030423 デモ→白墨
4月23日。
その日は、昨日の移動性高気圧に変わって日本海を低気圧が進もうとしているため、全国的に曇りか雨の天気が予想されていた。
そして、空はどんよりとした雲に覆われ、今にも雨が降りだしそうに見える。
「……2件目の射殺事件、か」
スマホの画面に写し出されたニュース。
やはり荒浪さんと同じく大衆党の分裂を止めた七人衆の1人だった 党の中で元大衆党派を取りまとめていた萩さんの、高速道路上の一般人を巻き込んだ射殺事件は、その荒浪さんの事件以上の衝撃を連邦にーーいや、列島に及ぼした。
一般的に移住して父系で3世経った時に家族まるごと移住先の民族と定められる連邦で、2世だった荒浪さんは列島の住民の大多数を占める日本人ではなく、その役職の部分で注目された点が強い。
一方で、萩さんは先祖が元河内国重臣という日本人であり、日本人の重鎮が襲われるのは、15年前の羽柴警察庁長官銃撃事件以来かつ、警察から『容疑者は燈川学園出身者』という要らない情報がもたらされた直後という最高のタイミングでの事件だったので、主なる無知の一般人の矛先が刃先を見せつける相手は、事件の情報がもたらされた時から決まったような物だった。
『鉄道を使う全学生に通達。
北咲洲駅で大規模なデモが始まったため西九条を経由せよ』
学園長名義で、岸田先生を経由して送られてきた文に従って、私と鈴蘭は新今宮駅で環状線に乗り換えて西九条に向かう。その新今宮で、魔法科の志村さんと合流して。
自己紹介の時と同じようにではなく背中まで伸びた縮れた赤毛を縦編みにまとめている彼女は、私とたまたま立つ位置が隣になって、挨拶した後、一言呟いた。
「なんで土日にやらないんだろうね?」
「暇だからだと思います」
直球の質問にど真ん中で答えたのは、私ではなく私の隣の鈴蘭。
周りの空気がしんとしたのが分かったが、構わず私を挟んで2人のど真ん中同士の会話は西九条まで続いた。
「結局はソーサラーの馬鹿野郎を滅ぼせば良い」
5駅の間に交わされた短い会話で、会ったばかりの2人は通じたらしい。
片方がドラゴンなので出来そうな気がする結論に達し、がっしりと私と冷や汗を書いているサラリーマンの間で固い握手を交わした。
……鈴蘭の育て方、間違ったかな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
生徒会から御嶽さんを介した化学部の依頼受諾の報告を姫音さんを介して聞いた以外は、何事も変わった事もなく過ごした後の昼休み。
LRH部5人と化学部3人は、高等部の校舎の屋上にいた。
「一緒に食べますか?」
「良いのか?」
「もちろん大丈夫ですよ」
必ず先生がいることを条件にして開かれている不完全なコの字の縦線の上にある屋上で、学生は昼御飯を食べる事が出来る。
「今回、大阪駅の方から派手なヤツを頼むと言われたから、二フッ化酸素と石膏の主成分を作ろうと思う」
『………………?』
「まあ、二フッ化酸素なんて知らないわよね」
フッ化酸素とはフッ素と酸素の化合物の事を言い、二フッ化酸素は5種類あるフッ化酸素の1つの事を指す。フッ化酸素の中では最も安定している気体なのだが、強い酸化力に特徴があり、塩素や臭素およびヨウ素と二フッ化酸素とは室温で爆発するし、水蒸気と混合しても室温で爆発する代物だ。
今回はその性質を利用して、大阪駅の屋上で行われるショーの時に爆発させよう、というのが大阪駅ーーというより鉄道庁とまとまった今回の企画。
そして、石膏は美術に使われる代物だという事は、よく知られている事だ。
「原材料は水、チョーク、塩、蛍石、硫酸の5つです」
「硫酸、ですか?」
「ええ。燈川系列の会社から蛍石と一緒に借りれる事になりました。塩は化学室から、水は大阪駅から、チョークはこの学園からです」
「本番は5月10日か」
「はい。状況次第になってきましたが」
ひとまずは、今日の放課後にチョークと塩を集め、毎週月曜日と金曜日が化学部の活動日なので、その両日に練習をする事になった。
そして、何事もなく放課後を迎える。
「ありました」
「……古いですね」
旧校舎の階段を上がった所にある最新式の自動改札機&金属探知機がセットになった機械を通って、入り口の扉に『物置』と家庭科部作と見られる暖簾がかけられた部屋、つまり部室にある黒板が眠っていた『物置』に、チョークの集まりがあった。
4つの木棚の1つにチョークが集められた箱が置いてあった。恐らくこれが江渡生徒会長が言っていた代物なのだろうが、木箱の前面に墨ではっきりと書かれていた。
『1914年から1934年の間に残った白墨、ここに集う』
…………本当に使っても良いのだろうか?
生徒会を経由して、雨降学園長に確認を取って、他の人も驚きつつ、少しだけ残して使う事に決めた。
ちなみに、私達が学園を出た4時半の時でも、まだ咲洲ではご苦労な事に続いていたらしく、部員全員が西九条まで一緒に帰るという稀な経験をした。そして、そこから何時もとは別の道を辿る。




