030420 図書館→漫才
明けて、4月20日日曜日である。
今日は二十四節気の1つである『穀雨』の始まりの日であり、今年は正午過ぎにその始まりの瞬間を迎える。ちなみに穀雨は田畑の準備が整い、それに合わせて春の雨の降る頃を意味するらしい。そして、天気はというと、昨日からゆっくりと日本海から南下してきた前線が列島の上空で居座り、降り始めも降り止みも突然な驟雨が降っている。この驟雨の中でも特に短時間で止むような一過性の驟雨を『にわか雨』という。
以上の事を、朝の天気予報で知った私は、鈴蘭と一緒に学園に向かった。定期はなるべく多く使った方が得するし。
「結局、解けなかったね」
鈴蘭、的確に気にしてる所を言わないで。
列車を乗り継ぎ、パラパラ程度なので傘も差さず、待ち合わせ場所である図書館に向かう。
「何時見ても大きい」
とは、あまり見てないはずの鈴蘭の言葉。
燈島の南側にある燈川大学の西隣にあり、高等部の校舎の横にある宗教施設の目の前にある燈島連邦図書館分館。
北半球戦争とその後の『フィンブルウェト』などの混乱が終わった1956年に京都の国会前の本館と共に開館した分館は、開館当時から『国民が読む本』を集め続け、議員専用に近い形になっている本館の所蔵本の数を91年には越えて、今や350万冊が収められ、300万冊が閲覧でき、その内6万冊が借りれる世界屈指の規模の図書館になっている。
開館40年目にあたる96年に改装され、ガラス張りが多い近代的な建物になった分館では、平日以上の一般人がおり、燈川学園の制服を着る学生の比率は更に小さくなる。
『おはようございます』
「Привет(やあ)」
しかし、分館の3階から延びている通路を渡った先の堤防の上に築かれた建物は別だ。
改装時に築かれ『海風館』と名付けられた、当時の学園長の考案らしい木造の建物の中は、燈川学園の学生しか立ち入り出来ず、中には体育を教え終わりその前は連邦陸軍部隊長だったボランティアのリュドミラ・ゼレマノフさんが見張っている事から、勉強する人にとっては『聖地』と言われている。
堤防の上にあるという立地上、長屋のような建物の中は真ん中を通る土の道の左右に、後ろを障子、横を作られて100年以上は優に経っているらしい屏風で区切られた部屋があり、その中で1人か2人が勉強している。
廊下を見渡せる出入り口の前の番台に座るゼレマノフさんに分館で即日発行される事もある許可証を見せて中に入り、そのまま廊下を突き抜ける。
『海風館』の出入り口と同じ障子の扉を開けると、目の前に飛び込んできたのは図書館側を木の板で、海側を水の魔法である『水壁』で区切られた緑の広場。ゼレマノフさんと有志が設置する天井で覆われているので、学園の見学の時にちらりと見れた草原のような光景は見れないが、扉から見て前と右に大阪湾が広がっているのは圧巻だった。
「ここが『南天』なんだ」
鈴蘭が感嘆している間に、一番奥の方に目的の人々がいるのを発見した。
ここが燈島では南西の角にあるので、鬼が入ってくる方角と言われる北東の反対の裏鬼門にあたり、その厄除けとして植えられた植物から名付けられた広場には、鬼を倒せると言われるゼレマノフさんと図書館の許可を貰えれば、ある物達の持ち込みがいける。
9時より早く着いていた御嶽さんと木菟は、既に卓袱台を持ち込んでいて、その上に置いた暗号文をじっと見ていた。
「むぐん!?」
だから、木菟の口と胡座を書いている足に手を置いて、電流を流した。
暗号文に集中していた御嶽さんが私達に気付いて唖然とする中で、早くも痺れから回復した木菟と視線を合わせて、にやりと笑いあう。
「これぞ魔法漫才!」
『ドッキリ大成功』とお手製の紙を出しながら、木菟が声を上げた直後、後ろから殺気を感じる。
振り向きながら静電気を起こして高速で迫ってきた物体ーー特大の氷柱ーーを壊して、鈴蘭が迎撃した細長い氷柱にぶら下がっていたバケツを掴んで、割れた氷を入れる。
「なぜ私を?」
掴んだ頃に扉を開けた水の魔法使いのレベル8であるゼレマノフさんが現れたので、大きな破片は全て中に入った事を確認した後に聞いてみる。
ハリセンを持ったゼレマノフさんはスパーン! と、勢いよく木菟の頭をはたいた後、ぽつりと低い声で一言。
「大丈夫だったからだ」
……どんな意味で?
こうなる事をわかりながら昨日これを持ち掛けてきた木菟の頭を1度だけ撫で、鋭い視線を向けてくる普通科在籍の鈴蘭を一瞥した後、ハリセンとは逆の手で穴が空いた『水壁』を修復するゼレマノフさんには聞くことが出来ず、2人を見るが、木菟はどや顔と笑顔を浮かべ、御嶽さんは呆けたままだった。
結局、魔法は中学2年の時以来に見たという御嶽さんが戻ってくるには、まだ少しだけ時間がかかる。




