首を傾げた。

「何って……ナニ?」

「あ、あんた鬼だー!!」

 小姓の雄叫びは結構煩かった。


 結局押し問答の末小姓は書状を受け取って届けに行ってくれた。良い小姓を持って幸せだなぁ。

 ……この奥州に領地を構えているうちは、いつかはあの伊達と対面しなきゃいけないんだ。何かで上回って見せないと。

 まあ、ちょっと痛い思いをするかも知れないけど、大丈夫だろう。若いし。

 そして私は、妻の菩提を弔いに行く為に私室を後にした。


前日談


「そういう訳だから、近いうちお前、伊達と対面して貰うからね」

「ちょっ……ち、父上!? 何の話ですかー!? あんな怖い人と何しろって!?」

「何って……ナニ?」




End.

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